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五行の歌:東をはこぶ鞄
□東をはこぶ鞄
ととのはぬ
心もちたる
母が泣く
桃の咲くまで
まだ日は遠し
あだしをの
背に唇あてて
眠りたし
うぶすなの地の
星売れし夜
酔ひてあれ
異国歌に
たよりせぬ
旅立ちしひと
花のときまで
* * *
おとろへし
大樹のしたを
春の風
あびて ちちはは
訪ふゑみごころ
よびかける
唇さむく
春浅し
母の宿れる
佛壇の世も
かへされぬ時よ
花瓣のひとひらよ
誤りて来し
夜道に
落ちぬ
* * *
獣性を
こらへる息吹
此の刻を
ひろく包める
空虚のなかで
珈琲と
紅茶をまよひ
そのをみな
花ちる町で
ひとを待つかほ
星の池に浮かんだ
地球といふ泡に住み
胸のうちには
戀といふ泡が
ひとつ
* * *
そつと出て
沈みゆく月
ふるさとの
まどろみのなか
戀をわすれぬ
東をはこぶ鞄 了




