「ここにいていい場所」
いつも読んでいただきありがとうございます。
前回は少し重たいお話でしたが、今回はその後の穏やかな日常回になります。
フィラが少しずつ「ここにいていい」と思えるようになっていく様子や、そんなフィラに対する周囲の変化も感じていただけたら嬉しいです。
そして、相変わらず少し過保護気味な父にもご注目ください。
それでは、第17話です。
フィラが目を覚ましてから、しばらく――
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オズワルドは執務をフィラの部屋で行っていた。
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書類仕事も。
食事も。
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すべてを、フィラのそばで。
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「父様……」
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食事の時間になると。
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オズワルドは当然のようにフィラを膝に乗せる。
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そして、匙ですくったお粥を口元へ運んだ。
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「……あーんだ」
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「と、父様……フィラ……自分で食べれます……」
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顔を真っ赤にして訴える。
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だが――
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「駄目だ」
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あっさりと却下された。
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「お前はまだ病み上がりだ。全快するまでは俺が食べさせる」
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一歩も譲らない声音。
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(……うぅ……)
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恥ずかしい。
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けれど――
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嬉しい。
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前世では、一度もなかったこと。
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誰かに、こんなふうに世話を焼かれることなど。
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なかった。
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「……あーんだ」
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結局。
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フィラは大人しく口を開けた。
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それから十日ほどが過ぎ。
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ようやく、まともに動けるようになった頃。
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「父様。フィラ、今日からお勉強――」
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そう言いかけたフィラを。
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オズワルドが遮った。
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「やらなくていい」
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「……え?」
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思わず、固まる。
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「勉強も、魔法も、薬学も……今は何もする必要はない」
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静かな声。
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だが、その奥には強い意思があった。
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(……無理をさせたくない)
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あの時のフィラの言葉が、頭から離れない。
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“役に立たなきゃ、ここにいられない”
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(……そんな理由でやらせるつもりはない)
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「父様……」
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フィラは、少しだけ考えて。
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そして――
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にこりと、笑った。
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「フィラ……勉強したいです」
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まっすぐな瞳。
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「世界のことを知るのも……魔法も……薬も……楽しいです」
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その言葉に。
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オズワルドは、一瞬だけ目を見開く。
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(……そうか)
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これは。
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“やらされている”のではなく。
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“自分で選んでいる”のか。
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「……そうか」
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小さく息を吐き。
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「……なら、やるといい」
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そうして、ようやく勉強は再開された。
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だが――
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「……無理はしていないな?」
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「……疲れていないか?」
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「……今日はもう休め」
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やたらと様子を見に来る。
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「閣下……少々過保護では」
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ラルフが呆れ。
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ラースも苦笑する。
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ツェリは嬉しそうに微笑み。
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ローグは、面白そうに笑った。
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「ほっほっほ。若がここまでになるとはのう」
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「……黙れ」
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そんなやり取りの中で。
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フィラは、くすりと笑う。
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(……しあわせ……)
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やがて――
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「治療院の手伝いも、許可する」
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オズワルドの言葉が下りた。
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「ただし、護衛は必ずつける」
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「……はい!」
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久しぶりの治療院。
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ライオと共に中へ入ると――
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空気が、違った。
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「姫様!」
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「お身体はもう大丈夫ですか!」
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「この前は助かりました!ありがとうございます!」
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次々と声がかかる。
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人が、集まってくる。
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「……え……?」
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きょとんとするフィラ。
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その前に、すっとライオが立った。
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「……皆、落ち着け」
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そう言いながらも。
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どこか誇らしげに、フィラを見る。
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「……この間の戦で、フィラ様に助けられた者たちです」
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「……皆、とても感謝している」
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一呼吸置いて。
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「……姫様を否定する者は、もうここにはおりません」
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その言葉に。
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フィラの視界が、滲む。
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「……っ……」
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涙が、溢れた。
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「……よかったな、姫様」
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優しく声をかけられる。
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笑いながら、泣く。
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そんなフィラを。
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皆が、温かく見守っていた。
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また、ある日。
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オズワルドに連れられて街へ出る。
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以前は――
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領民たちの視線は、オズワルドにだけ向けられていた。
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だが、今は違う。
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「姫様、お元気になられて何よりです」
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「ご無事で本当に良かった」
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「さすがは閣下のご息女。共に我らの守護神ですな」
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向けられる言葉は、すべて温かい。
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「……父さま……」
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そっと、袖を掴む。
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「……わたし……ここにいて……いいんですね……」
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小さな声。
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だが――
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オズワルドは、迷いなく答えた。
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「ああ」
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その手を、しっかりと握る。
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「……お前は、俺の娘だ」
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その言葉に。
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フィラは、今度こそ。
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心から、笑った。
第17話を読んでいただきありがとうございます。
今回は戦いのあとの穏やかな日常と、フィラが少しずつ周囲に受け入れられていく様子を書きました。
治療院や街での変化は、フィラにとって大きな一歩だったのではないかと思います。
それにしても、オズワルドの過保護ぶりがどんどん加速している気がします……。書いていて少し楽しくなってきました。
この先もフィラの日常と成長を見守っていただけたら嬉しいです。
次回もよろしくお願いいたします。




