第9話「こいつにはレナ姉って呼ばせてる。ルシールちゃんはなんて呼んでくれる?」
「――ごめんね、急に時間とって貰っちゃって」
銀のかまど、その昼営業を終えたばかりの時間。
改めてルシールちゃんに感謝を伝える。
昨日の今日だがアルフォンソ領への出発まで時間がない。
「いえいえ、でもまさかフランクさんのパーティメンバーが来てくれるなんて」
ルシールちゃんが、どこか緊張した面持ちになっているのが分かる。
朝に応援の魔術師を雇うって話をしたときには快く受け入れてくれたのだが、それが俺の元パーティメンバーだという話をしたあたりからどこかぎこちない。
「なんか緊張してたりする?」
何気ない質問を向けたところルシールちゃんが耳元に近づいてくる。
一応は閉店済みなんだけど警戒心が強い当たり性格が出てるな。
(……バッカスさんはともかく、もう1人の方ですよね)
(ああ、レオナルド・ケイラーって元・魔法剣士だよ)
(あんまり覚えてないんですけど、ちょっと怖い人って印象があって……)
確かにルシールが店に立つ前にレオ兄は引退している。
だからあまり覚えていないのは当然として、そうか。怖い人か。
冒険者時代のレオ兄は、確かに怖い人だったかもしれない。
シニカルでニヒルな笑みを浮かべていた記憶ばかりだ。
「ハハッ、そっか。いや、うん、そうかもしれない」
逆に”怖い人”って印象はあるの凄いな、大した接点もないのに。
色々と事前に説明してあげた方が良いのかもしれないが、そろそろ時間だ。
半端に事前情報を入れてしまうくらいなら何も喋らない方が良いかもしれない。
「ええっ?! やっぱり、そうなんですか……私、上手くやれるでしょうか」
「大丈夫だと思うよ。きっとね」
ちょっと不安げにあたふたしているルシールちゃんを横目に、ウェブクラスタの最終調整を行う。今の俺の有り余る魔力ならば簡単に感覚を繋ぐことができる。
けれど今回は他人に任せるのだ。だからゴーレム側に受信機を増設した。
街の方々に試験用のゴーレムを配置している。
これでレオ兄に感覚を繋いでもらってどこまでやれるか試験する。
問題なければ良いのだが、自分で困っていないものを補うための魔道具を自作して上手く機能するのかについては少し自信がない。
「――お邪魔しま~す♪」
軽くウェブクラスタの調整を進めた頃合い。
扉に着いた鈴が揺れて、聞き慣れた声が聞こえる。
ただ、余所行きの声を使っているな。店長としてのそれとも違う声だ。
「あっ、貴女がルシールちゃんね? お久しぶりというより初めましてかしら」
呆気に取られているルシールちゃんに近づき、軽く礼をするレオ兄。
「フランクさんの元パーティメンバーだと……。
えっ、あの冷たい目をしたお兄さんなんですよね?
バッカスさんじゃない方の」
こちらに視線を送りながら確認の言葉を紡ぐルシールちゃん。
だいぶ驚いてるな、普段なら他人に向けないような言い回しになっている。
バッカスじゃない方ってのが面白い。
「そうだよ。正真正銘、俺の元パーティメンバー、レオナルド・ケイラーだ」
「ちょっとちょっとフランク。アンタ、今のアタシのこと何も伝えてないの?」
「見れば一発で分かるかなって」
肩をバシバシ叩いてくるレオ兄を横目にそんな回答を返す。
「はぁ~、アンタね……ごめんなさいね? 驚かせちゃったでしょ」
「いえ、私こそ色々と失礼なことを」
「ふふっ、”冷たい目”してた? 昔の私は――」
2人の会話を見つめながら、ゴーレムに紅茶を用意させる。
あのルシールが”あわあわ”してるのが可愛い。
「……わ、忘れてください。私が子供の頃の印象で」
「良いのよ、怒っていないわ。確かにあの頃はトゲトゲしてた自覚あるもの。
”本当のアタシ”を隠し通さなきゃいけなかったしね」
準備が整ったところで2人をテーブルに誘導する。
この感じだと、まぁ、大丈夫そうだな。
相性が悪いって感じはないように見える。
ルシールのペースが崩れているのが逆にレオ兄にとっては好感度が高いと見た。
余りに手際が良すぎて、事務的でドライな関係になるかとも思っていたが。
「でも覚えていてくれたんだ。二刀の剣士だった頃のアタシを」
軽く剣を振り回すジェスチャーをして見せるレオ兄。
こっちまで懐かしくなってくる。
「はい……何度かお見かけしていたので。それでも本当に別人みたいに」
「そうね、今はレナード・ケイラーと名乗っているわ。
こいつにはレナ姉って呼ばせてる。ルシールちゃんはなんて呼んでくれる?」
流石に会話運びが上手いな、レオ兄の奴は。
トワイライトのショーガールに大人気な最強の店長であるのが分かる。
「レナお姉さんと、お呼びしましょうか?」
「よろしい。これからよろしくね、ルシールちゃん」
「はい、こちらこそお世話になります。レナお姉さん」
テーブルに座りつつ、レナ姉にウェブクラスタという魔法の杖を渡そうとする。
けれど、その前にルシールちゃんが契約書の素案を提示する。
懐かしいな、俺も持っている奴だ。何回か内容を更新している。
「――すみません。先に契約条件のお話で良いでしょうか?
こういうのはタイミングを逃すとなぁなぁになってしまって」
「もちろん。やっぱり、しっかりしてるのね」
サッと用意された素案に目を通していくレオ兄。
朝に話したばかりだというのに、よく今日のうちに用意したものだ。
やはり地味に事務能力が高い。こういうところが信頼できるんだよな。
「結構いい稼ぎになるだろ? 副業にちょうど良いくらいには」
「――そうね。逆に良いのかしら、こんなに払ってもらっちゃって」
「ええ。ここで上手く行くかどうかが事業拡大の可否を測る試金石になるかと」
”俺以外の魔術師”を使ってゴーレムイーツを行う。
これが可能になれば、次の拡大が視野に入る。
「それにトワイライトの店長さんにお願いするのに半端な報酬じゃ」
「ふふっ、これだけ積まれるとコキ使われそうで怖いわ」
「報酬なりの仕事はしてもらいますが、魔術師さんの価値だと思ってもらえば」




