第126話 勇者として
太陽を覆っていた影が。
少しずつ晴れていく。
世界へ。
再び陽光が降り注ぎ始める。
リオラとミヅキは、
巨大な光球へ駆け寄った。
淡い銀色の光。
その内側では。
黒い影が静かに揺らいでいる。
リオラは息を呑んだ。
「この光が……」
震える声。
「レグルスとエクリシウスなの……!?」
ミヅキは静かに頷く。
「そうですね……」
光球を見つめる。
その魔力を感じ取る。
「二人の魔力が……」
小さく息を吐く。
「一つになろうとしています」
リオラの表情が曇る。
「どうにかして……」
光球へ一歩近づく。
「レグルスを助けられないの!?」
ミヅキは答えない。
ただ。
静かに光球を見つめ続けていた。
――二人は。
――どこまでも相似的で。
――どこまでも対照的。
レグルスは。
暗闇の中にいた。
光はない。
音もない。
ただ。
果ての見えない闇だけが広がっている。
――ここは……。
静かな思考。
――俺は……。
わずかな沈黙。
――生きているのか……。
――死んでいるのか……。
その時だった。
微かな魔力を感じる。
レグルスは目を細めた。
――エクリシウスも……。
すぐ近くに。
その存在を感じる。
――一緒か……。
静かな確信。
――どうやら、
封じることはできたようだ……。
小さく息を吐く。
――よかった……。
意識がゆっくりと遠のいていく。
――ようやく……。
脳裏に浮かぶ。
皇子。
団長。
先生。
共に戦った仲間たち。
――みんなのところへ……。
その時だった。
どこからか。
声が聞こえた。
――レグルス。
優しい声。
――死なないで。
もう一つ。
聞き慣れた声。
――生きて帰ってきて。
暗闇の向こう。
二つの光が差し込む。
レグルスは。
静かにその光へ手を伸ばした。
だが。
黒い影が身体へ絡みつく。
冷たい声が響く。
――レグルス……。
――悪魔と呼ばれた男……。
影が囁く。
――お前に帰る場所はないだろう……?
絡みつく影。
――帰ったところで。
――また悪魔と呼ばれるだけだ。
わずかな沈黙。
――人間とは、
そういうものだ。
――強き者を崇め。
――強き者を恐れる。
――そして。
――都合が悪くなれば。
――悪魔と呼ぶ。
影はなおも囁き続ける。
――千年も生きた悪魔に。
――居場所などない。
だが。
レグルスの視線は揺るがない。
差し込む二つの光だけを見つめていた。
その時。
脳裏に。
あの言葉が蘇る。
――アウレリアの陽は消えない。
――セレナリスの輝きを未来へ。
そして。
王墓で見た、
アウレリアの記憶が蘇る。
産まれたばかりの赤子を抱く王。
「アウレリアの陽は――」
力強い声。
「まだ、
消えないぞ」
腕の中の赤子を見つめる。
「この子が王になる頃には」
静かな決意。
「この戦いを終わらせる」
母が微笑みながら問いかける。
「名前は――」
穏やかな声。
「もう、
お決めですか?」
父は静かに頷いた。
そして。
赤子を抱きしめたまま告げる。
「ソティス……」
わずかな沈黙。
「ソティス・アウレリアだ」
その言葉と共に。
レグルスは。
差し込む二つの光を掴んだ。
レグルスの身体は。
ゆっくりと光の中へ浮かび上がっていく。
なおも。
黒い影がその身体へ絡みつく。
――お前だけ、
行くんじゃない……。
低く掠れた声。
だが。
眩い光が影を包む。
影は抵抗するように揺らぐ。
しかし。
やがて。
その全ては光の中へ霧散していった。
レグルスの身体は。
完全に光へ包まれる。
眩い輝き。
その先に。
二つの腕が見えた。
次の瞬間だった。
レグルスの身体が。
光球の中から勢いよく引き出される。
「きゃっ!」
「わっ!」
そのまま。
リオラとミヅキの上へ倒れ込んだ。
リオラが顔をしかめる。
「っ痛ーい!」
レグルスを押し返そうとする。
「ちょっと!」
呆れたような声。
「重い!」
レグルスはゆっくりと身体を起こした。
そして。
目の前の二人に気づく。
静かに立ち上がる。
自分の両手を見つめた。
――俺は……。
わずかな沈黙。
――生きているのか……?
リオラも立ち上がる。
その表情が一気に明るくなった。
「レグルス!」
駆け寄ろうとした。
だが。
ふと首を傾げる。
「髪の色……」
レグルスを指差す。
鮮やかな赤。
その髪は。
アウレリア王家の色へ変わっていた。
ミヅキも静かに見つめる。
「レグルスさん自身の魔力だけを、
引き上げることができたようですね」
そして。
視線を胸元へ向ける。
「それに……」
小さく目を細めた。
「そのペンダント……」
リオラも気づく。
「それ!」
思わず声を上げる。
「エクリシウスに盗られた、
私のペンダント!」
レグルスの胸元では。
アウレリア王家の証が静かに輝いていた。
リオラは嬉しそうに笑う。
「いいじゃん」
満面の笑み。
「似合ってるよ」
レグルスは小さく目を細める。
胸元のペンダントへ視線を落とした。
その時だった。
光球の輝きが少しずつ弱まっていく。
ゆっくりと。
硬化を始める。
ミヅキはそっと手を添えた。
「この魔光石は……」
静かな声。
「この地へ埋めておきましょう」
その言葉に応えるように。
光球はゆっくりと大地へ沈んでいく。
やがて。
完全に姿を消した。
遠くで待っていたドラゴンも。
三人のもとへ静かに歩み寄ってくる。
リオラは周囲を見渡した。
柔らかな陽光。
崩れた聖地。
そして。
レグルスへ視線を向ける。
「さあ」
優しく微笑む。
「みんなのところに帰りましょ」
わずかな沈黙。
そして。
「今度は悪魔じゃなくて」
レグルスを真っ直ぐ見つめ、微笑む。
「勇者として」
レグルスは静かに頷いた。
三人は。
決戦の地を後にする。
太陽の光は。
一段と強く。
世界を照らしていた。
ここまで読んでくださった皆さま、本当にありがとうございました。
連載を始めた頃はここまで辿り着けるか不安もありましたが、無事に最後まで書き切ることができました。
また、評価や感想をいただけると、本当に励みになります。
次回作を書く大きなモチベーションになりますので、率直なご意見をいただけると幸いです。




