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第15話「……殺し屋にだって人生はある。子供に好かれている奴もいるさ」

「ったく、なんつー話だよ、おい……」


 宿の一室に戻り、靴屋の少年から聞いた話を文字に起こして整理する。

 そうしているうちに、俺はそんな言葉を呟いていた。


「だが、レンブラントの見立てとも合致している。

 あんな子供が嘘を吐くとも思えない。俺たちは正解に近づいている」

「分かってる、分かっているんだけどさ……」


 あの少年曰く、靴の持ち主、つまりあの暗殺者の名はセドリック。

 シャミナードという神父が営む小さな教会で育った孤児。

 靴屋の少年と同じ境遇で、セドリックは神父の手伝いをしていたと。

 子供たちからは兄のように慕われていたらしい。


 セドリックは、大きな仕事をすると言って1か月前に姿を消した。

 その前に少年にお小遣いをあげたそうだ。

 西方戦争に行っても無事に帰ってきた兄が帰って来ないなんて信じられないと。

 けれど他人の俺たちがセドリックの靴を持っているのだからと。


「……殺し屋にだって人生はある。子供に好かれている奴もいるさ」

「うん……」

「それに君が戦わなかったら、マルセロが殺されていたんだ。胸を張れよ」


 アンソニーが気遣ってくれているのが分かる。

 けれど、あんな子供に慕われている男を殺してしまったのかと。

 そう思っている自分自身を否定、し切れないんだ。


「約20年前に王都から暗殺ギルドが一掃された。

 レンブラントの見立て通り、そこで仕込まれていた元少年だろう。

 それが地方の教会に落ち延びて、孤児として育った」


 これがあの暗殺者の経歴。そう考えても目立つ齟齬はない。


「シャミナードって神父が殺し屋として使える奴を抱え続けていたのか。

 それとも従軍していた時期にでも目をつけられたのか」

「目をつけたとしたら、ニコラスかディエゴってことだよな」


 ”今のところはその可能性が濃い”と続けるアンソニー。

 たしかに確定できる話ではない。俺たちはそこまで真相に近づいていない。


「ただ、どちらにせよ、教会に顔を出す必要はある。

 神父自体が黒なら洗いざらい吐かせればケリがつくかもしれない」

「……俺たちだけで行くのか?」


 ディーデリックたちと合流した方が戦力が増す、と思った。

 けれど、不要かもしれない。

 施設1つくらいならば簡単に制圧できる準備がある。


「坊ちゃんたちと一緒に動いて気取られたくない。

 神父の不意を突きたい。それに充分な準備があるんだろう? 君には」

「ああ、マルセロと逃げた時よりはずっと上手くやれる」


 こちらの言葉を聞いてアンソニーは頷いてみせる。


「当てにしているよ、お嬢ちゃん」


 彼の言葉に相槌を打って、彼の淹れた紅茶に口をつける。

 まったくもって嫌な気分だ。

 あの暗殺者を殺さずに拘束できていれば、気分も違ったのか。


「……君は良い人なんだな、本当に」

「何を急に……」

「自分だって殺されそうになった相手なのに、そこまで気遣えるとは」

「別に、ただちょっと後味悪いなって、それだけだよ」


 アンソニーもまた、紅茶に口をつける。


「まぁ、人が死ぬのは気分が悪いよな。

 つまらない盗みをしただけの若い犯人が馬車にひかれて死んだ時にはガックリ来たよ、こんな俺でも」


 捜査官としての経験を打ち明けてくれる。気遣ってくれているのだ。


「そんなに追い詰めたのか? アンタが? そうは見えないが」

「後輩がね。俺は犯人の逃げる先に当てがあったから焦ってなかったんだけど。

 でも、その後輩もまた俺よりずっと若い奴でさ、凄く落ち込んじゃって」


 この男も、こんな寂しげな表情をするものなんだな。


「……盗人が捜査官から逃げようとして事故に遭っただけ。

 ただの天罰だ。お前は何も悪いことをしていない。

 上司は後輩にそう説いた。ある意味で正解だと思う。捜査官としての割切りだ」


 漆黒の瞳が、こちらを見つめてくる。

 いつか見たドス黒いそれとは違って静かな輝きが宿っている。

 そんな気がする。


「……でも俺は、割り切れないことは割り切れないままの方が良いと思うんだ。

 苦いものは苦いんだって、しっかりと受け止めて、忘れない。

 向き合い続ける。それができる人間こそに、俺は敬意を表する」


 ”俺にだって後輩を止められなかった咎はある。ずっと抱えている”


「……君は正しいことをしたと思う。

 犯人を死なせた捜査官失格の俺たちよりもずっと正しいことを。

 けれど、君の喉元に苦さが残っているのなら、無理に忘れることはない」


 思わぬ言葉だ。思わぬ考え方だ。俺の中には無かった尺度だ。


「……うん。そうだな、ありがとう」

「それにセドリックを使い、あんな子供を泣かせて、子供を殺そうとしたクソ野郎は生きたまま牢屋にぶち込めるんだぜ、俺たちが上手くやれば」


 領主ニコラスか執政ディエゴか、それともまだ見ぬ者なのか。

 何にせよ、黒幕はまだ生きている。

 観念して自決しているような状況ではあるまい。


「俺たちの仕事なんて、いつも起きた結果の尻拭い。

 手遅れから始まることばっかだ。事件になっちまってるんだからな。

 でも、クソ野郎をぶち込んだ時は少しだけ気が晴れるものさ」


 言いながらケタケタと笑うアンソニー。


「アンタにもそれを味わってほしい。良い気分なんだぜ、お嬢さん」


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