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第8話:災禍の中心へ。

ブックマーク、評価ありがとうございます( *¯ ꒳¯*)

side:アリ



「…お母さん、ホーク……」


 ホークが囮となって森へと消えた後、アリは村人たちと共に洞窟を塞ぐ石の壁を築き上げた。

 高さにして3メートルは超える、巨大な石壁である。石壁は洞窟の入り口を完全には塞ぎ切っておらず、それは通気口と、村長、そしてホークが避難しにきた際にこの洞窟に入れるようにという役割を持つ。


 洞窟内は薄暗く、湿気が漂い、命からがら逃げ延びた村人たちの啜り泣きや囁き声が響いていた。


「アリ、大丈夫…。テイラーさんは…残念だったけど、ホークはきっと無事だから……」


 アリの隣に座る年配の女性が、アリの方を優しく抱きながら慰めていた。


 しかし、アリの心は深い絶望と悲壮感に包まれていた。


 生まれ育った村を追われ、母親を失い、幼馴染のホークも戻ってこない。

 

 彼が森に消えてからどれほどの時間が経っただろうか。

 時間が経つにつれて、アリの心は深くへと沈んでいった。


(ーーどうして私はこんな世界に生まれたの。……何もかも無慈悲で、残酷だ。何の罪もないお母さんを、愛する人を奪っていくなんて……。)


 アリのまぶたがその世界を拒むように、徐々に閉じる。


(……この世界が全部奪い去っていくなら、一体何を信じればいいの? どれほど努力しても、どれほど祈っても、すべてが虚しく崩れ去って。幸せや平穏なんて、夢の中の幻だったのかな……)


 アリの瞳に浮かぶ涙が、まぶたの重みに耐えきれず、頬を伝ってこぼれ落ちる。


(ホークはもう、戻ってこない……。希望なんて、見つからない……。この世界は、私にとってはもう無意味…。みんな一緒に、滅びたらいいのにな……)


 世界を呪う言葉。それを呟いた時、アリは意識を手放した。


『見つけたぞ……。貴様は余の…蛹なり』


 この世界のどこにも聞こえない声。しかしアリが意識を手放す寸前、そんな声を聞いたような気がした。



▶︎▷▶︎▷▶︎▷▶︎▷



side:ルウ・ブラン



 ルウ・ブランとホークは森の中をひたすらに駆ける。

 時折、先行するホークさんがこちらを見るのは、ちゃんとついてきているかと言う確認なのだろう。

 

 なんか余裕そうで腹たつ。


「…ホークさん、足や体の疲れは大丈夫なんですか? 疲れている中、そんなに急激に走ったりなんてしたら、大変じゃありません?」


 ちなみに俺は全く問題ない。森の中をホークさんのペースでちんたら走るなど息切れも起こさなければ、もはや鼻呼吸ですんでいる始末なんだから。


「一刻も早くみんなの安全を確保したくて。だから、止まっている場合じゃないんです。…それに、なぜか先ほどから全く疲れないどころか、息切れもしていませんしね」


 えぇ…?

 なんかバフでもかかってるのかよ…。

 ん? バフ?


 そういや、ホークさんのステータスって確認できるのかな。もしかしたら俺の装備の効果が彼に影響を及ぼしているかもしれん。


「…〈ワールドマップ〉」


 俺はそう小さく呟き、現れたフローティンボードを確認する。


 ほう。現地人は白色の点で表示されるのか。


 自分は青、敵は赤、NPC?は白。わかりやすくてええやん。


 んじゃ、タップ。




★ーーーーーーーーーーーーー☆

・名前:ジョブ:Lv/【ホーク:村人:5Lv】


〈種族〉

・人間


〈能力値〉

・[HP:40/40]

・[MP:6/6]

・[筋力 :5]

・[器用さ:3]

・[耐久度:3]

・[素早さ:4]

・[賢さ :12]

・[魅力 :2]


〈スキルツリー〉+1

◆【知恵】

[理解力UP]


〈付与効果〉

・〈HP回復・小〉


☆ーーーーーーーーーーーーー★




 ふむふむ…名前はホークで、ジョブは村人で、レベルは…5?


 いや、ホークが想像以上にレベルが低いことは置いておいて、とりあえず俺の装備の効果がどう影響しているか見よう。


 俺の装備、【縁起のブレスレット】は七本の金属棒が複雑に編み込まれた形状のブレスレットで、その効果は[オート・ヒーリングレイン]という、低域の回復魔術[ヒーリングレイン]を常に周りのものに付与するというものだ。


 それで、ホークのステータス見てみると、バリっバリにあるね。〈HP回復・小〉ってのが。


 今は別にいいけど、装備によっては周囲にダメージ与えるやつとかザラにあるわけだから、常時発動の効果切りたいのよね。


 まあいいや、今度考えよう。多分今、そこまで考えるべきことではない。


 次に、ホークのレベルなんだけど、5Lvってやっぱり低すぎない…?

 そりゃゴブリンにリンチもされかけるわ…。


「ホークさん…その、ホークさんもデーモンと戦うつもりなんですか?」


「僕が直接力になれることは、あまりないかもしれないけど……先ほどと同様、囮くらいならやってみせます」


 うへぇ。レベル5って言ったら駆け出しも駆け出しよ。ゴブリン程度のホークがデーモンにできることは、正直言うと何も無いに等しいね。


「…悲しむ人がいるんでしょう? …なら、ホークさん、遠くから隠れて見ていてください」


 ちょっと圧込めて言ってみたら、ホーク萎縮して「は、はい…」ってなってんの面白い。草生える。


 そういや、ホークって15歳くらいよな?

 高校1年生って感じがするわ。

 そこで疑問なんだが、俺の見た目って多く見積もって中学1年生、もしくは小学6年生ほどのロリな訳で。

 ホークが会ってからずっと敬語なのがどうしてなのかなって。


 僕、陰キャ拗らせすぎて、女性全般と話せませーん。とかだったら、敬語なのも仕方ないと思うけど、ホークはちょっとシャイな感じはするけど、そこまで女性慣れしていないようには見えないんだよな。


 まあ困ったら聞いてみるか。


「…ホークさん。あなたは出会ってから今まで、ルウさんに敬語を使っていますけど、見た目で言えばルウさんの方が幼いんですから、敬語を使う必要はないのでは…? それとも、何か理由があるのであれば構いませんけども…」


 ホークは走りながら困った顔をした後、答えた。


「…その、ルウ・ブランさんを最初に見た時、貴族の人なのかなって思ったんです。着ている服も、落ち着いた佇まいも、まるで僕らとは違う世界の人だなって…」


 あ、わかっちゃう? 貴族じゃないけど、住んでた世界が違ったのはまじね。


「そうですか…。まあ、そう見えるのも無理はないかもしれませんね。でも、ルウさんはただの…旅の剣士です。あまり気にしないでもらって構いませんよ」


 最後は微笑みかけてホークを見る。

 

「あの、はい……」


 ホークは少し恥ずかしそうに目を逸らした。


 ルウさんのスーパースマイルが青年のライフを削っていくう!

 やっぱりこいつ女性全般と会話できないド陰キャ君で決定ね。年下の笑顔にすら耐えられないんだもん。

 え? そういう俺はどうだって? 女性どころか全人類とまともに会話の出来ないド陰キャ拗らせ変態オタクですけど何か?


 そう心の中で呟き、俺は泣いた。



▶︎▷▶︎▷▶︎▷▶︎▷



 それから数分ほど無言が続き、村に近づいてきたためかホークの顔も険しくなる。


 ーーそして。


「…ルウ・ブランさん。着きました。…ソテー村です」


 木陰から顔を覗かせ、ルウとホークはソテー村を見る。


 ソテー村はすでに荒れ果てていた。

 建物の多くは破壊され、瓦礫と化す。まだ残っている建物も、崩れかけているものが多く、住める状態ではない。

 そんな壊れた家のそばには血溜まりを作り動かない者や、首のない者など、村人が辿った悲惨な運命を容易に連想させるものが乱雑に点在していた。


 そしてその惨禍の中央。人間の死体をその屈強な顎で噛み砕く、デーモン。


 ホークはその光景に思わず、吐き気を覚える。

 彼の横では、美しい剣を抜きながら村の惨状を見るルウがいる。


「…あれは、アルハントリスクと同じデーモン。レベルは65…」


 ごめん、正直余裕だわ。

 



★ーーーーーーーーーーーーー☆

・モンスター名前:Lv/【デーモン:65Lv】


〈種族〉

・デーモン(獣装)


〈能力値〉

・[HP:1,930/1,930]

・[MP:1,660/1,920]

・[筋力 :70]

・[器用さ:48]

・[耐久度:64]

・[素早さ:35]

・[賢さ :98]

・[魅力 :6]


〈スキルツリー〉+1

◆【デーモン】

[ダークフレイム][シャドウストーム][威圧]


〈付与効果〉

・ー


☆ーーーーーーーーーーーーー★





 これが、デーモンのパラメータね。

 デーモンは魔術攻撃主体のモンスターで、魔人っていう種族がいるんだけど、そいつらの眷属なのよ。

 【夢幻廻廊】に魔人は封印されているんだけど、そいつらのお供としてよく出てきたのがこのデーモンなのね。


 適当に聖属性のエンチャントして殴れば死ぬような相手だから、特に警戒する必要もないかな。


 てなわけで、ホーク君、安心したまえ。


 …ん?ホーク君、何してんの?


 俺がホークに、勝てるから楽にしてていいよって言おうとしたら、ホークが村外れの草むらを指差して深刻そうな顔をして震えている。


「…ホークさん、大丈夫ですか? なにか、ありました?」


「……あ、あそこに父が…。あの草むらに続く血の跡、その先に倒れている父が見えます…」


 ん? どれ?

 あー、確かに草むらに隠れるように布地見たいのが見えるわ。

 てか、ホーク君すごいな。こんな暗闇の中、月明かりだけでなんか見つけて、それが自分の親父さんだって断定できるんだから。


「…あの場所であれば、ルウさんたちは隠れながら移動すると辿り着けそうですけども…行きますか?」


 ホークは頷く。俺もそれに頷いておいた。


 デーモンの目線は幸いなことに、村人の死体に向かっている。俺たちが木々の裏に隠れながら回り込むように行けば、あの草むらまで見つかることなく行けるはずだ。


 デーモンを倒してからホークの親父さんのところ行ってもいいんだけど、あの血の跡から見るに、結構出血してるのよね。

 命が助けられるかもしれんし、とりまホークの親父さんの所行って助けちまおうって算段だ。


 よーし、いくぞホーク。俺には〈ワールドマップ〉がある。最適解はすでに得ているのだ。


「…ついて来てください」


「え、ちょ…」


「…お父さんのところに案内します。もしかすれば、助けられるかもしれませんので」


 ホークは「…お願いします」と言ってどうやら俺のいうことを聞く気になったらしい。素直なやつは好きやで。

⬛︎ーーーーーーーーーーーーーー

・アイテム/【星屑の雫】

〈説明〉

夜空に輝く星々の欠片から溢れた美しい雫。

これをポーションなどに混ぜると星の輝きが暗所を照らす。

暗闇でも視界を確保でき、夜間の移動に適している。

ーーーーーーーーーーーーーー⬛︎


ルウ「……スキルで〈夜目〉をとっていればいらないアイテムですね。……正直印象は薄いですけど、いざという時にあれば困らないかもしれません」

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