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天の川に花束を ~Lost Love Song~  作者: RUIDO
第四次空襲警報 第三次世界大戦
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第八話 声よ、届け 後編

真田さなだはどこに行ったんだ!」

「連絡が途絶えてる!今はとにかく退避しろ!」

 エイワックスは危機的状況にあった。天川結衣あまかわゆいが海軍艦を撃破した。

 そのおかげでエイワックスに対する警戒はより強いものとなった。空軍自衛隊はエイワックスを撃破することを第一目標とした。

 絶え間なく戦闘機が襲い掛かり、足元には海軍の戦艦まで悠々と泳いでいた。

 その無数の砲身がエイワックスへと向けられる。

 高度を下げれば海軍艦の餌食。高度を上げれば無数の戦闘機に囲まれる。そして、真田の声は絶対待機を命じていた。

 真田を救出に向かったヘリも現在は消息不明。それが撃墜されたという情報もない。

 八方塞がりだった。

 それ故に天川もまた空を駆けていた。

 彼女がいなければ、今頃エイワックスは海の藻屑となっていたことだろう。

 テンタクル(触手)でミサイルを弾き、近づいてきた戦闘機を雷光によって威嚇する。

 エイワックスの武装だけでは一〇分ももたなかっただろう。

 同じ艦に乗る者たちは改めて天川という存在の強さを痛感した。エイワックスという足かせがなければ、一〇分もあれば足元の海軍艦隊も含めて、まとめて掃除をすることも可能だということを誰もが理解した。

 それゆえの希望。天川が世界の命運を握っているという真実を誰もが改めて理解する。

 それは斎藤琢磨さいとうたくまも同じだった。

 斎藤は初めて、彼女が戦闘機と戦う姿を目撃した。それは彼にとって人生で初めての未知との遭遇だった。

 ほうき星のように空に白い軌跡を残し、斎藤が追いかけた視線の先で敵をなぎ倒す。かと思えば次の瞬間には視界の端へ。そして、頭上、足元へと機敏に駆け回る。

 流星だ。願いを託す暇すら与えない。あまりにも奔放すぎる飛行、その姿にわずかに恐怖した。

 味方でよかった。そう思った直後だった。

「北方より入電!所属不明機の接近を確認!ものすごい速度です!」

 管制室に響いた声に誰もが驚愕した。

 それぞれの国はそれぞれの国を守ることで必死だった。ましてや領土の広いロシアが日本にわざわざ援軍を送るなどということは考えられなかった。

「敵機迎撃態勢に入りました。日本の援軍ではありません!」

 何が現れた。

 誰も予想していなかった。

 もう一羽のキツツキがその嘴をエイワックスへと向けていた。ウッドペッカーにあまりにも似た姿に反応が遅れた。

テンタクル(触手)の展開を確認!敵機です!」

「ゴーストか!」

 織田おだはスワローの中にいた。操縦桿を振り回し、エイワックスを周回する。

 日本の戦闘機ですら、所属不明機に向けて、臨戦態勢を取っていた。

「ロシアのクリューブか」

 織田は予想する。援軍を出すことも出来ない現状で、なぜこんなところにロシアから戦闘機が現れたのか。

 おそらく戦闘訓練を兼ねた実戦闘が目的だろう。ならば、最低限の攻撃を与えることで退避すると考えた。

「こちらスワローワン!スワローシックス、セブンはエイワックスの援護を継続。スワローフォー、ファイブは俺に続け!」

「了解」

 織田の言葉にスワローたちは空を舞う。柔らかな弧を描き、所属不明機へと視線を向ける。

「スワローズ、ワン、フォー、ファイブ、まもなくエンゲージ」

「フォックス!」

 スワローが火を噴く。弾丸の雨を弾くように、クリューブはテンタクルを振り回す。

 その戦い方はまるで、天川のウッドペッカーそのものだった。

 悠々とテンタクルを展開し、その先端から雷光を解き放つ。日本の戦闘機は一瞬にして灰燼と帰す。

 通常の戦闘機よりもわずかに戦闘力の高いスワローズでも、それを迎撃することは出来なかった。

「こちらエイワックス、ウッドペッカー、所属不明機の迎撃に迎え」

「・・・了解」

 エイワックスは防御を薄くし、迎撃態勢に移行する。だが、足元の海軍艦隊はそれを見逃さない。

 それまでただただ茫然と見守っていた砲身が、ゆっくりとエイワックスへと向けられる。

「敵空母、ターゲットロックオン」

 巨大な砲身が、その中央にエイワックスの姿を捉える。

「エイワックス、ロックされました!」

「くそ、キャット!戻れ!エイワックスを死守しろ!ここでエイワックスが落とされたら、」

颯太そうたが死ぬ」

 その声と共に上昇していたウッドペッカーは宙返りするように旋回する。

「全艦一斉放射!」

 海軍艦隊から次々に砲弾が放たれる。それは地球の技術ではない。

「敵艦隊、熱源反応拡大!これは」

 本来、あるはずのない力だ。頭上へと向けられた砲身には、重力の塊が目に映った。

「チゥドーヴィシシィ」

 誰かが囁いた。

 中国を襲った巨大固定砲台が放ったものと同じ。黒い煙の塊のような無数の黒い球体が、ウッドペッカーの視線に映った。

(くる)

 天川は覚悟した。それはテンタクルで弾くことは出来ない。最大出力の雷光を放ったとしても、それを撃ち落とすことは出来ない。

 それらをすべて悟った。それゆえに、天川は立ちはだかる。

「ウッドペッカー、出力の上昇を確認。現在七〇パーセント!」

 テンタクルから放たれる雷光は直線的なものである。例えるならばレーザー光線のようなものだ。

 普段の出力は三〇パーセント程度のものだ。ゆえに雷のように雷鳴を置き去りにして光を解き放つ仕組みになっている。それが出力を上げることで、その線は絵筆のように進化する。

「こちらエイワックス、ウッドペッカー!それ以上出力を上げるな!」

「ウッドペッカー、現在八五パーセント。まもなく九〇」

「キャット!ここで死ぬ気か!」

「衝撃に備えろぉ!」

 それぞれの思いが、それぞれの攻撃が、交錯する。

 黒い塊は解き放たれる。仲間の小型の戦艦が海面を離れる。海が空へと昇っていく。

「死なせない」

 天川は小さな声で吠えた。直後、テンタクルが光を放つ。

「颯太は、死なせない!」

 覚悟を見せろ。腹を括れ、死ぬ気で生きろ。

 ウッドペッカーはテンタクルに雷光を纏った。稲妻を放つテンタクルが物理の法則を突き破る。

 重力の砲弾に実態はない。本来ならば、それはテンタクルで触れることも出来なかった。だが、無機物に対して無機物を纏わせることで、それが可能となる。

「ウッドペッカーの出力最大!このままではウッドペッカーが壊れるぞ!」

 それは同時に諸刃の剣でもある。

 天川は雷そのものとなって駆け抜ける。向かってくる黒い砲弾へとテンタクルを叩きつける。だが、雷を纏ったテンタクルでは弾道を逸らすことが精いっぱいだった。

 幸いにも重力の砲弾は空へと飛んでいく。一つの砲弾の軌道をなぞるようにして、他の重力の砲弾もまた、空へと流れていく。その軌道の最中、不運にまみれたのは日本の空軍自衛隊である。

 直接触れたわけでもないのに、吸い込まれるように黒い砲弾の渦へと巻き込まれた。

「ウッドペッカー!出力停止!通信不能!キャット!応答願います!」

「天川!」

 織田が吠えた。無意識に操縦桿をひねっていた。

 天川の元へ体が自然と駆け出していた。だが、クリューブはその隙を見逃さなかった。

「スワローワン!逃げろ!」

 雷鳴。目で見るよりも先に織田は機体を傾けた。

「スワローワン!被弾!急いで帰投してください!スワローワン!応答願います!」

「おだっち!」

 織田は吠えていた。まだ生きていると。スワローはまだ堕ちていないと。だが、彼の声は途絶えていた。

 誰の耳にも届かなかった。

 それでも、彼は吠えていた。

「天川!退避しろ!お前が死ねば、世界は終わりなんだ!」

「スワローワン、再行動を確認!以前、通信不可」

「織田!早く戻れ!あんたに死なれたら、残された俺たちはどうすればいい!」

「織田!頼む!織田!」

 日本空軍の攻撃を織田は無視した。

「スワローワン、被弾!」

 降下する。エイワックスの足元を守護する一人の少女の元へと駆け抜ける。

「何をするつもりだ」

 スワローは空を舞う。勢いよく嘴を海へと向け、銃弾をまき散らす。

「海軍艦隊、一機撃沈を確認!」

「織田!もういい!戻れ!」

「ウッドペッカーは!?」

「以前、出力停止。八秒後に海に落ちます!」

「その前に蜂の巣だぞ!」

 織田には彼らの声が聞こえていた。

 戻って来いという声も、もういいという声も。

 織田は素直な男だった。上官の命令には従順であり、祖国のために生きてきた。

「俺が守ってやる」

 ノイズばかりが走る無線機に向け、織田は高らかに囀る。

 もがれかけた翼を羽ばたかせ、彼は足元の艦隊へと攻撃を開始する。

「重力砲発射用意!」

「エネルギー充填中。現在一五パーセント!間に合いません!」

「迎撃準備!」

「早すぎます!撃ち落とせません!」

 スワローが海を切る。その軌跡に残される者はいない。海軍艦隊は煙を上げて沈黙する。

「スワローワン、敵艦隊の攻撃に成功!重力砲、砲塔破壊に成功!」

「よくやった、織田!早く帰ってこい!」

「クリューブに動きあり!ウッドペッカーに接近中!」

「なんだと!?」

 クリューブはウッドペッカーへと接近していた。それをいち早く察知したのは織田だった。だが、彼の機体は高度を上げることが出来なかった。

 船首を持ち上げ、飛翔しようと試みたが、地球の重力には逆らえなかった。

 翼が一瞬海面に触れると同時に、バランスを崩した。

「織田!」

 誰かの悲鳴が轟いた。だが、意地で現実を変えることは出来ても、重力の法則を変えることは出来ない。

 一度バランスを崩したスワローは海面を転がった。両翼はもがれ、煙が立ち上る。

「スワローワン。応答しろ!応答しろ、織田!」

「すぐに救助を!」

「スワローシックス、セブン!ウッドペッカーの援護を!」

「クソ!間に合わねぇ!早すぎる!」

 まるで、抱きかかえるようにテンタクルは伸びていた。クリューブはウッドペッカーを包み込むと即座に上昇する。

「どういうことだ!」

「持ち帰る気か!?」

「それだけは何としても阻止しろ!」

「ウッドペッカー以前反応なし!このままでは!」

 クリューブは上昇する。残されたスワローたちが、すれ違う。慌てて飛翔しようとするが、クリューブの速度には追いつけない。

「威嚇射撃開始しますか!?」

「オープンチャンネルにて通信を開始しろ!俺が話す!」

「口でどうにかなる相手か!?」

「やってみなきゃわからんだろうが!」

「いっそ、奪われるくらいなら、破壊してしまうというのは」

「それでは本末転倒だぞ!」

「所属不明機、止まりなさい。止まらなければ攻撃を開始します」

「やめろ!撃ち落とせ!」

「だめだ!ウッドペッカーは人類の希望だぞ!」

 人間とは迷う者である。それ故に、その姿を見ることがゴーストの楽しみである。

「こちら真田!構うな!攻撃しろ!」

「し、しかし!」

「撃て」

 エイワックスが攻撃を開始する。無数の砲弾が二話のキツツキへと向けられる。だが、クリューブはウッドペッカーを抱きかかえているにも関わらず、悠々とそれを回避した。そして、戦線を離脱、ではなく、エイワックスへと接近してきた。

「目的はスケクロウか!」

「ウッドペッカーを盾に取り、自爆覚悟の特攻か!?」

 それもいい。

 ゴーストは笑う。

 グレゴヴィッチという男は賢くはない。攻撃をされたから攻撃をする。そして、ウッドペッカーのパイロットを殺すことが、冴島さえじまから受けた任務。

 ここで役に立つとは思わなかった。ゴーストは自身の活躍を誇らしく思った。

 それゆえの慢心。

「こちら真田、攻撃を止めろ」

 聞こえるはずのない声が、戦場に響いた。

「真田は俺だ。攻撃し、ウッドペッカーもろとも破壊しろ!」

 焦燥。

 なぜ奴の声が聞こえるのか。

 ゴーストにはわからなかった。

「な、なんだ!?どういうことだ真田!どっちなんだ!」

「だったらいい。俺の声は聴くな。命令だ。俺の声を聞くな。攻撃を停止、敵の出方を見ろ。以上」

「俺が真田だ。偽物の声に惑わされるな!天川を殺せ!」

 だが、二度目の真田の声を聞く者はいなかった。

 砲身は沈黙し、ただ空を彷徨うだけのクリューブを見つめた。

 なぜ、ゴーストの声は届かない。なぜ、真田の声一つで状況が変わってしまうのだ。

「真田!お前が本物か偽物かなんてどうでもいい!」

 遥か足元。翼を失い、海面を漂う燕の上で、織田は怒りに満ちていた。

 彼の人生で、ここまで冷静さを失ったことはないだろう。

「仲間を殺せと命じるお前の声は届かない!例え、お前が本物だとしても、いや、本物だからこそ、お前の命令を許すことはできねぇ!」

 彼の叫びはその場にいた全員の叫びだった。

 星の命運を一般人の少年に託した愚か者。星のためと歌いながら、それでも、一人の少女の願いを聞き届けたお人好し。だからこそ、ついてきたのだ。

 そんな大馬鹿者だからこそ、みんながついてきたのだ。だからこそ、みんなが待っていたのだ。

 ゴーストの誤算はそこだった。 

 真田という男の愚かさと人間臭さを知らないのだ。利益でも損得でも、ましてや地球だなんて重たいもののために戦っていない。

 一人の少女のために戦うバカ兄貴。そんな彼の言葉だからこそ、ようやく家族の元へと届くのだ。

 ゴーストはそれを知らなかった。

 クリューブはウッドペッカーと共にエイワックスへと到着する。

「私はグレゴヴィッチ軍曹。真田の声を届けに来た」

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