第22話「器じゃねえよ、お前は。お前なんかに死ねと命じられた人間が可哀そうだ」
「フン、見抜いていたにしては一手遅かったな、奥様」
――思い通りだ。思った以上の成果だ。
まさか、エミリアナを殺しにかかってくるとは。
確かに今の状況は相手にとっても後がない。
このまま時間が過ぎればディーデリックとエミリアナが合流してしまう。
死んだはずの女だ、自分が雇った暗殺者のことも知っている。
実際、自分が騙していたニコラスにいくつかの情報を伝えるだけで。
「どういうことだ!? ディエゴ……ッ!!」
ニコラスが似合わない大声を張り上げるよりも前に扉を閉めるディエゴ。
……扉を開いたまま発砲しても音が響かない自信があったのだろう。
そしてそれは事実だ。誰も領主の部屋に駆け込んできていない。
ディエゴによってある程度の人払いくらいはしているのもあるんだろうが。
「どうもこうもありませんよ、閣下。
あなたが探させていた”事件の仕掛け人”が私だということです」
カツコツと足音を鳴らしながら近づいてくるディエゴ・イバルロンド。
……こいつだ、こいつがセドリックを使って、マルセロを狙い、エド爺を。
「どうして?! 君はマルコスのことを」
「――ええ、敬愛しておりました。あの人のためならば死ぬことも」
「なら、どうして弟の息子を、弟が愛した女を殺せるんだ……!」
一番聞きたいことを聞いてくれるニコラス。
死んだふりは、しばらく続けていてもよさそうだな。
しかし、この状況、ディエゴはどう終わらせるつもりか。
「……西方戦争の最後、死ぬはずのないお方が死んだ。
あの時に思ったんです。この世に絶対なんてものはないと。
そして子供の頃の願いを思い出した」
ディエゴが静かに拳銃を向ける。
ニコラスに向けられたそれはエミリアナを撃ったものとは違う。
……なるほどな、こいつの仕掛けたいことは見えた。
「器じゃねえよ、お前は。お前なんかに死ねと命じられた人間が可哀そうだ」
胴体が壊れていたところで問題はない。
立ち上がること、言葉を紡ぐこと、飛び掛かること。
全てを滞りなく行うことができる。
「っ――?! 死にぞこないがッ!!」
丸腰で飛び掛かった女に銃口を突き付け何発も撃ってくるディエゴ。
完全に身体を壊される。けれど充分だ。
これで充分に時間は稼いだのだから。
「行くぞ、嬢ちゃん――」
エミリアナに見せかけていたゴーレムが破壊されたことで、本来の肉体に感覚が戻る。分厚い背中、アンソニーに背負われている。ゴーレムに意識を移す直前と同じ状態だ。上手いこと彼の背中に紐で結び付けられている。
――しかし、とんでもないところに移動してたな、アンソニーの奴。
領主城の屋根、ニコラスの部屋に突入できるポジションか。
ワイヤーが軋み、遠心力が加わり、窓ガラスを叩き割る。
「っ……バカな、なんなんだ、お前は」
「お前が気張って撃ち殺したゴーレムを用意した使い手――」
華麗な着地を決めたアンソニーは勝利の笑みを浮かべながら答える。
そしてその言葉でディエゴも理解する。
自分が撃ち殺したはずのエミリアナ・アルフォンソがゴーレムであることを。
「――を連れてきただけの男さ」
こちらの身体を縛っていた紐を解くアンソニー。
それで俺も自由になって床に降り立つことができる。
場違いな少女の登場を前にして、ディエゴは呆気に取られている。
「フランシス・パーカー、あなたの企みを砕いた女。
マルセロ・アルフォンソを守った魔術師と言えば伝わるかしら?」
「ッ、セドリックをやった女――!!」
向けられる銃口、別に新しい動作は必要なかった。
防御術式は最初から俺とアンソニーに対して走らせている。
あの拳銃の威力もエミリアナを模したゴーレムで計測済みだ。
”セドリック以上”を前提に用意した障壁は、絶対に破れない。
「遅いな、それでも従軍経験者か?」
――簡易な重しのついたごく細い鎖。
それが引き金よりも速くディエゴの右手を打ち抜く。
アンソニーがやったのだ。正直、俺も見落としかけた。
まばたきのタイミングがズレていたら何が起きたのか気づけなかった。
……こいつ、これだけの技術があって俺と母さんの戦いには手を出してこなかったのか。下手な魔術師なら普通に獲れるぞ、動体視力を越えるこの攻撃なら。
「クソッ――」
ディエゴが悲鳴のように指を鳴らす。
それが何かしらの報せになっているのは分かる。
ものの数秒のうち、この部屋に兵士たちが突入してくる。
(やっぱり、部屋の前に待ち構えてたよな、こういう奴らが)
アンソニーの耳打ち。
なるほど、たしかにこれは執政官側の兵士だ。
最初から部屋の周囲を自分の子飼いで固めていたんだ。
「侵入者だ! 殺せ!!」
迷いなくディエゴの指示に従う兵士たち。数として7人。
アンソニーもお得意の鎖で3人までを無力化する。
残り4人からの銃撃は、防御術式で防ぎ切る。
「おっと、良いのか? 俺に弓を引くってことは殿下に弓引くことだぞ」
最初の攻撃を防ぎ切った直後に生まれる間。
それを狙ったようにアンソニーが言葉を紡ぐ。
脅しだ。神聖王国・第四王子を真正面から敵に回す覚悟があるのか?
俺たちの力を示した後に、脅しをかける。
「っ……」
ディエゴの部下たちが息を呑むのが分かる。
いったいどう教えられているのか知らないが覚悟はないようだな。
とりあえず、今のうちに騎士型のゴーレムを2体ほど展開しておくか。
「――騙りだ! 信じるな!
こんな奴、小僧から報告など受けていない!!」
小僧ってディーデリックのことか。
坊ちゃん呼びでは怒らないあいつも流石に怒りそうだな。
「――”小僧”とは言ってくれるものだな、ディエゴ・イバルロンド」




