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其の八 浪士、粛正

「芹沢さん」

 珍しく近藤が姿を見せた。

「ん?」

「明日、角屋を貸し切りにして、大勢の隊士を連れて呑みに行くつもりです。芹沢さんもどうです? もちろん、平間君や平山君も一緒に」

 新見が近藤たちに切腹させられた気がし、その時から、近藤たちを警戒していた。だが、近藤は多くの隊士と平山、平間も連れて行くと言っている。

 ……大勢の隊士の前で、俺を斬ることはないだろう。

 それよりも角屋を貸し切って呑むと言う誘惑に、俺は耐えられなかった。

 俺は、行くと返事した。


 そして、翌八月十六日の朝。

 外は曇っており、小雨も降っていた。

「芹沢先生」

 平間と平山が来た。

「ん?」

「用心のため、我らはずっと、お側に居りまする」

「分かった。しかし、もしもの時は……逃げろ」

「はい」

「よし、酒を持ってこい」

 殺される不安を取り除くために、軽く呑もうと思った。

「先生、午後に呑みに行くじゃないですか」

「……あ!」

 忘れていた。

「先生。病気の方も心配です。今日はあまり呑まないようにして下さいよ」

 平間たちの心配に耳を貸さず、俺は横になった。


 午後になり、平間たちを連れて角屋へ向かった。

 角屋には予想以上に多くの隊士が集まっていた。

「おお! 凄い数だなぁ」

 ……これならば、近藤たちも滅多なことは出来まい。

 俺は安心して、勧められるがままに呑んだ。

 隊士たちや近藤たちも酌をしに来た。しかし、角屋の遊女は酌をしに来ても、すぐに他の隊士のとこへ行ってしまう。

 ……俺は、お梅がいい。

 辺りを見回したが、お梅が見当たらない。

 それもそのはず、お梅は菱屋に居る。だがここは、角屋だ。居るわけがない。

「平間! お梅を呼べ!」

 俺は隣に居る平間に言った。平間は驚いたようにこっちを見て、小声で言った。

「先生、ここは角屋です。お梅さんを呼ぶのはまずいですよ」

 俺は平間の持っている徳利を奪い、その酒を口に含み、平間にかけた。

「俺が呼べと言ってるんだ! さっさと連れてこい!」

「芹沢先生」

 平山が耳打ちした。

「お梅さんを八木邸へ呼びましょう。そして後は、我々だけでゆっくり呑むことにしましょう」

 平山も平間も何か訴えているようだった。

「よし! 俺は帰る! 帰って、お梅と呑む!」

 そう大声で言うと、近藤たちは籠を呼んで見送った。

 籠には土方と山南が、芹沢先生が襲われては困ると言い、八木邸までついて来た。

 平間はお梅たちを呼びに行った。

 平間の妾は糸里。平山の妾は小栄である。

 籠をゆっくり走らせた。

 八木邸に着いた時には七時ころになっていたのだろう。辺りは薄暗く、相変わらず雨が降っている。

 八木邸の前には平間と三人の女が待っていた。

 土方と山南は角屋へ戻ったらしい。もう既に居なかった。


 八木邸に入り酒を呑んだ俺は、お梅を連れて奥の座敷へ行った。

 誰も居ない奥の座敷は、とても寒かった。体が微かに震えているのが分かる。

「芹沢はん? 寒いんどす?」

 そう聞きながら、布団を掛けてくれた。

 俺はその中に縮こまった。お梅が隙間からもぞもぞと入ってきた。

「芹沢はん? 大丈夫?」

 俺はお梅の着物を剥ぎ取った。そして、自分が着ているものも脱ぎ捨て、お梅を抱き寄せた。

 お梅の体温が、直接感じられる。


 俺はそのまま眠ってしまったらしい。

 不気味な夢を見た。

 真っ白い雪の中に、数本の梅の木があった。その梅の花は綺麗な深紅で、辺り一面に咲き誇っている。

 俺は一輪の梅に触れた。梅は深紅の液体になり、雪の上にぽたぽた落ちてしまった。

「無様だな」

 数人の笑い声が聞こえてきた。

 ふと、辺りを見るといつの間にか真っ暗な所に居た。周りには誰も居らず、笑い声だけが響く。

 何かの気配がし、そちらを向いた。

 暗いので、目を凝らす。

 白い物に刀が刺さり赤くなっている。

 ……血だ!

 俺は白い物をよく見た。刀が刺さって血まみれになっているのは……。

 ……俺!?

「ぎゃあぁぁぁあ!」

 どこかから聞こえた悲痛な叫び声に驚き、目を覚ました。それは、平山の声だった。

 俺は近くにあった刀を持ち、構えた。

 襖を開け放ち、勢いよく入ってきた男は四、五人だった。

 ……勝ち目がない。

 振りかぶってきた刀を受け止め跳ね返す。あまりの強さに耐えられず、そいつは後ろに倒れた。

 そいつを飛び越えて、別の奴が斬りかかって来た。俺はそれを交わし反転した。

 が、近くにあった文机に足を引っ掛け、前につんのめる状態で転んだ。

 そこで振り返り、刀で防ぐ間もなく、何かが俺を貫通した。

 ……刺されたのか?

 その瞬間、猛烈な痛みが体の中を駆け巡る。俺は耐えきれず、絶叫をあげた。

 体の力が抜けるのが感じられる。

 俺が最後に見たのは、一面の雪の中に咲く、一輪の深紅の梅だった。



参考文献:*Wikipedia* *沖田総司 壬生狼 作:鳥羽亮*  参考文献と言っても、ほとんど壬生狼のパクリみたいになってしまいました。すみません。

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