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ほろほろ鳥も夢をみる  作者: Miki Kukiri
54/68

小品:人魚 ほか 





□人魚 


 人魚の肉を喰らえば永久(とわ)の生命を得るという しかしわたしは自分の体にかぶりつく勇気がもてなかったため こうして老いさらばえて死んでいこうとしているのだ 臆病な婆を(わら)っておくれ…… 縁日で掬ってきた金魚がとつぜんこんなことをしゃべりはじめたので ぼくは 子どもたちが変な言葉をおぼえてきて困ると母さんがなげく気もちがわかる気がした 






□幻獣 


 ふしぎな姿をした 伝説上の獣の絵ばかりを収めた古書を眺め ぼくの同僚である研究者は大笑いをした いやはやこんな珍妙な生き物どもがいるもんかい もしいるならお目にかかりたいがとっくに絶滅してしまっただろうから残念だよ! 残念なのは君の想像力さ ぼくはこっそり同僚をあざ笑った 世界はふしぎで満ちている どんなことだって起こりうるんだ ある時 遥か未来からぼくら自身を名のる連中がやってきて 人間が増えつづけてもぼくらが狩られて滅びずにすむように ぼくらを変えてくれた 人間の姿にね ぼくらは寿命では死なないしゆっくり数が増している その本に載ってる連中は全員元気でやっている たまに集まって酒をのむんだ 





□名探偵 


 名探偵になるにはどうすればいい? あるとき息子が尋ねた 父親は とりあえず推理小説をたくさん読むことかな と答えた 息子は成長して推理小説作家になった

 名探偵になるにはどうすればいい? あるとき息子が尋ねた 推理小説作家である父親は とりあえず推理小説をたくさん読むことかな と答え 自分の小説をまず薦めた 息子は成長して推理小説編集者になった 

 名探偵になるにはどうすればいい? あるとき息子が尋ねた 推理小説編集者である父親は とりあえず推理小説をたくさん読むことかな と答え 自分が担当した本を薦めた 息子は成長して推理小説出版社の経営者になった 

 名探偵になるにはどうすればいい? あるとき息子が尋ねた 推理小説出版社の経営者である父親は とりあえず推理小説をたくさん読むことかな と答え 自分の会社から出された本を薦めた 息子は推理小説企業連合のトップになった 

 名探偵になるにはどうすればいい? あるとき息子が尋ねた 推理小説企業連合のトップである父親は とりあえず推理小説をたくさん読むことかな とやはり答え 企業連合のなかの外国の会社が出版した本を薦めた 息子が成長し推理小説国際連合を築き上げたのを見て 父親はたいへん満足した 

 それからさらに何代も経て 名探偵などという職業はないと 早々と気づいた息子が現れた 息子は父親に名探偵になるにはどうすべきかを訊かなかった その子はまぎれもなく天才であった しかし父親が推理小説を読むようにとばかり言うので 推理小説など目にするのも嫌になった すでに一族は地球にとどまらず太陽系全体に進出した人類社会にとって他に換えがたい主要な柱であった 推理小説をしつこく薦められつづけた息子は 成長しても何者にもならなかった 一族は崩壊した 一族が支えていた人類は…… 





            了 





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