第9話:デーモンのち村の英雄。
遅くなりました。いつもながらブックマークありがとうございます( *¯ ꒳¯*)
今回も少々長いです。
ちょくちょく村の中心にいるデーモンを確認しつつ、ホークの親父さんの倒れているという草むらに向かう。
「…もうすぐです」
ルウの腰あたりまである草を、姿勢を低くしながら掻き分ける。
そこにいたのは、荒い息をしながら脂汗を玉のように浮かべ、横たわる壮年の男性だった。
ガッチリとした体型と、彫りの深い顔だち。そしてホークと同様に茶髪で、目はエメラルドを思わせる緑色をしている。
ホークの姿を捉えた、その宝石のような瞳に驚きが宿る。
ホークの表情はというと、安堵と焦りなど、さまざまな表情が入り混じった複雑な表情をしていた。
「…父さん!」
ホークは村はずれの草むらに横たわる父に駆け寄る。よく見れば、彼の父は血だらけで、片足を失っているようだった。
ホークの父が血の滲む顔で、辛そうに声を発した。
「……ぐっ、ホーク…か…。これは夢…なのか……」
「違う、夢じゃないよ…父さん。いったい何があったの…」
目の前のホークが幻でなかったことに安心し、微笑む父。
「……ヘマをした…。はぁ、デーモンの攻撃を、足に受けて、この草むらの近くまで吹っ飛ばされたんだ…」
そこから命からがらこの草むらに身を隠したと語った。
「…よかった」
ホークは膝をつき、父親の手を握りしめた。
「……ホーク、お前は村の者と共に洞窟に隠れなかったのか……」
「ゴブリンが……洞窟を閉じようとしたらゴブリンが来て…僕が囮になって、ゴブリンを誘導したんだ…」
「…そうか…村人の上に立つ者、その命を顧みず皆を守り抜く…。私の教えが生きたようだな」
もうお前はおれの後を継ぐ、立派な村長だ。そんな表情でホークの父親は目を閉じようとした。
しかしーー。
「…ホークさん、お父さんを、治療しても大丈夫ですか?」
俺がそんなの許さないってわけ。
「…ルウ・ブランさん、お気持ちは嬉しいですが、父は片足を失っています…。今命を繋いだとて、ここから逃げることが難しいかもしれません…」
いやいや、自分の父親の目の前でそんな突き放すようなこと言うなや。
実際助けて欲しいんだろ? そうなんだろ?
「…治療しても、いいですか」
この時、ホークの心は揺れていた。
ルウの申し出を受け入れれば、確かに父親の命は伸びるだろう。しかし、その後のことを考えれば不安がいくつか残るのだ。
それでも、父と同じ時間をもう少し歩みたい。
そんな思いが、ホークの背中を押した。
さらに、この少女はすごい力を持っている。もしかしたら、父親を、僕をこの境地から救ってくれるかもしれない。そんな一縷の望みを捨てきれなかった。
「……お願いします、ルウ・ブランさん」
ホークの声は震えていた。五体が満足でなくとも、父は父なのだ。それくらいの覚悟は当たり前にしなくてはならない。なぜなら、家族なのだから。
「…では、目をつむっていただけますか」
決意は固まったか。そうだよなー。親の介護とかちょっと心にきそう。
人間が生きる上で必要なことだから避けて通れないんだけどな。神を呪おう。
んで、今からやることはホークには見せられないわけ。なぜなら、アイテムを使用するから。
俺が今から使おうとしているのは〈レストアエッセンス〉っていう、回復アイテムだ。
これは夢の世界の素材を調合して作成可能な回復アイテムで、ゲーム内ではありふれた即効性の回復アイテムだった。たいしてレアでもないし、自分で使うには弱すぎるから雑に使っても全然だいじょうぶなアイテム。
でも、さっきからのホークのリアクションとか、村の発展具合から見て、これはオーバーパワーになるんじゃないかなって。
ただでさえホークからすごいって目で見られているんだから、これ以上ルウ・ブランに価値がついたらいろんなことお願いされたり、依存されたりされる可能性もある。ちょっと力ひけらかすのも抑え気味にしていこう。
てなわけで、目をつむっててね。
親父さんの手を離し、素直に後ろを向いて目をつむるホークを横目に、俺はホークの親父さんのところに駆け寄った。
どうやら、すでに親父さんの意識はないらしい。こりゃ好都合。さっさと治療してしまおう。
「…〈ストレージ〉」
えっと、回復アイテムの欄だよな…。
俺はフローティングキャストを指でなぞり、目的のアイテムのアイコンを探す。
そして、見つけた。
レストアエッセンスを手に持ってみる。
小さな小瓶に入った、淡い青緑色の液体。液体は微かに輝き、ルウの手の震えにより、細かな光の粒子が瓶の中で舞い上がる。
いやまじで、ゲームのグラフィックがよかったらこんな綺麗なアイテムだったってわかったのかな…。ファンタジーって感じがしてめっちゃいいわ。
「…では、いきましょうか」
小瓶の栓を開ける。銀で縁取りされた、美しい栓だ。
液体を露わにすると、芳しい香りが漂う。その匂いは形容し難いが、非常に良い、夢の中に漂う匂い。そんな感じである。
瓶を傾ければ、さらに鼻腔をつく香りと共に、淡い青緑色の液体がサラサラとこぼれ落ちた。
液体はホークの父親の背中にタラタラとたれーー吸収されていく。と共に、欠損していた足の傷に光が集まっていき、元あったであろう足の形状を模倣する。
そして気がつけば、血も止まり、足が元通りになったホークの父の姿が俺の目に映った。
え、すご。綺麗すぎて草。
「…ホークさん、もう大丈夫です」
「…え?」
ホークはその一瞬の出来事に理解が追いついていないといった表情でルウを見つめーー父親の方を見て足が治っていることに驚いた。
「…ルウ・ブランさん、あなたはいったい…」
「それより、早くお父さんを連れてここから離れてください」
ルウは急かすように言う。なぜならーー。
デーモンは村の中央で死体を貪っていた。
しかし、その死体の数も徐々に数を減らしていき、今やつが持っている、女性のものらしき死体が最後の死体となった。
「…デーモンが次に食べるとすれば、死体はないので生者ではないかと考えます。…デーモンの生体の感知能力は突出したものがあります」
あいつら、対して強くもないくせに結構遠くからでも見つかるし、執念深く追いかけてくるからめんどくさいんよな…。
「…もしかすれば、即座にルウさんたちが見つかることも、最悪の場合…隠れているという村人の皆さんを襲いにいくことも考えられます」
こっちにきてくれるのは構わんけど、ホーク達に危害加えられても気分悪いし、村人の方行かれるのも面倒だから、さっさと倒してしまいたいの。
だからとりま、ホークと親父さんには俺から離れてもらう。
「…ルウさんはここでデーモンを仕留めますので、巻き込まれないうちに逃げてほしい。そう言うことです」
そういうとホークは一瞬考え込んだのち「…危なくなったら、逃げてください。…どうか気をつけて」と言って意識のない親父さんを引きずっていった。
ホークが後ろにある、あの木のあたりまでいったら、デーモンとの戦いの準備を始めようかね。
あーやば、緊張してるわ。
デーモン、見た目だけで言ったらダークファンタジーゲームのラスボスみたいな見た目してるもんな。
狼のような、ヤギのような頭に、黒い鱗と毛に覆われた、成人男性4人が縦に並んでも有り余るほどの巨躯。
赤い目が抑えようのない怒りを湛え、口からのぞく尖った牙が全ての生命を萎縮させる。
鱗と毛に覆われた四肢は筋肉質で、長い腕の先についた五本の爪が、常に地面を裂く。
体表から漏れ出る暗黒色の波動は、その空気すらも殺しているかのよう。
まさに生命の敵、恐怖の具現化、悪意と破壊の権化然とした生物。
「…それが、デーモン。ですけども、ルウさんの前では所詮ただの獣に過ぎないとおしえたぎゃましょう」
…噛んだ。知るか。雰囲気なの! こう言うのは雰囲気が大切なの!
「…行きましたね」
ホーク達が木の横をすり抜けるのを確認し、ルウは目をとじ、深呼吸をする。
そして、細身の鞘から美しい刺剣ーーエレドリームレイピアを抜き、強く握りしめた。
スキルの使い方は、教会やゴブリン狩りで理解している。
「…〈エンチャント・ディバインライト〉、〈エンチャント・ストームウィスパー〉」
ルウがスキル名を唱えると、レイピアが眩い光を放ち始めた。
剣先から聖属性を多量に孕んだエネルギーが溢れ出し、ルウの手元までもがその光に照らされる。
そしてその聖気を巻き上げるように、青白い風の力が剣を渦巻く。
ほえー、月並みな感想で申し訳ないけど、すんごい綺麗。てかそれしか言えん。
聖属性と、風のエンチャント。これがデーモンに最も適した、いわゆるデーモン特攻のエンチャントだ。
本来、エンチャントは2つ重ねることができないのだが、俺の持つスキル〈重ねがけの技法〉がその絶技を可能にしてる。
さて、準備もできたしデーモン狩りに興じるとしましょっか。
俺は草むらをかき分ける。
そして視界が開けた時、目先にはデーモンが最後の1人を食べ終えたところだった。
…なんか、人が襲われたり喰われたりしたのを直視してんのに、全然怖いとか気持ち悪いとかならないの、いよいよゲームキャラって感じでテンション上がるわ。
「…さて、あちらもルウさんに気がついたようですし、ちょっと集中しますかね」
デーモンはその顔をこちらに向け、次にエレドリームレイピアを凝視した。
嫌かろう。おぬしの嫌いな聖属性と風属性ぞ。
「…いきますよ」
ルウ・ブランは悠然とした姿勢でエレドリームレイピアを携えーー大地を蹴った。
デーモンの居座る夜の世界。その場を取り囲む暗闇の中に、ルウは駆け出したのだ。
ーー途中、暗がりの中から姿を現すゴブリン。
「ゲギャギャッ、キャッキャキィ!」
「グゲゲ!」
ルウの足元を狙って、棍棒を振り下ろす。
足を狙って、動けなくするつもりなのね。
そんな狡猾な攻撃に対して、ルウは光を纏うエレドリームレイピアを縦横無尽に振るい、その刃は光の弧を描く。
一振りごとにゴブリン達が叫び声を上げ、その体のいたるところから鮮血が吹き出した。
「…全部知っているんですよね。ルウさんは」
…ワールドマップ最強!!!
ルウは冷静かつ、まるで熟達した剣士のように、洗練された技術を持ってゴブリンを薙ぎ倒していった。その様は、力強く、美しい。
デーモンはその様子を見て、不快感を隠せないといった表情を浮かべた。そして、そんな不快感を払拭すべく、スキルを使う。
「…汝に礼節を持って死を〈ダークフレイム〉」
低く轟く、まさにデーモン然とした声。
その声は魔力を帯びており、声に渦巻く魔力が魔術となって、実体と化す。
デーモンは人一人を容易に飲み込むほどの大きさの、闇の渦巻く火炎球を作り出しーールウへと投擲する。
ルウとデーモンとの間に存在する空間を暗黒で焼きながら飛来するそれは、人間を死に至らしめるには十分すぎる、即死の一撃だ。
「…ですけど、ルウさんは今、普通の人間ではないですからね」
ルウは火の玉を、全身で受け止める。
飛び散った暗黒の火の粉が、ルウの周囲を渦巻くゴブリンに飛び火した。
「ーーギョギャギャアアッ!」
ゴブリンは瞬時にドス黒い炎に巻かれ、断末魔も短く生き絶える。
「…やはり、その程度ですよね」
一つの生命を簡単に奪った一撃を、ルウは正面から受け止めーー傷一つなく生還して見せた。
あまりの出来事に、ルウの周囲にいたゴブリン達がルウから距離をとるように後ずさる。
その様子を見て、デーモンはさらに不快感をあらわにした。
ルウは次に、ゴブリンを完全に無視してデーモンの元へと駆け出す。
その速さは先ほどとは比べ物にならず、ルウがいた場所には強い風が巻き起こるほどである。
デーモンも負けじと、大地を蹴って突進を試みた。その長い腕と、鋭い爪を突き出す姿勢をとりながら。
ーーそして衝突する両者。
大気を揺るがす、「ドンッ」と言う音ともに、地響きと砂煙が巻き起こった。
砂煙の中央、そこにはデーモンの突き立てられた爪を、刺剣一本で防いで見せるルウの姿があった。
滑るように剣が動きーーデーモンの鱗を切り裂く。
「…ぐぬぅ」
浅くはない傷を胸に負うデーモン。
思わず、苦痛の声が漏れる。
「…まだまだ、終わりませんよ」
ルウの声が空気に溶ける中、その切先は速度を増し、デーモンの鱗の装甲をまるで柔肌を扱うかのように撫で、切り裂いてゆく。
「…閃剣の使い手、ならん。死を、死をくべよ! グオォォォオオオ!」
デーモンは地響きのような低い唸り声を上げ、その身を大きく揺さぶった。すると、デーモンを取り囲む暗黒波が徐々にデーモンへと収束する。
「…闇属性の爆発による全体攻撃〈シャドウストーム〉。そこまで、ゲーム内とおんなじなんですね」
しかし、暗黒波が収束するのを待たずしてルウの持つエレドリームレイピアがデーモンの腹部を貫き、聖属性の光が風に運ばれ、デーモンの身体内を強襲する。
「ゴギャアアァァアッ!」
次の瞬間、デーモンの体から、刺剣を抜き取り、ルウは再び剣を携えた。
足の指から、切先まで、全神経を集中させる。
「ーー〈ディバイン・ジャッジメント〉」
ルウの言葉に、エレドリームレイピアに纏った神聖なる力が膨れ上がる。そして筒状の力はその太さを増していきーー球体のように丸々と圧縮される。
ルウはその極大の聖気を、天へと放った。
空が一瞬、真っ白な光に包まれたかと思うと、ルウの力に呼応するかのように、極大の光の柱が空から降り注ぐ。
言うなれば浄化の極光。目を開けることすら困難な聖なる力がデーモンを焼いた。
声を上げる間もなく、デーモンの肉体は溶解し、崩れ落ち、硬質な鱗のみが地面を覆い隠すかのように積もる。
その間、5秒ほど。
辺りに暗闇と静けさが戻った頃、そこにはルウしか存在していなかった。
「…終わりですかね。いろんな意味で…」
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side:ホーク
その日、ホークは絶望を味わい尽くした。
「…はぁ、はぁ…。さっきまで疲れなかったのが嘘みたいだ…」
父を担いで森へと逃げる。
足は再生したが、どうやら意識が戻るわけではないらしい。
「…ちょっと、休憩…」
父を横たわらせ、来た道を見る。
あの先では、ホークと父の恩人の少女が戦いを始めた頃なのだろう。
次の瞬間、感じる地面の揺れ。
「…何が起きているんだ」
人とデーモンのぶつかり合い。
まるでそんな超常現象を体現しているかのような、絶望的であり、希望を抱かせる地響きがホークを襲った。
そしてその揺れは、ホークの父を目覚めさせるにも十分な振動だったようだ。
「…んぅ……」
「父さん!」
「…おぉ、ホーク…今の揺れといい、ここはいったい」
ホークの父、バケットはその時初めて神聖に触れることとなる。
想像を絶する、極大の光の柱が木々の隙間から望むことができた。
ホークはその光景に、涙を流す。
「…父さん、僕らの恩人が…ついにやってくれたみたいだ」
バケットはその意味はわからなかったが、その神聖な光を全身で受けながら、息子同様に涙を流した。
「…そうか……それは、めでたいな……」
親子は抱き合い、互いの無事を何よりも尊んだ。
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洞窟の入り口を塞ぐ、堅牢な岩の壁の上部、そこに空いた人一人が通れる程度の穴。
洞窟内にいた村人の誰しもが、その穴の先を見つめ、涙を流した。
「…天にも昇る気持ちだよ」
「あぁ…助かった。私たちは助かったんだよ…」
「おかーさん、空が綺麗で…すごいね」
そして、次第に涙は笑顔へと、喜びへと変わり村人達はその喜びを分かち合った。
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・アイテム/【白い貝殻】
〈説明〉
浜辺にうちあがった、何かの貝が広い海のどこかで生きたその証。
主に装飾品に用いる他に用途はない。
大きなモノは、良い値が付く。
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ルウ「……こんなマイナーな素材アイテム、なんてコメントを残せば良いのでしょうかね……」




