小品:瓦
筆者をふくめ酔つ払ひが多く住む**郡の とある山裾には 古寺の址があり 瓦が出土する
この辺りに伝わつてゐることだが むかし 寺男のひとりが 山仕事の最中に白い奇妙な生き物を拾つたと云ふ
寺男は目のよくないひとであつたので 自分の両手に乗つてふるへてゐるその小さな生き物を 寺のまはりに棲みついた犬どもの仔だと思つた
寺男が 木のうろにその仔を入れ 水などを運んであげたのは まつたく情けの心からであつた
ところが このためにえらいことが起こつたのである
白い小さな生き物は 実は星の子どもであつた 眠るべき昼間にひとり遊びをし 誤つて空から落ちてしまひ まだ自力で帰る力もないので ふるへてゐたらしい
夜になり 子のゐなくなつてゐることに気づいた親星が 地上を見下ろしさがしたが うろのなかで眠つてしまつた子ども星の光は 空まで届かなかつた
一晩中さがしても見あたらず 朝が近づいてきた
東の空が少しづゝ明るくなるにつれ 仲間の星たちが 光を消して眠りはじめた 自分ももう眠らねばならない
さああせつた親星は えいやツと乱暴な行動に出た
子が落ちたとしたら この辺りではなからうかと見当をつけた場所の近くに 空の上から体を逆落としして ぶつけたのである
山は揺れ 地はふるへ 大音響が早晨の空に轟きわたつた 人間も獣も物の怪も すべて目がとび出るほどの勢いで目覚めた
びつくりした子ども星も 光をぴかりと放つた それを親星が見つけて抱きよせ ふらつきながらも 空へつれ帰ることができた
近くの里の人々が表に駈け出て見たときには 小さな光をくつつけた大きな丸い光が つぶれたりのびたりしながら えつちらおつちら空の高みにのぼつていくところであつたといふ そして朝日が輝くと 星は姿を消したのである
寺の瓦はたくさん吹きとんだ
建物がこはれたのは 一部分のみであつたが 僧侶たちが度胆をぬかれてしまひ この地に留まりたがらなかつた
ほどなく廃寺となり いまでは砕けた瓦ばかりが むかしあつたことの証拠となつてゐる
了




