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其の七 浪士、切腹

 俺たちはいつものように、昼間から酒を呑んでいた。

「どんどん酒を持ってこい! 全部呑んでやる!」

 笑った瞬間、頭の中がまっ白になった。それを堪え、一層大きな声で笑う。

 目の前が真っ暗だ。

「芹沢先生! もうよして下さい。死んじゃいますよ」

「そうですよ。今日はこのくらいにして下さい!」

 俺の手から徳利ごと酒が奪われた。

 ……酒がないと、俺は死ぬ。酒があるから何もかも忘れられる。

「返しやがれ!」

 怒鳴ったとたん、意識を失った。

 だが、どこか遠くで声が聞こえる。



「!」

 何かが上から降ってきたのに驚き、顔を羽織りで拭う。冷たくもない生暖かい液体が、顔中にかかっていた。

 ……酒だ!!

「芹沢先生! よかった……」

「芹沢はん、大丈夫?」

 平間、平山、新見、お梅が俺を取り囲むように座り、心配そうな眼差しを向ける。

 俺は何事もなかったかのように起き上がった。

「おめぇら、どうした?」

 へらへらと笑って見せる。

 お梅が泣きそうな顔で俺に抱きついてきた。他の三人も安堵の表情を浮かべている。

 そこに、聞き覚えのある足音が聞こえてきた。

「芹沢先生はおりますか?」

「土方君か」

 土方は失礼します、と言い、入ってきた。

「近藤さんが久々にみんなで一杯やろうと言っております」

「んん……」

 また失神するようなことがあれば、何が起こるのか分からない。

 俺はお梅に目をやった。お梅は俺と目が合うと、目を逸らした。

 ……一人にさせるわけにいかないな。

「俺はお梅と呑む。おめぇら三人で呑んで来い」

「芹沢先生、来ないのですか!?」

 俺が酒の話しに乗らなかったことに、土方は相当驚いている。

「ああ、行かん」

「では、三人で行くか」

 新見が言うと他の二人は頷き、土方の後について行った。

「芹沢はん、行かなくてよかったんどす?」

「ああ。今夜はお梅と二人きりで呑みたい気分なんだ」

 それから暫くは、他愛のない世間話をしていた。

 だが、楽しくなく、俺はつい、ぼーっとしてしまった。

 お梅はふてくされた顔をして、俺の腕にもたれ掛かってきた。不意に、腕にかかった羽織りがめくれる。

 俺の白くて太い腕に、赤い点々がいっぱい出来ていた。お梅はそれを見て何故か、目を輝かせていた。

「……綺麗どす」

 そう言って俺の腕を撫でる。

「そうか?」

 杯の酒を呑みながら聞き返す。

「雪の中に咲く梅みとうに、綺麗どすぅ」

 お梅に言われてもう一度、腕を見る。

 確かに、そんな風にも見える。

「俺が生きてる間に、よく見とけよ。死んじまったら見せられんからなぁ」

 苦笑いをしながらお梅を見た。お梅は怒ったような泣いているような顔をしていた。

 俺はお梅を抱き寄せた。そうしなければ、自分が生きているのかさえ分からなくなってしまう。

「芹沢先生!」

 大声と共に二人ほどの走って来る音が聞こえる。お梅は驚いて、俺から離れた。

「芹沢先生!」

 障子が開き、平間と平山が顔を覗かせた。相当呑んだのか、あるいは長い距離を走って来たのか、顔が真っ赤になっている。

「どうした?」

「新見が……切腹しました」

「何!?」

 平山の話しによると、酒を呑み過ぎて泥酔した新見が、その勢いで矢島藤十郎から二十両借りたことを言ってしまったらしい。

 局中法度には「勝手に金策いたすべからず」とある。これに背いたら切腹を言い渡される。

「新見が……」

 俺は大事な片腕を失った。



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