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私の腐れ幼馴染は復讐されかけている。  作者: 田舎のゴミ箱
腐れ幼馴染の復讐者達。
6/6

西原 燈

被害者3人目。

「……ふうん」


 年頃の高校生にしては、少々飾り気のないマンションの一室。

 学校から戻り、緩めの私服に着替えたばかりの少女——アカリこと西原燈は、小さなソファに体を預けていた。


 彼女が見つめるスマートフォンの液晶画面には、グループの1人から送られてきていた、1枚の写真。

 そこに映るのは、談笑しながら友人と帰る、八代団十郎の姿。


「……ふーん」


 ふと、机の上に置かれた鏡を見る。

 そこに映る、自分の顔。


「——危ない危ない」


 一息ついて、アカリは顔を伏せる。

 もう一息ついて、伏せた顔を上げる。

 そうすれば、鏡に映るのは、いつもの自分の笑顔。

 

 いつもの笑顔の仮面を強力接着剤で隙間無く張り付けた、アイドル・アカリンの愛らしい笑み。

 

 周囲を魅了してきた、何万回と練習してきた、最も”釣れる”笑顔。

 元気いっぱいで、愛らしくて、少しズボラ。

 実はかなり毒舌で、甘いけど、一筋縄ではいかない。

 そんな、ハードキャンディみたいな偶像——アイドルの仮面を一瞬で生成したアカリは、頷きを一つ。


「うん、今日もカンペキ♪」


 そのままスマートフォンのカメラで自撮りし、慣れた手つきで加工。

 下書きを吟味して、SNSに投稿する。

 1日の投稿ノルマはもう達成していたが、たまにはいいだろう。

 スマートフォンをベッドに放り投げて、アカリは伸びを一つ。

 そのままテーブルの横に置いてあった鞄から、4枚の写真を取り出す。


「氷川良子。文武両道の良家・氷川家の中でも頭一つ抜けた才女。生徒達からは勿論、教師からの信頼も厚い『氷の女帝』」

 

「甲佐由紀。新人賞から数々のコンクールで受賞、現在連載を2本抱える現役女子高校生作家。ペンネームは『すなうさぎ』。代表作は中学時代に書いた『夜の砂場』」

 

「宇城鈴。八代団十郎の小学校時代からの幼馴染。中学では生徒会副会長で、西高でも推薦で生徒会入りした『何でも屋』。特殊な家庭事情のため、様々な措置が認められている」


 4枚目のヤシの写真を、3枚の写真の真ん中に置いたアカリは、その写真達を眺めつつ、アカリは今までかき集めた情報を口ずさむ。


「さて? ——あなたたちは、どれくらい、カンペキなのかな?」


 アカリは、笑顔の仮面のまま、笑った。

 その目は、全く笑ってなどいなかった。




 

 別に、ヤシという男が誰と仲良くしようが。

 そんな男に、誰が恋をしようが。私は構わない。


 あの強引で、自分と同じくらいには性格が悪い男が、誰を選んだとしても、私には関係ない。

 

 あいつには——私という存在は釣り合わない。

 だから、自分にはそれを決める権利など無い。


 何カ月もかけてあの男の事を調べ上げたアカリは、知れば知るほど、ヤシという男と、自分との隔たりを感じていた。

 

 生まれながらにして、呼吸するように人を傷付け、振り回し。

 そして最終的には、多くの人を救ってしまうヒーローと。

 仮面をつける事でしか、舞台に上がる事ができない。人に愛される事もできないヒロインは、観客に歓迎されることはない。

 だから、私は構わない。

 彼女達、或いは他の誰かが、ヤシと結ばれたとしても。

 自分はそれを受け入れるだろう。


 

 ただし。


 

「あいつの隣に立つのなら。

 最低でも、私以上の”カンペキ”じゃないと——私は、絶対に認めない。」


 アカリは、ヤシの写真を手に取る。


 そこに映るのは、私という存在に火をつけた男。

 

 燃え尽きるその時まで、全力で走り続けなければいけない、道を示して見せた男。

 

 アイドルという偶像になった、私にとっての一番星。

 

 誰よりも光り輝き、手に入れたいと焦がれるスター。

 

 ——そんな存在である彼に、レベルの低いキャラクターなど、相応しくない。


 

 そう、彼は。

 八代団十郎は。

 私か、私以上の”カンペキ”を求める義務がある。


 

 そうでなくてはいけない。

 そうでないなら、許さない。

 認めない。

 



 ベッドに放ったままの、スマートフォンのアラームが鳴った。

 アカリは、ふと我に返った。

 時計を見ると、もういつもの”日課”の時間だった。

 

 アカリはゆっくりと立ち上がり、部屋のクローゼットの前に立つ。

 渋る両親を説き伏せ、一人暮らしをするために、事務所にセキュリティの万全な所を探してもらって。

 その中でもこの物件を選んだ決め手になった、この大きなウォークインクローゼット。

 そこの取っ手に——何故か掛かった大きな南京錠を、慣れた手つきで外したアカリは、ゆっくりとそこを開けた。


 



 中にあったのは、おびただしい量で内部を埋め尽くした、1人の男だけを映した写真たち。



 

 自分で撮ったり、様々な人々に”お願い”して手に入れたそれらと、クローゼットの中心に配置された品々を飾る棚。

 

 初めてプレゼントされた、アカリの好きなキャラ物の定規。一緒に勉強をする時に使っていたノート。片方ずつ半分こして、好きなグループの音楽を聴いた時のイヤホン。彼に貸して、返された時のままの状態で袋に封入したハンカチ。回し飲みした時の缶ジュースの空き缶。クラスマスプレゼントでもらったアクセサリー。


 その他多数で構成されたその空間は。

 まさに、アカリだけの<祭壇>だった。



 

 それをうっとりと見つめたアカリは、そのまま、手に持っていた写真をその中に加えた。

 更に”カンペキ”になったその<祭壇>を前にして、アカリは、言い表せないほどの幸福感に包まれる。


 事前に調べておいた、ヤシの家のある方向を背にして設置されている、その<祭壇>。

 そこに向かって、アカリは跪く。

 

 

 両膝を床につけ、両手を握って、目を瞑り、祈りを捧げるような姿勢のそれは。


 まさに、敬虔な信者そのものだった。


 

「——ヤツシロさま。」

 

 その名前を呟いたアカリは、不意に顔を上げた。



「今日も、貴方様のお陰で、わたしは、”アカリン”は——とても幸せです。」



 アカリは、壁の向こうに確かに存在する——自らが愛してやまない偶像(アイドル)に、笑いかける。

 

 

 先程のアカリンの笑顔とは似ても似つかない。

 暗く濁り、しかしギラギラとした瞳で浮かべた——とても純粋で、無邪気な笑顔。


 

 彼女以外誰もいないその空間の中。

 

 アカリは、いつまでも。

 いつまでも、満たされていた。

かなりヤバい人。

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