表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/36

032

 夜、クリスはレイと二人で自宅にいた。

 居間のソファに並んで座り、屋根についた採光窓から月を眺める。


「でねでね、ダッドリーさんは事ある毎に私の髪をクシャクシャするの」


「へぇ、こんな感じで?」


 クシャクシャ。


「違う違う。そんなに優しくないよ。こんな感じ!」


 クシャクシャァァァアア!。


「痛ッ! 痛い痛い! これじゃクシャクシャどころじゃないぞ!」


「でしょー! でも本当にこんな感じだから!」


 クリスはこれまでのことを話していた。

 主にニクス王国で過ごした時のことを話している。

 ダッドリーやアルテと過ごした日々は彼女の宝物なのだ。


「クリスやダッドリーがその様子だと、アルテって人は大変だったんじゃないか?」


「そうなの! アルテさんは本当に大変そうだったよ! アルテさんはなんか凄い人でね、いつもどこからともなくお金を稼いでくるの! そのお金を私とダッドリーさんが使い果たすんだけどね!」


「それは凄い。ダッドリーやアルテに会ってみたいな」


「いつか会いに行こー!」


 嬉しそうに話すクリス。

 その顔を見るのが、レイにとって最上の喜びだった。


「ようやくだなぁ」


 クリスのマシンガントークが落ち着いたところでレイが呟く。


「ようやくって?」


「クリスが昔のことを話してくれたの」


「えっ? 今までも話していなかったっけ?」


「話していたけど、聖女だったことを隠す為に楽しい部分は避けていただろ? 魔物ハンターをしていたこととかさ」


「たしかに」


「だから俺は嬉しいんだ。ますます君のことを知れてさ」


「レイ……」


 クリスはレイの肩に頭を預けた。

 レイは彼女の頭を優しく撫で、月を見ながら言う。


「クリス、明日の戦いが終わったら結婚しないか」


「結婚!?」


「そうだ」


「私なんかでいいの?」


「君じゃないと嫌なんだ」


「だったら……いいよ」


 クリスが上目遣いでレイを見る。

 レイの顔は緊張や恥ずかしさから赤くなっていた。


「ところで、告白は広場でするのがこの国の流儀なんじゃ?」


「あっ」


 流儀を失念していたレイ。


「なんか、今、どうしても言いたくて……」


「レイって、告白の仕方、あんまり上手くないよね」


「不慣れなんだ、許してくれ」


「許す!」


 二人だけの甘い時間が流れていった。


 ◇


 翌日。

 早朝になると同時にレイは家を発った。

 自宅に戻り、戦闘準備を整える。


 他の家々でも同じだった。

 全ての人間が戦争に向けて準備している。

 ある者は鍬で素振りし、またある者は包丁を研いでいた。

 戦いに参加しない子供ですら率先して作業を手伝っている。


 しばらくして、大公ヒューゴラスが招集をかけた。

 武装した国民たちが広場に集まる。

 そこにはクリスの姿もあった。


「小さな子供や足腰をやらかして動けぬ者は家で待機。残りの者は半円状にクリスを囲んで絶対に守れ。ドーアの軍勢と戦うのはクリスの使い魔軍団だ。儂らが混ざっても邪魔になる。だから儂らは命に代えてもクリスを守るぞ!」


「「「おおー!」」」


 戦争に参加する国民――否、戦士たちが町を出る。

 草原に足を踏み入れたところで、半円状にクリスを囲んだ。


「使い魔を召喚します!」


 クリスが〈召喚の指輪〉を発動させる。

 戦士の囲いがない前面に1万体の使い魔軍団が現れた。


「おお」


「これは凄い」


「そらビクトルが狙うわけだ」


 歓声が上がる。

 その間にも使い魔軍団は陣形を整えていく。

 前方で半円状に広がり、クリスのみならず戦士たちも守る。


「準備は整ったな? いざ、前進!」


 使い魔1万体と戦士1700人からなるシャロンの全戦力がドーアに向かう。

 それに呼応するかの如く、ドーアの関門が開いた。


「やはり戦いの道を選んだか――ならば応じよう。行くぞ!」


 ビクトルが号令を下し、ドーアの軍勢が打って出る。

 兵士だけで10万を超える大軍だ。

 デサイア侵攻に賭けるビクトルの気迫が伝わってくる。


「なんだあの数は」


「桁がちげぇべ」


 遠目に見えるドーア軍に怯むシャロンの戦士たち。


「臆するな!」


 一括したのはレイだ。


「不利なことは最初から分かっていただろ! 意地を見せろ!」


 この言葉によって、シャロン軍の動揺が落ち着いた。


「クリス、これを持っていろ」


 レイは懐から護身用のナイフを取り出し、それをクリスに渡した。


「これは?」


「万が一に備えての物だ」


「分かった」


 クリスはナイフを両手で握る。


「魔女隊、展開しろ!」


 先鋒の魔女隊に命令を出すビクトル。


「ヴゥゥゥ……」


 不気味な呻き声を放ちながら、魔女隊が魔具を発動する。

 チートによって超強化された800人が召喚する強烈な魔物の軍勢――その数4000体。

 チートの影響からか、使い魔の色は一様に深い紫色に染まっていた。


「なんという禍々しさだ……」


「ほ、本当に敵と味方の区別がつくのか……?」


 魔女隊の召喚した魔物には、ドーアの兵士ですら怖じ気づいている。

 気を抜くと自分たちまで襲われそうな気配が漂っていたのだ。


「これで準備は整った。さぁ、始めよう。勝利の約束された戦いを!」


 ビクトルは剣を抜き、突撃を命じる。

 魔女隊の使い魔軍団がチグハグな動きで突っ込んでいった。


「皆、私たちを守って!」


「「「グォオオオオオオオオオオオオ!」」」


 クリスも使い魔に突撃させる。


 普段はウサギなどの小動物が駆け抜ける大草原。

 その上で両軍の使い魔軍団がぶつかり、火花を散らす。


 今、最後の戦いが幕を開けた――。

お読みくださりありがとうございます。

評価・ブックマーク等の応援、いつも励みになっております。

よろしければお気に入りユーザ登録も是非……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ