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ナハペトの王座  作者: 帆高亜希


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1/2

星が示した王は、おちゃらけ王子だった

…後歴五十一年。


二つの海に囲まれ、肥沃な大地を誇るナハペト王国は、先王ウォーノン二世の崩御により、

王位継承問題で揺れていた。



「絶対、ディルダス様が継ぐべきだべさぁ! なんたって正妃様が産んだ王子様だもの!」



「いやいや、ウォルガス様だべ! ウォーノン王が一番愛したエレーニ様が、先に産んだんだ!」



「なに言ってんだ、エレーニ様は愛妾だろうが! 身分でいえばディルダス様が上だ!」



「でもよぉ、ウォルガス様の賢さは王も認めてたって話だべ……」



庶民の間ですら意見が割れるほど、事態は混迷していた。


宮廷内ではなおさら、ティルダス派とウォルガス派に分かれ、対立は深まるばかりである。


その宮廷を、一人の男が足早に進んでいた。



——まさか、ここまで事が動くとは……——



男の名はチグラス。二十六歳。

王室お抱えの魔導士にして占星術師、さらに王の護衛を務める人物である。


長い黒髪をひとつに束ね、切れ長の黒い瞳は鋭く、見る者に威圧感を与える。

王からの信頼も厚く、国の重要な判断には彼の占術が用いられていた。



——すべては、三日前のあの時からだ——



******************



チグラスはウォーノン王に呼び出され、謁見の間にいた。



「で、そなたの見立てはどう出た? 遠慮はいらぬ、申してみよ」



齢六十二。

老いは見えつつも、その眼光はいまだ鋭い。


チグラスは跪いたまま、わずかな緊張を押し殺し、答えた。



「ウォルガス王子殿には——王としての資質が備わっております」



「おお、そうか! やはりな!」



王の顔がぱっと明るくなる。

最愛の妃が産んだ息子が認められたことを、

素直に喜んでいるのだ。



——だが、ここで終わらせてはならない——



チグラスは決意する。



「ですが……恐れながら申し上げます。ウォルガス王子と、この国との相性は——芳しくございません」



その言葉に、場の空気が張り詰めた。



「……まことか?」



「はい。偽りはございません。王子が国を治めれば——凶と出ております」



一歩間違えば首が飛ぶ進言。

だがチグラスは、この王が愚王ではないと信じていた。



「……そうか」



ウォーノン王は深く息を吐いた。



「確かに、あれは優秀だ。だがな——ファシムの言いなりになっておる」



ファシム。

エレーニ妃の兄にして、現宰相。


元はネオポリ帝国支配下グレコ出身の奴隷剣士。

だが才覚で成り上がり、妹を妃として差し出したことで、今や国政の中枢に食い込んでいた。



「このままでは、王ではなくファシムが国を動かすことになるやもしれぬ……」



——まだ理性は残っている——



チグラスは内心安堵した。



「ファシム殿の生年月日が分かれば、さらに詳しく占えるのですが……」



占星術師である彼にとって、生年月日は致命的な鍵だ。



——あえて隠している可能性もあるな……——



「しかし……ディルダスに王位を継がせてよいものか。あれは幼すぎる」



「すでに十四にございます」



「……そうであったな」



王は苦い顔をした。



「儂はエレーニに遠慮し、正妃の子を冷遇してしまった。充分な教育も受けさせておらぬ……」



正妃は隣国コルトリ王国の王女。

だがディルダスを産んですぐに亡くなり、後ろ盾を失った王子は、城の片隅でひっそりと育てられていた。



「今からでも遅くはございません」



チグラスははっきりと言い切る。



「適切な教育を施せば、王にふさわしい資質は充分に備わります」



月に一度の剣の稽古でしか接点はなかった。

だが星図が示すものは——決して愚鈍ではない。


世間では“おちゃらけ王子”と呼ばれているが、それは表層に過ぎない。



——あの王子は、化ける——



チグラスは確信していた。



「……よし」



ウォーノン王は頷いた。



「ディルダスを次の王とする。明日より、最高の教育を施す」



「御意」



こうして密談は終わった。


——これが、最期になるとも知らずに。


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