短詩集:夏風そだち
□夏風そだち
をんなごころを
ひろげてみれば
さびしさつのる
水中花
迷子の象の
とぢこめられし
玩具箱あり
胸のなか
しあはせこぬと
嘆くぶらんこ
ただ揺れてある
春の夜
* * *
義母の薬を
たしかめてゐる
待宵草の
ひらく午後
夢よさめるな
さめたら我は
夜のさなかの
枯れ小花
やまを越えくる
夏風あびて
ことばかたらぬ
父むすこ
* * *
金魚の尾ひれ
追ひてまどふた
こどもの夢に
いまもまだ
わづかながらの
しあはせもつて
みづいり水晶に
はひりたし
しよせんこの世は
恋歌ひとつ
うたひ終はれば
またひとり
* * *
猫が寝がへり
鈴の音ちろり
夢はさめたか
朝顔も
想ひ秘めたる
卵の夜を
もうすぐ春と
見あげ泣く
母をなくせし児も
夢を見む
紙風船のやうな
夜
* * *
通りすぎゆく
影に加はる
ふるさとの養母
いかならむ
うつつごころの
うつろとなりて
母の手こひし
雷の夜
かかと減らせし
つめたき靴が
勿忘草を
訪ねゆく
* * *
老いた姿を
恥ぢたる歌が
水無川を
くだりくる
冬の虹みて
愛するひとを
さがしさがして
時の果て
花のしかばね
重なる夜を
位牌ぬすみし
女衒ゆく
* * *
街のさなかに
居場所なけれど
胸の火のそば
生きてゆく
夏風そだち 了




