「小さなありがとう」
いつも読んでくださりありがとうございます。
決まった時間に投稿するのって、なかなか難しいですね。
昨日はログインに手間取ってしまい、少し遅れてしまいました。
それでも読んでくださった皆さま、本当にありがとうございます。
さて、第12話です。
今回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
オズワルドの娘として――
大公領に正式な声明が出された。
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その日を境に。
フィラを取り巻く空気は、はっきりと変わった。
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「フィラ姫、おはようございます」
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廊下ですれ違った魔族が、深く頭を下げる。
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「……お、おはようございます……」
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思わず、小さくなってしまう。
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かつての冷たい視線は消え。
代わりに向けられるのは――敬意。
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(……ひめ……)
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まだ慣れない呼び名に、胸がくすぐったくなる。
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「フィラ姫、本日もお勉強のお時間でございます」
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ラースの口調も、より丁寧になっていた。
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「……ラース……いつもみたいでいいです……」
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戸惑いながらそう言うが。
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「それはいけませんな」
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穏やかに、しかしはっきりと返される。
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「フィラ様は、閣下の大切なお嬢様でございますゆえ」
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その言葉に、少しだけ背筋が伸びた。
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午前は、ラルフの授業。
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「では本日は、各国の情勢について――」
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机の上に広げられた地図。
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「ここが人間の国々。そしてこちらが魔族領です」
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「……はい」
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以前よりも、集中して話を聞けているのが自分でもわかる。
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「では、質問です。両国を隔てているのは?」
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「……!」
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少し緊張しながらも、答える。
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「……ルシャの森、これが境界……です」
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「正解です」
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ラルフが、わずかに微笑む。
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「素晴らしい。よく理解されていますね」
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「……えへへ……」
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褒められることが、こんなにも嬉しいなんて。
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以前のフィラでは、考えられなかったことだった。
以前よりも、しっかりと理解できる。
答えることもできる。
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「……ありがとうございます……!」
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午後は、ローグのもとへ。
彼のフィラへの態度は変わらない。
それが少しホッとする。
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「ほれ、今日は少し難しい調合をやってみるかの」
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「……はい!」
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薬草を刻み。
火加減を調整し。
魔力を流し込む。
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「……そこじゃ、焦るでない」
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「……はい……っ」
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真剣な表情で、鍋を見つめる。
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やがて。
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「……できました……!」
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「ほう」
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ローグが中を覗き込み、頷く。
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「上出来じゃ」
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「……ほんとうに……?」
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「最初に比べれば、雲泥の差じゃな」
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その言葉に、ぱっと顔が明るくなる。
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そして――治療院。
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「……失礼します……」
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以前なら拒絶されていた魔族たちも。
今では無言ながら、腕を差し出してくれる。
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「……」
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言葉は少ない。
だが、その行動がすべてだった。
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そして。
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フィラの少し後ろに――
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ライオが立っていた。
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「……」
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何も言わない。
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ただ静かに、周囲に目を配り。
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フィラのそばを離れない。
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(……ライオさん……)
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気づけば、必ずそこにいる。
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護衛として。
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言葉ではなく、行動で示すように。
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フィラは、小さく頭を下げた。
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「……ありがとうございます……」
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ライオは一瞬だけ目を細め――
優しく微笑む。
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「……当然の務めです、フィラ姫」
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それだけを静かに告げた。
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――だが。
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「……その作業は危険だ」
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低い声が、背後から響く。
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「……!」
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振り向くと、オズワルドが立っていた。
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「……とうさま……?」
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「それはまだ早い」
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ローグが、くつくつと笑う。
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「ほう?先日までは任せておったがのう」
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「……あれは別だ」
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フィラの手から、そっと器具を取り上げる。
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「……これは俺がやる」
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「……でも……」
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「駄目だ」
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短く、きっぱりと。
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その様子を見ていたラルフが、呆れたように息をつく。
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「……閣下」
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「過保護が過ぎます」
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「……」
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オズワルドは、何も言い返さない。
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ただ――
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「……怪我をされては困る」
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ぽつりと、それだけを言った。
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(……とうさま……)
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フィラの胸が、じんわりと温かくなる。
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「フィラ様、こちらです」
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治療院の手伝いが終わると、
ツェリに案内され、ひとつの扉の前に立つ。
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開かれたその先。
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「……わぁ……」
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思わず、声が漏れる。
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柔らかな色合いの部屋。
可愛らしく整えられた家具。
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「フィラ様のお部屋です」
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「……わたしの……?」
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「はい」
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ツェリが、少し誇らしげに微笑む。
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「閣下が……」
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その一言に、フィラが振り返る。
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「フィラ様に部屋を用意するように、と命じられました」
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「……とうさまが……?」
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胸が、じんわりと熱くなる。
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(……わたしのために……)
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部屋の中を、ゆっくりと見渡す。
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どこを見ても、優しい。
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「……ありがとう……ツェリ……」
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「いえ……すべては閣下のご意向ですので」
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そう言いながらも、ツェリは嬉しそうに笑った。
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食堂。
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「……来たか」
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「……とうさま」
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自然に呼べるようになった、その言葉。
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席に着くと。
オズワルドが、ちらりとフィラを見る。
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「……今日は何をしていた」
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「……えっと……おべんきょうと……おくすりと……」
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一生懸命に伝える。
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「……そうか」
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短い返事。
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けれど、ちゃんと聞いてくれているとわかる。
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少しの沈黙。
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フィラは、ぎゅっと手を握る。
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(……いわなきゃ……)
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「……あの……とうさま」
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「……?」
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「……おへや……」
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言葉を探しながら。
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「……すごく……すてきでした……」
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オズワルドが、わずかに目を細める。
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「……そうか」
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それだけ。
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けれど――
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「……ありがとう……ございます……」
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フィラは、ぺこりと頭を下げた。
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「……」
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一瞬の沈黙。
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オズワルドは、わずかに視線を逸らし。
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「……気にするな」
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ぶっきらぼうにそう言った。
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だが。
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その耳が、ほんの少しだけ赤くなっているのを――
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フィラは見逃さなかった。
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(……とうさま……)
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胸が、じんわりと温かくなる。
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「……無理はするな」
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「……はい……!」
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それだけのやり取り。
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それでも――
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十分だった。
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「……とうさま」
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小さく呼ぶ。
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フィラは、そっと微笑んだ。
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その笑顔は――
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あたたかな日々の中で、少しずつ育まれていくものだった。
第12話をお読みいただきありがとうございます。
少しずつですが、フィラの居場所や周囲との関係が変わってきました。
こうした穏やかな日常も、大切に描いていけたらと思っています。
まだまだ成長途中のフィラですが、これからどんな風に変わっていくのか、見守っていただけたら嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします。




