第23話「貴様に投降は勧めない。死罪は免れぬのだ」
「――”小僧”とは言ってくれるものだな、ディエゴ・イバルロンド」
俺たちとディエゴ側の間、突如として現れる人影。
姿が見えるよりも前に響いた声で分かる。
ディーデリック・ブラウエルだ。こいつがこんな風に現れるということは。
(……見てるな、レンブラントの奴)
アンソニーの独り言と同じ気分だ。
俺たちが作戦を仕掛けることはレンブラントに伝えてはいたが。
「っ、謀ったな……!!」
ディーデリックの隣にはマルセロの奴もいる。
ったく、何を考えているんだ、こんなところに連れてくるなんて。
「最初に言ったはずだぞ、自白するのならば早い方が良いと。
ディエゴ・イバルロンド、貴様の企みは私もこの子も見させてもらった。
ニコラスの次に領主になるべき、マルセロ・アルフォンソが」
――これを言うために連れてきたか。なるほどな。
外側のディーデリックだけでなく、領内のマルセロも居るのだと。
「っ……作戦通りだ」
ディエゴの奴が部下に視線を送る。
自分自身もアンソニーに吹き飛ばされた拳銃を拾い直して。
徹底抗戦の構えか。
ここで全員殺したとしても事後工作でどうにかなる範疇じゃあるまいに。
だが、それしかないのもまた事実ではあるな。完全に追い詰めた。
「ディエゴ・イバルロンド、貴様に投降は勧めない。死罪は免れぬのだ。
好きなだけ抵抗すると良い。だが、その後ろに立つ者たちよ。
今、武器を降ろせば死罪にはしない。寛大な処置を与えようじゃないか」
ディエゴの部下たちに動揺が走っているのが分かる。
けれど、その迷いはディエゴの放った銃弾が打ち消した。
防御術式は既にディーデリックとマルセロにも展開している。
まぁ、不要かと思ったが、万が一があるからな。
「――愚か者どもめ」
実際、俺の展開した防御術式は無用の長物となった。
ディーデリックとマルセロを守るように、鎧の剣士が現れたからだ。
俺のよく知る甲冑、俺の知る限り最強の剣士、バッカス・バーンスタインが。
しかもバッカスだけじゃない。次々と親衛隊が送り込まれてくる。
冒険者に王国騎士、ディーデリックが集めた彼の兵力が。
……転移魔法だ。レンブラントがやっているんだ。
そこからは鮮やかなものだった。親衛隊たちの連携はスムーズでディエゴとその部下なんかじゃ戦闘らしい戦闘にもならない。流石に現領主を殺すという作戦を教えられる部下ともなると人数が限られたのだろう。たった7人とは。
しかし、親衛隊側は随分と練度が高いな。
別パーティ同士の冒険者とは思えないほどの連携。
王国騎士団を織り交ぜているとはいえ、短期間のうちにここまで。
よくやるものだ、ディーデリックの奴は。
「――すみませんね。加勢は不要かとも思ったのですが」
スッといつの間にかこちらの真後ろから声がする。
割られた窓ガラスから入ってきた……わけではあるまい。
転移魔法で現れたのだ、仕掛け人が。
「ふっ、坊ちゃんに華を持たせないといけないもんな?」
「流石にグッドゲーム殿は話が早い」
「フン、お前が居ながらアレの化けの皮を剥がせなかったのかよ?」
拘束されていくディエゴを指差すアンソニー。
「そう言われると耳が痛いですね、答えが分かってしまえば一目瞭然なんですが」
確証がない段階では無茶苦茶もできないと。
「ところで、このゴーレムはバーンスタイン殿を模しているのですか?」
「ああ……私の知る限り最強の剣士だからな。
そういうアンタは、転移魔法の使い手だったんだな?」
かなり使い手の限られる魔法だと聞くが。
あの手首や首をあっさりと切断して見せた魔法も同じ技術だろうか。
これの応用な気もするのだけれど、よく分からない。
「見られてしまいましたね。これで模倣できたりするんです?」
「……いいや、まだできない。アンタの術式を見てない」
「ふむ、それは良かった。まだ私の希少性は薄れないようだ」
クスっと笑ってみせるレンブラント。
こちらがメモで報せてからの限られた時間でよくもここまで。
作戦決行を許可してくるのも随分と速いと思ったが。
「――牢屋に捕らえろ、牢屋にはこちらの者を常時4名以上配置だ」
ディエゴ側の人間を全員拘束したところでディーデリックが指示を出す。
そんなディーデリックにレンブラントが近づいていく。
「恐らく大丈夫だとは思いますが、領軍全体がディエゴに着くことも」
「可能性としてはあるか……」
「まぁ、これだけの戦力が揃っていれば負けることはないでしょうが」
そう言いながらレンブラントが俺を指差してくる。
……これだけの戦力と言いつつ、俺1人かよ。
なんて思いながら微笑むディーデリックに礼を返す。
「――ニコラス、疑ってすまなかった。
陛下が信任を与えた領主に対する振る舞いではなかった。非礼を詫びたい」
「いいえ……殿下、私も、私の身内が起こした結果ですから」
フラつく足で立ち上がろうとするニコラス・アルフォンソ。
それを制するディーデリック。
「良い。もはや、あなたの病を疑ってなどいない」
そんな2人を見つめているマルセロ、その隣に立つ。
少しだけ安堵している横顔を見つめて、彼の手のひらを握る。
「……お姉さん、ご無事で良かった」
「うん。レンブラントから聞いてると思うけど、君のお母さん――」
「はい……本当に、ありがとうございます」
ポンとこちらの胸に倒れ込んでくるマルセロ少年。
こいつもこいつでずっと気が張っていたはずだ。
ディーデリックと共に”疑うため”に自らの領地に戻ってきたこの子も。
「よくやった。この場にお前が立っていたことに意味がある。
ディーデリックの独断じゃなく、アルフォンソの血を引くお前が」
「ふふ……なにも、できませんでしたけれど」
マルセロの身体を抱き返しながら、その背中を撫でる。
「良いんだよ、今はまだ大人に任せておけば。見ているだけで充分さ」
「ええ、そう思うことにします。本当にありがとう、お姉さん……」




