第21話「しかし、義兄さま。領軍はディーデリック殿下に協力していません」
――アルフォンソ領の領主城に”仮初めの身体”で近づいていく。
遠巻きに見ているだけでも、3種類の人間が居ることが分かる。
領軍の人間に、王国騎士と冒険者たち。
冒険者を開拓都市でもダンジョンでもないところで見ると違和感がある。
それにしても、彼らが静かに立っているなんてらしくないな。
表立って喧嘩するような真似はしていないが、一触即発といったところだ。
領兵と親衛隊、互いが互いを牽制し合っている。
領主城に立たせているだけでこの人数を使っているあたり凄まじい。
ディーデリックが三桁の人間を使うと言っている意味が分かる。
街の中で”神聖王国・第四王子”の名前を使って大っぴらに捜査している奴らもめちゃくちゃ居たし、とにかく人員が潤沢だ。俺とアンソニーは既に真相の目前に立っているがそうでなくてもこれだけの人間を使えば辿り着いたのではないか。
そう思わせるほどにディーデリックが用意した親衛隊は層が厚く、規律だって動いている。ここまで多くの人間を動かせるのは、さすが王子と言ったところか。細かくは聞いていないけれど、指揮系統の作り方とかに工夫があるのだろうな。
なんて考えながら、仮初めの身体を動かす。
坊ちゃんの親衛隊を避け、アルフォンソ領の兵士に向かって。
なるべく領軍側の人間だけが居る場所を目指して。
「えっ……お、奥様?! ご無事でしたか――」
大声を出されることは想定済み。
だからこそ近くに親衛隊が居ない場所を狙った。
「ええ、なんとかね。お義兄さまか、ディエゴに取り次いで貰える?」
”あまり目立たないように”と耳打ちをして兵士に手配させる。
彼は自分よりも若い兵士をこちらの護衛に立たせ、静かに走り出す。
さて、いったいどちらが出てくるか。出てきたとしてそいつはどう動くか。
ここからは釣りみたいなものだ。
敢えて”まだディーデリックに気取られていない状態”でエミリアナの身体を押さえさせる。そのうえで黒幕候補であるディエゴあるいはニコラスがどう動くか。
それを見極め、上手く証拠を掴む。
アンソニーのような捜査官ではないが、俺は俺で魔術師なのだ。
魔術師らしい作戦を仕掛けた。ゴーレム使いらしい作戦を。
取り次ぎを頼んだ兵士は、別の人間を連れてくる。
衣服からして執政官側の人間だろうな。
エミリアナに教えてもらった通りの特徴が出ている。
それに連れられるまま、到着するのは領主の部屋。
ニコラス・アルフォンソの私室だ。
入った瞬間に感じる。ここがまるで病室であることを。
エミリさんからある程度聞いてはいたが、これは想像以上に……。
「――無事だったんだね、エミリアナ」
病人用のベッドで半身だけを起こしているニコラス・アルフォンソ。
その姿からは”死の香り”が漂ってくる。
もうすぐ死んでしまうのだろう。それほどまでに弱っているのが分かる。
「はい。今朝まで意識を失っておりました」
「そうか。マルセロは無事だよ、おかげでこの家は途切れずに済む」
こちらが情報を得ていないと思っているのだろう。
だからマルセロの安否を真っ先に教えてくれた。
……彼の言葉からは嘘の匂いはしない。本心から口にしている。
レンブラントからの報告でも、兄は潔白だと言っていたな。
よほど嘘が上手いか、病状から何から何まで偽っていない限りは。
なんてあいつは教えてくれていた。実際、目の前にして分かる。
「ええ、存じております。それでお義兄さま。此度の襲撃――」
「実行犯は死んだ。今はその仕掛け人を調べるために第四王子が」
そこまで話したところで咳き込み始めるニコラス。
「……目星はついているのですか?」
「いや、ディエゴにそれを探らせている。殿下の調査に協力するようにと」
なるほど、ニコラスはディエゴのことを信頼しているのか。
しかもディーデリックに協力するように伝えていると。
……で、実際にどうだった? 協力していたか? 領軍は。
領主城に近づいただけで体感したはずだ。
アルフォンソ領軍とディーデリックの親衛隊の対立を。
「ディエゴに……?」
「ん? どうしたんだい? ディエゴを疑っている……?」
奇妙な間が生まれる。ニコラス自身も考え込み始めているのだ。
”エミリアナが疑っていること”
それ自体が大きな判断材料になっている。
「待ってくれ……ディエゴは、マルコスのことを、君だって見ていただろう?」
”墓前で立ち尽くす彼のことを”と続けるニコラス・アルフォンソ。
なるほど、つまりあの噂話は本当だったのか。
エミリさんと細かいところまで詰めている時間が無かったから知らなかった。
「しかし、義兄さま。領軍はディーデリック殿下に協力していません」
「えっ……?!」
「表立った反発もしていませんが、積極的な協力と言うには程遠く」
”とても貴方様の声が届いている状態とは言えない”
青ざめたニコラスの表情にこの反応だ。
元からある程度の心当たりはあったのだろう。
そこにエミリアナに見える俺の反応が加わって疑念が確信になりつつある。
「っ……そんな、バカな」
「私とマルセロを襲った者の名は、セドリック・シャミナード。
西方戦争での従軍経験があります。そして貴方の声を届けていない執政――」
話している真っ最中、背中から強烈な衝撃を感じる。
繋げていた感覚が、疑似的に痛みを伝えてくる。
……魔力弾、これは拳銃によるものか。音が鳴らないものもあるのか。
「ッ――やはり、お前か……」
そのまま倒れ込む。この身体を動かし続けることもできなくはないが。
「フン、見抜いていたにしては一手遅かったな、奥様」




