36.レーベルク男爵領改革会議①
(あれ? おかしくない? 今日ってレーベルク男爵領の改革会議のはずだよね? ね?)
──なのに、今この状況である。
豪奢なソファー。
そこに寄り添ってくる四人の美少女(そのうち二人は年上だが……)。
その背後には、控えめに佇む可憐な乙女たちが四人。
ここはキャバクラでもホストクラブでもない。
後宮──男の子なら誰もが一度は夢見て、妄想で鼻血を出す理想郷。
「旦那様……このチョコレート、本当に美味しいですわ」
さらり、とセリーヌの指がユーリの耳たぶをなぞる。
吐息混じりのその声音に、思わず肩がビクリと震えた。
そして、左肩にそっと頭を預けてくるセリーヌ・フォン・シュトラウス。
頬を伝う彼女の絹のような金髪が首筋をかすめる。
胸元のたわわな膨らみが、何のためらいもなくユーリの腕へと沈み込む。
──柔らかい。
いや、そういうレベルじゃない。
蕩ける。破壊力ヤバい。これは人をダメにする柔らかさだ。
年齢とともに柔らかくなるって噂、あながち間違ってなかったのかもしれない――
(どう考えても会議する体勢じゃないよね!? 何? このまま何始まるの!?)
肌越しに伝わる温もりと弾力が、絶え間なく理性を削ってくる。
しかもローズとバニラに洋酒を垂らしたみたいな、
あまりにも官能的な甘い香りが、鼻腔の奥をくすぐってくる。
その余韻が、じわじわと全身を包み込み――
(あぁ……やばい。これ……脳がパーになるヤツだ……)
セリーヌが摘んだチョコレートが、ユーリの唇にそっと押し当てられる。
ひと口で頬ばると、濃厚な甘さが舌の上でとろけた。
彼女は指先に残ったチョコをゆっくりと舌で舐め取り、うっとりとした瞳で微笑んだ。
「私まで、蕩けてしまいそう」
(蕩けてるのは、俺の前頭葉なんですが!?)
「そ、そう……良かった。商人のギフトでキャンペーンやってたから、つい……」
──ユーリが異世界で授かったのは、「金さえあれば何でも手に入る」という、
チートすぎるギフト《インチキ商人》。
だが魔術が使えない『残念貴族』と揶揄され、名門レオニダス家から追放されてしまう。
挙句の果てに婿入りした先は、よりにもよって貧乏領地。
ところが、そこで任された仕事は、まさかの『後宮運営』だった。
「やはり、貴方様のギフトは常識外れですわね……ふふっ。
イシュリアス遠征では、私も少なからず貢献いたしましたの。
ですから――ほんの少しだけ、甘えさせていただいてもよろしくて?」
そう囁きながら、オフィーリア・フォン・クローディアスはユーリの左ももにそっと頬を預け、まるで愛おしむように甘く囁く。
艶やかな黒髪が流れ落ちる隙間から、アメジスト色の瞳がそっと見上げる。
細い指が脛をなぞり、膝頭で一拍おいてから内腿へ。
視線と指先が同じ軌跡を描くたび、鼓動が跳ね上がった。
本来はセリーヌとの結婚式に合わせて王太后が送り込んだスパイだったはずが、今やすっかり『トロトロのトロントロン』である。
「そ、そうだね……。皆が喜んでくれて嬉しいかな……」
(冷静になれ、俺……これは戦略的な懐柔だ……でも柔らかい……違う、そうじゃない!)
──次の瞬間、反対側の太腿にひんやりとした感触。
「……あの、皆さま。進捗会議の最中ですから、
そろそろ旦那様から離れて、資料に目を通しませんか?」
リーゼロッテ・フォン・シュトラウスが静かに言葉を投げる。
けれど、その左腕はしっかりとユーリの右ももに絡んでいて、頬にはほんのりと朱が差していた。
ちらと一瞬だけユーリの顔を見て、すぐに視線を逸らす。
「そう言いながら、リーゼもしっかり甘えているのでしょう?
旦那様のお部屋に毎日通っているようですけれど……。
ふふっ、旦那様はやっぱり若い子のほうがお好みなのかしら?」
セリーヌが微笑みながら口にすると、リーゼロッテは慌てたように身を起こし、
「ま、毎日なんて通ってませんっ! ……三日に一回くらいですわっ」
「え……? リーゼロッテ様、それは……私より多いではありませんの?」
オフィーリアは思わず目を見開き、小さく瞬きを返す。
「“我慢する”とおっしゃっていたのに……本当に、通っていらしたのですか?」
「だ、だって……旦那様が“子供はできないから大丈夫”って……そう仰ったんですもの……」
リーゼロッテは恥ずかしそうにうつむきつつ、ユーリの太腿を愛おしげにそっと撫でる。
(や、やめて……そんな優しく撫でられたら、俺の理性のHPが……)
「リリアーナは主様にくっつかなくていいのかニャ?」
唐突に響いたのは、テーブルの上に乗った黒猫──契約星霊・コクヨウの声だった。
金色の瞳が、じっと控えめに座る女性を見つめている。
「私は……皆さんのように積極的にはなれませんから。こうして見守っているだけで十分幸せです」
それでもどこか寂しそうに微笑むリリアーナに、セリーヌがやさしく促す。
「あら、リリアーナも遠慮せず旦那様に抱きついて構わないのよ?」
「えっ……そ、それは……」
頬がほんのりと染まり、まるで初雪に触れた花のように彼女はそっと身を寄せた。
ユーリと肩が触れ合うか触れ合わないかの距離──
その絶妙な間合いが、妙にくすぐったい。
「主様、こういうおしとやかなタイプほど、実は甘えん坊だニャ。あとでこっそり甘えてくるかもしれないニャ?」
「なっ……!」
リリアーナの頬が瞬時に真っ赤に染まり、両手をぶんぶんと振って否定する。
「そ、そんなことありません! コクヨウ様、変なことを言わないでくださいっ!」
(ま、マジか!! リーナとはまだなんだけど……いや、まだって何!?)
「甘えてくれても、ぜんぜん構わないからねっ!」
思わず口走った自分のセリフに、自爆した気分でユーリは硬直した。
「ゆ、ユーリ様……そんな……」
リリアーナは頬を紅潮させながらも、そっと小さくうなずいた。
そして彼女は、意を決したようにユーリの隣にぴたりと身を寄せ、肩が触れ合う距離で静かに座り直す。
(だ、誰か進捗資料の話してくれよ……)
「ちょっと、さっきからみんな旦那様にくっつきすぎじゃないですか!! まじめに会議しましょうよ!!」
珍しくまともなことを言ったのは、天然爆弾娘──
ユーリの専属侍女・フィオナだった。
顔を真っ赤にしながらも、拳をギュッと握りしめ、全力で空気を戻そうとしている。
そんな彼女に対し、すぐさまアイナが口を開く。
「ふふ……フィオナさん、それは少々、僻みが過ぎてしまっていなくて?
私たちは旦那様の下僕──」
「アイナさんっ! そ、そんな聞こえの悪いこと言わないでくださいっ!」
「……あ、ごめんなさい。間違えました。ご奉仕係でした」
「おいぃぃ!? それ、間違いの方向が悪化してるよ!?」
ユーリは反射的に総ツッコミを入れながら振り返る。
しかし、その背後ではリリィとアメリアがわずかに顔を赤らめ、小さく頷いている。
(いや、納得しないで!? なぜ満場一致で成立しかけてる!? 確かに、ご奉仕いっぱいしてもらってるけど……)
「も、もう、進捗会議始めるからねっ!」
ユーリは四人に拘束されつつも、ぎこちない手つきでマウスポインタを動かす。
机の上にはノートパソコンとプロジェクター。
商人のギフトを活用してこっそり購入した、異世界産の精密機械だ──現代日本なら普通の品だが、この世界には存在しない特別な代物。
雷神の神格を密かに使い、充電済みのバッテリーのおかげで電源にも困らない。
(いつの間にか、雷神と風神の力が自由に使えるようになってるけど……
一体なんでだろう?)
疑問を抱きつつも、ユーリはマウスポインタを動かし、プロジェクターで壁に資料を映し出した。
「……本当に、不思議な装置ですわね。
魔導具の気配は感じられませんけれど――それにしても、精緻すぎますわ」
オフィーリアが小さく呟き、指先でプロジェクターをそっと示す。
「“グラフ”と呼ぶのでしたわよね?
この前、エリゼさんがご覧になった際は……本当に大変な騒ぎでしたの」
リーゼロッテは微笑みながら、そのときの光景を思い出すように目を細めた。
「……売上が、こんなにも分かりやすく見えるなんて……。
もし、これがあの頃にあれば……イシュリアスの財政も、もう少しまともに整えられていたかもしれません。
叔父や家臣に、あそこまで勝手を許すことも……」
リリアーナも興味深げにグラフを見つめながら呟いた。
「で、でもそのおかげで僕はリーナと出会えたわけだし……う、嬉しいよ?」
「ゆ、ユーリ様……」
嬉しそうに微笑むリリアーナを見て、セリーヌの視線が微かに揺れる。
「……旦那様、そろそろ先へ進めませんこと?」
やや不貞腐れたようなセリーヌの声に、ユーリはハッと我に返る。
(あれ、さっきは笑ってたのに……もしかして、妬いてるのか?)
【あとがき】
読んでいただきありがとうございます!
後宮、ハレムは、2章から後宮で
統一していきたいと思います。
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