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色褪せた写真  作者: 氷室冬彦
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9 閑話、さりとて無駄ではなく

「――以上の観点と警備隊の報告から、世界ロドリアゼル中の犯罪件数の全体数が増加の傾向にあり、なおかつ、近年では一般的なそれとは違う怪事件や、凶悪な事件の数が急増していることがわかると思う。具体例は手元の資料にあるとおりだ」


会議室では、世界各大陸から招集された代表の一国と、同伴者少数による国際会議が催された。議長を務めるのは南大陸代表、ロワリア国の化身、ロア・ヴェスヘリー。彼女の話を静かに聞くのは、八人の参加者たち。


ロワリア国内の領土ラウの領主であり、ロアの護衛を務めるジオ・ベルヴラッド。同じくロワリアの領土、今ではロアの妹のような存在であるリワン亡国の化身、リン・ヴェスワテル。


西大陸代表、ロワリアと因縁深いセレイア大国の化身、セレイア・キルギス。同じく西大陸、水の都セリナの化身、セリナ・ウォール。東大陸代表、いまだセレイアとの確執の残るダウナ国の化身、ダウナ・リーリア。ダウナよりやや北に位置する、孤立した島国リーズベルグの化身、リーズ・ベルグ。北大陸代表、最果ての王、雪国セル―シャの化身、セル・テルシャ。中央大陸代表、大陸内で国土が東西に分かれている竹林の国リチャンの化身、チャン・リウメイ。


ロアの言葉に、いの一番に反応したのはセレイアだった。左右非対称に整えた白髪。右頬に十字架の刺青があり、耳には十字架のピアス。同じく十字架のチョーカーを首元に揺らしながら、鋭くとがった黒い瞳がロアを見据える。


「そりゃあ、まあ、お前んとこみたいな平和ボケ弱小国からすりゃ、なんでもかんでも凶悪な事件だろうよ。ヤベーことするやつなんていつの時代も一定数いるもんだ。んなもんいちいち気にしてられっかよ」


「セレイア、もう老眼が始まっているのかい? 資料をよく見ろよ。治安の悪い無法地帯の如くセレイア大国サマの物騒なお庭でも、他とは明らかに質の違う奇妙な事件が起きているはずだ。まさか君ほどの男が自分の庭で起きた事件を知らないとは言わないだろうね?」


「口の減らねえガキだな」


彼はただロアの言葉に一度は噛みついておかないと気が済まないだけだ。セレイアとロアの間に流れる、互いにナイフを突きつけ合うような空気をものともせず、配られた書面を眺めていたセルがのんびりとした声を出す。


「うーん、僕のところでは今のところなにもないみたい。……ああ、でも、考えてみればそれもそうか。なにかあったとしても全部が雪に埋もれちゃうから、そもそも発覚しないものね」


「さらっととんでもねえこと言いやがったな、こいつ」


「セルーシャでは人より自然に殺されることのほうが多いと聞いているけれど、それってただおおやけになってないだけなんじゃ……」


「引くわ」


「セルーシャこそが本物の無法地帯ってやつじゃないのかよ」


ロアやダウナ、セレイアなどが顔を引きつらせながら口々に言う。リウメイはセルの発言については言及せず、ただむずかしい顔をしていた。


「そうは言っても、ヴェスヘリー。一般的な事件とは違う怪事件や凶悪な事件……というのは、いささか定義が漠然としすぎているのではないか。君にしては珍しい。その説明では正直、私にはどういった事件を指しているのかがピンとこない」


「それは私自身もすまないと思っているところだ。具体例は記載しているとはいえ、基準が曖昧だと言うのもわかる。でも、本当にそうとしか言いようがなくてね」


リウメイの隣でリーズも資料に目線を落とした。


「リチャンさんのところでなにかあったという報告はないみたいですね。僕のところも、奇妙な事件が起きたという報告は聞いていません。今のところは、ですけど」


「君とヴェスヘリーのところは私たちよりも治安がいいからな」


「ダウナくんのところは、なにか該当する事件はあった?」


「ああ……一応、俺が把握してる限りでも二件三件。たしかにロアさんの言うとおり、他とは違う、なんとなく異質な事例だった。俺が直接その場に居合わせたわけじゃないけど、ロアさんの話がそういうのを指していることはわかるよ」


「セレイアではなにもないところで謎の火柱があがる現象が目撃されて、セリナでは最近、街中にカルセットの巣が発生した。南大陸でもおかしな事例が数件。それはレスペルやこのロワリアで起きた事件も含まれている」


「絶滅したはずの斬人の生き残りが起こした事件のことだね」


「待ちなさいよロア。あの事件は偶然と偶然が生んだ産物だって、私はそう聞いてるわよ? あんたがそう言ったんじゃないの?」


リンが異を唱える。ロアは腕を組んで息を吐いた。


「もちろん、あれ自体は偶然が重なって起きた事件だろうとも。あの事件が、ああいった形のものになったのはね。ただ、絶滅したはずの斬人が、レスペルの、なんの変哲もない街中に潜在していたこと自体は偶然ではない。これは当時、探偵が言っていたことなんだけど、おそらくなにかしらの手引きがあってのことだと」


「なぜ斬人がそこにいたのか――それを追求するのは依頼の範疇ではなかった。ギルドの仕事はあくまで、行方不明者を見つけ出すこと」


ジオが静かに補足する。リーズがそっと小さく手を挙げる。


「それらはなにも近年で集中的に、あるいは爆発的に急増した……というわけではないんですよね? ここ数十年のうちにぽつぽつと、ということなら、セレイアさんの仰るとおり、そうまで気にすることでもないとは思いますけど……ときどきおかしなことが起きるのは、昔からありましたし」


「私もそう思っていたんだけどね。そういうのがここ数年でじわじわと増加の傾向にあるのはたしかだよ。それに、実はこの状況を変だと言い出したのは他でもない、探偵なんだ」


ロアが説明すると、一瞬だけ空気がざわついた。リウメイが口元に手をついて小さくうなる。


「なるほど、探偵くんの言葉か……たしかに、彼直々の警告となると聞き流せないな。ヴェスヘリーが私たちに呼びかけるのも道理だ」


「つまり、なんだ? 世界的に見て、徐々になんらかの異変が起こりつつあるってことか?」


セレイアの言葉にセリナが首を振った。


「そうじゃないと思うわ。以前、セリナの件で探偵くんたちがうちに来ていたとき、私も同じことを彼に聞いたのだけれど、この世界の在り方が少しずつ変化しているような、そんな自然的なことが原因ではないと言っていたのよ」


「自然的なことが原因じゃない、っつーことはその反対、作為的な変化だと?」


「ええ――たぶん。なにか言いかけていたところで、そのまま帰っちゃったから、私もちゃんとは聞けていないのだけど。たぶん、仕組まれたことなんだと思うわ」


「ロアさん、他にはなんかない? 探偵はなんだって?」


「彼が言うには、鍵に気を付けろと」


「鍵……?」


「おいロワリア、探偵は今どこにいる?」


「探偵は留守だ。たしかに、彼に話を聞くのが一番手っ取り早いんだけどね。留守じゃなかったとしても、いったいどこまで話してくれるか、彼がなにをどこまでわかっているのかも不明だ」


「ったく、焦らしやがる。重要な話なら手前てめえも出ろってんだ」


「とにかく、各地で奇妙な犯罪を起こす手助けをしている何者か、あるいはそういった集団が存在すると見ていいだろう。詳細は先に話してあるとおりだ。各国、十分に注意してくれ。できれば後日に大陸ごとの会議を開いて、他のみんなにも伝えておいてほしい。なにかこちらでわかった情報があれば、随時連絡する」



*



「春斗が来ているんだってな」


司令室でコーヒーを飲みながら休憩していた郁夜が言った。礼がその正面に座る。


「依頼人の代理だってさ」


「また変なことに巻き込まれてるのか、あいつは」


「さっき本当の依頼人も来たよ」


「依頼の内容はなんだ。フィストも事情を把握しているのか」


礼の隣で水を飲んでいたフィストが頷いた。


「ああ。なんでも、その依頼人――絵里香というのだが、彼女は数ヵ月前から奇妙な夢を見るらしい。そして、その夢の中に出てきた黒い女が、現実でも追いかけて来るのだと。そのことを柴闇や龍華たちに相談に来たのだが、見ただけではわからないので、ひと晩こちらに泊まって様子を見るのだそうだ」


「夢の中に出てきたものが現実でも追いかけて……というのはどういうことだ」


「夢の内容は、森の中で黒い女に遭遇する、というだけのものだ。その舞台となっている森というのは、絵里香の部屋に飾ってある絵画の景色らしい。部屋だけでなく、彼女の家にはいたるところに絵画が飾ってある。その絵の中に黒い女が写り込む。額縁を伝って追いかけるのだ」


「ただの幻覚だとしても、なにかに憑かれているんだとしても厄介だな。お前の力でなにかわからないのか」


「それは今夜に調べるつもりだ。夢を喰っただけではいまいちわからなくてな。今、絵里香は春斗や柴闇たちと一緒に、涼嵐のところへ向かっている。アリアにも相談するつもりだと聞いた」


「まあ、その夢と女がなんであれ、精神的な疲労が溜まっているならアリアを頼るべきだな。柳季いわく、夢に関係するカルセットは複数いるが、夢を見せるカルセットは五種類で、そのうち死の危険があるのは二種だそうだ。もしそれが夢を見せるカルセットによるものだった場合、五分の二は決して低い確率じゃない」


「でも一週間だっけ。おかしいな」


「ああ、そこがどうしてもな。それでも悪夢を見てるんだろう。柳季はなんて言ってるんだ」


「夢を見せるカルセット、あるいは幻覚を見せるカルセットということなら思い当たるところはあるが、今の絵里香の状況を見るにどれもしっくりこない……のだそうだ。疑うわけではないが、あの柳季という少年の情報は信頼に足るのか?」


「あの探偵ですら驚嘆の息をもらすほどだ。この世界に存在している――あるいは存在していた、すべてのカルセットを把握しているとみていいだろう」


「そうなのか。なるほど……それは、たしかに絶対的な知識と言えるだろうな」


「夢を見せるカルセットと言えば、前にもあったな。郁が昔の夢を見せられてさ」


礼が言う。郁夜は手に持っていたカップをひざ元までおろした。


「……そうだな、そんなこともあった。結局あれがなんだったのかは、よくわからないままだが」


「郁夜はカルセットに憑かれたことがあるのか?」


「フィストが知らないのも無理はない。実は、……俺がちょっとした思い出の場所に行ったときに、黒鳥に目をつけられたらしい。そのときは過去の出来事を追体験するような夢を連日見続けた。内容が内容だっただけに、あれには結構参ったな」


「……黒鳥に?」


「夢に関連するカルセットは生態がよくわかっていないものが多いらしいが、フィストは黒鳥について知ってるのか」


「ああ、俺も夢に連なる力を持っているからな。同じく夢に連なる力を持つカルセットについては、親近感もあって積極的に調べるようにしているのだが……すまない、話せるところまででいいので、当時のことについて詳しく教えてくれないか」


「それくらいは別に……どうかしたのか」


「いや……単なる、好奇心のようなものだ」


郁夜は自身の身に起きた当時の出来事についてをフィストに話した。自分自身が経験したことと、あとになって礼から聞いた話。夢の内容については多くを伏せたが、それでも郁夜になにがあったのかを理解するには十分の情報を明かした。郁夜にしてみればただの近況報告のつもりだったが、対するフィストは真剣な顔でなにかを考えているようだ。


「――まあ、そんなもんだ。黒鳥に関しては柳季から教えてもらって、とくになにかしてくるわけでもなく無害なものだから、ただ去るのを待てばいいと言われた。大した話じゃない。ただ無駄に疲れただけだったよ」


「そのときに見た夢の内容については、俺が詳しく教えてくれと言えば説明できる程度には覚えているのか?」


「そうだな、忘れようがない。ただ詳しいことは……悪いが、あまり口にしたくない嫌な夢とだけ。とにかくとんでもない悪夢だった」


「ああ、いや、別に内容が知りたいわけではない。催促しているのではないから気にしないでくれ。……その最後の夢には、礼が出てきたのだな?」


「そうだ。なにをどうしたのかは知らないが、とにかくこいつが来たおかげで俺は一番見たくない部分を見ずに済んだし、毎日嫌な夢を見ていたわりに翌日の目覚めは良かった」


「夢に干渉する力がある人がいたんだよ」


「顔の広いやつだ」


「そうなのか。それでは……いや、しかし黒鳥とは、うむ……その鳥は黒く大きかったか?」


「ああ」


「そうか……ならばたしかに黒鳥なのだな」


礼は先ほどから横目にフィストを見ている。彼の煮え切らない態度に郁夜は首をかしげた。


「どうした、フィスト」


「……黒鳥の別名を知っているか? あれはな、一般的には黒鳥と言われているが、俺たち夢喰い鬼や、それ以外の夢に関係する力を持つ者たちからは、夢喰い鳥とも呼ばれているのだ」


「夢喰い鳥……」


「黒鳥が郁夜に取り憑いたのは偶然ではなく、何者かが意図したものだ。憶測だが、それは柳岸柳季と関わりのある者、あるいはそのため・・・・に関わりを持った者とみていい。柳季の情報への信頼はお前たちの態度や、探偵が認めていることからもわかる。常に正確で、厳密で、緻密ちみつな情報を提供できる男だ。ならば、ああ……郁夜、お前は明らかに狙われていたはずだ」


「どういうことだ」


「黒鳥――夢喰い鳥とは、その呼び名のとおり夢喰いの力を有した鳥型カルセット。夢を見せるカルセットではないし、まして特定の人間に数日単位で取り憑くような真似などしない。あれは一夜のみ、人々から悪夢を吸い取っては別の地へ羽ばたいてゆく、それだけの存在だ。夢を見たような気がしたが、起きたときにはどんな夢だったか忘れてしまった――という現象の正体、それが黒鳥だ」


「なにを、つまり……柳季の情報が間違っていたと」


「いや、おそらくだが、彼の知識が間違っていたのではなく、認識が歪められていたのだ。何度も言うが、夢喰いとは記憶を喰うということ。黒鳥を操るような能力者がいたとすれば、それを使って本来の黒鳥に関する記憶を奪い、誤った情報を教え込むことも不可能ではないだろう。それに、彼が黒鳥だと言ったその性質のカルセットというのは別に存在する。情報がすり替えられていたのだ」


「なんのために」


「黒鳥はその日見た夢を吸い取る。お前が見た夢が現実にあったことの追体験のような内容だったということは、その記憶を奪いたかったということ。つまり、お前になにかについての記憶を忘れさせようとしていた」


「だが俺はなにもかも覚えているぞ。なにも忘れてないはずだ」


「それは礼が夢喰いの儀式を邪魔したおかげだろう」


「儀式……」


「儀式だとも。自分ではその記憶を消せない、だから黒鳥を使った。忘れさせたい記憶が夢として表れ、それが数日に分けられたのは、情報量が多すぎたことと、その記憶自体が遠い過去のものであったためだろう。礼がなんの手も打たずに七日目の夢を放置していたら、今の郁夜からは確実に、ある特定の記憶が抜き取られていたはずだ。まさに記憶を奪うための儀式だ」


「夢の記憶だけでなく、現実での記憶も抜き取れるのか?」


「やりようによってはな。黒鳥が人間や他の生物から記憶を奪うのは、たとえば自分が狩りの標的とされて生命を脅かされたとき。夢喰いの能力を応用し、対象から自分自身に関する記憶を奪い、自分が今なにをしようとしていたのかを忘れさせる。そうやって危機を脱して生き延びるのだ。俺もときどきやる」


フィストは膝の上で強く拳を握った。


「到底許しがたい。夜な夜な人々から悪夢を引き離すだけの、穏やかで無害な黒鳥を利用して、その夢喰いの力を、よもや身勝手な悪事に使わせるとは」


「……礼、お前はどこまで知っていたんだ」


「まあ、今フィストが言ったことのほとんどは。あれが夢喰い鳥って呼ばれてるのは知らなかったけど」


「なんで言わなかったんだ」


「必要ないと思って。あの子、俺にバレた以上は自分の負けだって言ってたから、たぶんもう郁になんかする気はないよ。気が変わってなかったらだけど。だから言ったところで不安にさせるだけかなってさ」


「礼よ、それはたしかなのか?」


「うん。できないってほうが正しいかも。気持ち的にね。全部見られた以上なにしても意味ないから、もういいみたい」


「その話を信用するなら、これ以上その件について言及するのも無意味なのだろうな。だが警戒は解くべきではないだろう。念のため、今後しばらくの運勢を見せてもらえるだろうか」


「ああ、頼む」


「俺も俺も」


「では、手を。いつもどおりに。二人とも最近見た悪夢を思い出してくれ」


「悪夢か……」


「俺、狭い地下みたいな通路ででっかい大福から逃げる夢見たよ。すげー怖かった。昨日の夢ね」


「は?」


「押しつぶされると自分も大福になっちゃうから必死で逃げて、行き止まりでヤバイ! ってなったところで起きたんだけど。あ、郁は豆大福になってたよ。こんくらいの小さいやつだったから俺が持って逃げてたよ」


「俺は潰されたのかよ……」


「でも途中で食べちゃった」


「なんで食った!」


「いつものことながら、礼はおもしろい夢を見るな。郁夜はどうだ、なにか悪夢を見なかったか?」


「お、俺か、うーん……そうだな、五日ほど前だが、洞窟のなかを他の仲間と複数人で歩いていたら、そこを巣にしていた野犬に襲われて、知らないうちに仲間が一人ずつ減っていく夢を見た。俺も腹を食い破られたがまだ生きていて、野犬がそれに気付かず去っていこうとするから、死んだふりでしのいだところで起きた」


「礼と違ってリアル指向だな」


「変な夢を見るよねえ、お前は」


「礼にだけは言われたくない。フィスト、それでいいか」


「ああ。では、その夢をいただこう」


結果が出るのは早かった。フィストはすぐに伏せていた目を開くと、うむ、とひと呼吸おいて切り出す。


「三か月先まで占えそうだ。礼の夢は上質かつ新鮮だったから、もう少しまでわかる。郁夜はとくに問題ないな。全体的には吉とみていい。水回りに気を配るとなおよし。ただ仕事のことが気になるのはわかるが、睡眠時間は削らないように気を付けてくれ。運気が悪いほうにかたむいてしまう」


「耳が痛いな」


「郁はあれこれ気にして遅くまで起きてることが多いからなあ」


「問題は礼。お前にひとつ、凶の卦が出ている。些細なものではあるが注意と警戒は必要だ。急な来客には用心するがいい。眼鏡は外しておくが吉だが、決して手放さないように。見逃すべきでない事柄を見逃さず、常にすべてを見通せるよう、備えるだけでも兆しは変わる」


「おっと、凶は初めて出たな」


「あくまで占い。今はこのような結果でも、未来は如何様にも変動しよう。凶と言っても、お前の命がおびやかされるほどのものではない」


「なら安心だ」


「だが礼、俺の言葉を忘れるな。俺の占いが当たるか外れるかは、これからのお前たちの行動にかかっている。当たってくれるなよ。お前たちにはこの運勢を変えられるだけの、十分な猶予があるのだから」

次回は九月二十一日、十三時に更新します。

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