036 エピローグ
ビクトルとサリーの死によって、戦争は終結した。
国王代行となったディウス公爵は植民地計画の白紙化を表明。
チートの研究も中止が決定した。
その頃、ニクス王国では――。
「まさかクリスが結婚するとはなぁ」
「それもこの国を出てから1年半で……」
キーアのとある酒場で、ダッドリーとアルテが話していた。
貸し切りなので他に客はおらず、店内は閑散としている。
ダッドリーの手にはクリスからの手紙が握られていた。
「相変わらずわけのわからん奴だぜ」
「ダッドリー、今、どんな気分ですか?」
「そりゃ素直におめでとうだ」
「本当ですか?」
「なんだよそれ、何が言いたい?」
「ダッドリー、あなたはクリスに気があったでしょう?」
「ばっ、バカいってんじゃねぇ」
「本当ですか?」
「あ、当たりめぇだ。お前こそどうなんだ」
「どうとは?」
「キーア奪還戦のあと、クリスに料理を振る舞っていただろ」
「ええ、たしかに」
「たしかお前さんが料理の腕を磨いていたのは『いつか愛する女性が見つかった時に喜んでもらえるように』とかいう理由だったはずだ。料理を始めた頃に聞いた記憶がある。つまりお前さん、そういうことなんじゃねぇのか?」
「なっ……! なにを馬鹿なことを!」
珍しく顔が真っ赤になって動揺するアルテ。
「そ、それは、たまたま、たまたまですよ、成り行きです!」
「ほーん?」
ニヤニヤするダッドリー。
彼がさらにアルテをからかおうとしたその時だった。
「お待たせしましたー!」
酒場の扉が開き、クリスが入ってきた。
彼女の他に2人の男が一緒で、その内の1人はレイだ。
「遅かったな、クリス。そっちのイケメン野郎がお前さんをモノにした男か?」
ダッドリーがレイを見る。
「その口調、君がダッドリーだな?」
「いいや、俺様はアルテだ」
「やめなさい、ダッドリー」とアルテが苦笑いで突っ込む。
「正解! このツルピカ頭がダッドリーさん!」
「ツルピカ頭って、久々の再会なのになんだその言い草はァ!」
ダッドリーが立ち上がり、クリスに詰め寄る。
そのまま髪をクシャクシャしようとしたが思いとどまった。
レイの前でそういうことをしていいのか躊躇ったからだ。
クリスは臆する様子もなく、左手を口に当てて嬉しそうに笑う。
薬指にはレイとの絆を示す指輪が嵌められていた。
「相変わらず元気そうでなによりです」
アルテも席を立ち、クリスたちの前に行く。
「はじめまして、レイ王子。自分はアルテと申します。この度は我が国までお越し下さり……」
「アルテ、そういう挨拶はやめてくれ。我が国では王子だからといって特別扱いすることはないんだ。公務の時を除き、俺はただのレイであって、王子でもなんでもない。だから遠慮なく呼び捨てにしてほしい」
「分かりました」
アルテの視線がもう一人の男に向かう。
男は緊張した様子で立ち尽くしている。
「ところでクリス、彼は?」
「紹介し忘れていました!」
クリスは額をペチッと叩いてから、男に手を向けた。
「この方は私が聖女だった頃に宮殿の衛兵を務めていた人で、今は私とレイのボディガードをしています。名前は……」
クリスはそこで間を置き、満面の笑みで言う。
「トムさん!」
「フランクリンですってば!」
もう一人の男――フランクリンが口を開いた。
クリスだけが「あはははは」と嬉しそうに笑っている。
何度繰り返しても、彼女はこのやり取りが好きだった。
「このト……じゃない、フランクリンさんは、私の最初のお友達です!」
「今、トムって言おうとしましたよね!? クリス様!」
「私はもう聖女じゃないんで、様付けはやめてくださいっていつも言っているじゃないですか」
「こ、これは失礼しました!」
「いいですよ! トムさん!」
「だからぁ!」
フランクリンは「やれやれ」と肩を落とした。
「で、ちょうど手紙を読み返していたんだけどよ」
ダッドリーが本題に入る。
「本当にいいのかい? なんだかんだいってもあんたはシャロン公国の王子だし、お前さんはその妻だ。そんなお高い身分の奴等が俺たちと共にこの国で魔物ハンターとして活動するなんて、下手すりゃ国際問題になるんじゃないのか?」
「ダッドリーの言う通りです。魔物ハンターの仕事は危険です。レイ、貴方が知っているかは分かりませんが、クリスはハンターとして戦う時、魔具で戦うことに強い抵抗感を示します。その結果、でたらめな魔法をばらまきます」
「ほう、そうなのか?」
レイがクリスを見る。
「なんのことだか……」
クリスは顔を逸らして口笛を吹く。
「このチームでハンターとして活動するということは、即ち、魔物に殺されるリスクに加えて、クリスの魔法に巻き込まれて死ぬリスクにさらされることを指します。どちらかといえば後者のリスクが高いでしょう。大体はダッドリーを盾にすれば防げますが、それでも常に無事とは限りません」
「おい、なに当たり前のように俺を盾にしてんだ」
「我々は最大限に努力をしますが、身の安全を保証することはできません。それでも本当によろしいですか?」
「ああ、もちろんだ。最初からそのつもりでここに来ている。クリスの魔法がそこまで酷いとは知らなかったがな」
「自分もレイさんと同じくです!」とフランクリンが手を挙げる。
「おい、だからなんで当たり前のように俺が盾になる方向で話が――」
「私の魔法だってそこまで酷くないですってば!」
ダッドリーとクリスがぶーぶー喚く。
そんな2人を無視して、アルテが話を進める。
「では3人を我々のチームに加えるとしましょう。まさか長らく2人でやっていたチームが、あっという間の6人まで増えてしまうとは。これは連携を考えるのが大変そうですね、ダッドリー」
「あぁ、そうだな」
「えっ? 6人?」
数に反応したのはクリスだ。
「実は先日、なかなかの有望株がチームに加わったんですよ。自称『放浪の剣士』とのことで、それなりに腕が達者です」
「ほう? 剣士とな?」
レイがニヤリと笑う。
彼も剣士なので興味をもったのだ。
「その人の姿が見えませんが……」
クリスが周囲を見渡す。
「ちょうど先ほど携帯食の買い出しにでかけたところなんですよ。久しぶりに日をまたぐ大仕事を引き受けましたからね。もうじき戻ってきますよ」
アルテの言葉を聞いていたかのように、扉が激しく蹴破られた。
「待たせたなぁ! 戻ってきたぜぇ! ダッドリー! アルテ!」
元気よく入ってくる男。
「噂をすればなんとやらですね。では紹介しましょう。彼が3人目のメンバーこと……」
そこから先は男が自分で名乗った。
「人呼んで放浪の剣士! 我が名は! ブロッケン・サンドラバーグ!」
「うっそーん」
クリスはぶったまげた。
「君がクリスだね! よろしく!」
「よ、よろしくです……」
何食わぬ顔で握手を促すロイ、いや、ブロッケン。
クリスは唖然としながらその手に応えた。
「そして君がレイだな!?」
「うむ、よろしくな、ブロッケン」
レイとブロッケンが握手を交わす。
「それはそうとレイ、一ついいか?」
「なんだい?」
「負けないぞ!」
「なにがだ!?」
「剣の腕とか……色々だ!」
ブロッケンがクリスにウインクする。
クリスは思った。
このチームは本当に大丈夫なのだろうか、と。
《了》
これにて完結となります。
偽者の聖女が存在しないクリスの物語、いかがでしたか?
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