第10話:村の英雄。
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今週は後3日で休みなので気が楽です。
side:ルウ・ブラン
夜の闇にエレドリームレイピアが放つ輝きが消え、戦いの喧騒が静まりを見せる。
デーモンの鱗のみが地面につもり、微弱に残った暗黒の魔力が拡散していく様子を見届けたルウは、息を整えながらその場に立ち尽くしていた。
「…終わりですかね。いろんな意味で…」
完っっ全にやりすぎた。
興が乗ってとかそんなレベルじゃ片付けられないくらい、完璧でいて最高のやりすぎ。
力隠しておいて、変なことに巻き込まれないようにしようとか考えてたのに…。
そんな風に思い、ルウが剣を鞘に収めようとした時、遠くから声が聞こえた。
「…ーールウ・ブランさん!」
息を切らしながら走ってくるのは、ホークであった。その顔は晴れやかであり、ルウを見つめる眼差しはどこか輝かしいものを見る目をしている。
「…はぁ、はぁ。本当に、あなたは僕の恩人だ!」
「…あの、ルウさんが倒したってあんまり言わないでーー」
ホークの後ろ側。遅れて声がやってくる。
「息子より話は仰せつかった。ホーク共々命を救ってもらったようで…。本当に、感謝の言葉もない」
おいおっさん!話遮るな! …って、このおっさん、ホークの親父さんじゃねぇか。元気になったのな。よかったよかった。
「…大事の無いようで安心しました」
うん、それでさ。
「…どうか、ルウさんがデーモンを倒しーー」
「…ーーおーい!」
再び遠くから声が聞こえる。今回は本当に知らない声だ。
見れば、松明を持ってこちらへ歩いてくる、集団。大人も子供も、皆一様にボロボロの姿であり、涙の後と隈が彼らが如何に限界であったのかを物語る。
そう、彼らはーー。
「…生きていたか、皆は」
ソテー村に住み、今回の襲撃で生き残った村人達であった。
「村長、わしらは助かったのじゃな…」
白髪の爺が村長にこれが現実であるのかを確認するように問う。
「…クルットさん。忌まわしいゴブリンも、恐ろしいデーモンも、全てはこの旅の聖騎士ルウ・ブラン様が打ち払ってくれました。我々は…間違いなく、助かったのです」
村長の言葉に村人から「おぉ…」という声が上がるとともに、ルウに視線が集まった。
「えっと…ルウさんがやったんじゃなーー」
「ありがとうございます!」
「ありがたや…ありがたや…」
「もう…ここで死ぬのだとばかり…」
村人達から溢れ出る、感謝の言葉。
「…あ、はい」
ルウはそれを、もうどうにでもなれ、と諦めて全身で受け止める。
「えー…皆さん、ルウさんに感謝するのもですけど、ホークさんをもっと讃えてあげてください。彼が囮になってくれなければ、安全な避難も、ルウさんを呼ぶことも叶わなかったんですから…」
そう言ってルウはホークの方へと向く。
そこには悲痛な顔でしゃがみ込み、倒れた女の子の顔を覗き込むホークの姿があった。
「…アリ、アリ! …なんで、どうして目を覚さないんだ……」
ルウはそんなホークのもとへ近づく。
「…その人が、アリさんですか?」
「ブランさん…。この娘が、アリです…」
寝息をたてて寝るアリ。
その表情はどこか辛そうだ。
「あの…」
村人の一人が口を開いた。どうやら、アリの様子についてなにか知っているらしい。
「ホークが森に消えて、岩を積み上げたら…そのまま死んだように眠っているんだ。わたしらが何をしたって起きやしない…」
「そんな…」
ホークの嘆きが何も無くなったソテー村に溶ける。
「……とりあえず、外傷はありませんし、一時的に眠っているだけの可能性もあります。安静にして、様子を見るのはどうでしょうか」
ルウがそう進言すると、ホークは「…そうします」と言って、アリを担いでかろうじて屋根のある家に向かって歩いて行った。
いや、どんだけアリのこと好きなんや…。
静かになったソテー村。
そこに、子供の声がこだました。
「ルウ・ブラン様が、くろいの倒してくれて、どうもありがとうございました。英雄様みたいで、かっここいよ」
拙い言葉を補うために大きな動作をする、子供独特の表現。
「ルウさんは英雄とか、そんな大層なものではありませんよ…」
子供を諭すように、自分の思いを投げかける。
しかし、ルウの思いとは裏腹に村人の考えは皆同じであった。
「英雄様……ありがとうございます……!」
老人の一人が泣きながら言った。
「…英雄様がいなければ、わしらは皆、死んでいた……」
「ですから、そんな大それたことは……」
「…英雄様の横に積もる、その黒色の鱗こそ、何よりの証拠。あなたは、我々から平穏を奪った巨悪を滅ぼしてくださった。その者が英雄でなく、誰が英雄を名乗れるのですか!」
ルウは真横にあるデーモンの鱗を見る。未だ煙を上げるそれを見つめていると、どこか不思議な気持ちが湧いてくる。
まるで、こうなることが決まっていて、運命に従っただけ。シナリオ通りに進んでいるかのような、そんな気持ちに。
村長が老人の言葉を肯定する。
「ブラン様。あなたはただの剣士などではない。我々、ソテー村の光なのです」
村長がそういうと、山の向こうから暖かな陽光が顔をのぞかせる。
朝だ。絶望の夜を終え、希望の朝がやってきたのだ。
「…あー、もう英雄でいいです…」
まじ、無理。
目立ちすぎでおかしくなりそう。これさ、依存されるパターンだよね。
今後、この村を襲う影を祓うために使い潰されるんだ…。
なんでそう思うかっていうと、なんかそれであることが正解みたいな気持ちが心のどこかにあるからなのよね。なんなんだこれ…。
「それでは、皆。英雄様への感謝が済んだのなら、失った者へ現実を向けよう。死んだ者、その全てに安寧と安らぎのあらんことを」
村人達は、朝日に照らされて死者を偲ぶ。
膝立ちになり、手を組み祈る様は、どこか美しく、儚いものだと、ルウは感じた。
彼らは明日から、新しい道を歩んでゆくのだろう。
「…今後、身の振り方はちゃんと考えましょうかね……」
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side:???
ソテー村を臨むことのできる山中。
自然の景色と相反して、全身を無骨な金属製のフルプレートに身を包んだ者たちが二十名、厳かに整列していた。
その手には赤、金、緑、青などの気を纏った剣が握られており、その剣からは不気味なまでの精神的な圧迫感が漂っている。まるで勇者の聖剣のようでいて、その本質は全く異なるものだ。
暗闇の中、騎士風のもの達の眼前に聳える、光の柱。
「…どう、なっている……」
騎士のうちの一人が声を漏らした。
ソテー村の中央より立つ光柱はその金属製の鎧を、まるでそれがこの者たちの心中を模っているかのように、青ざめさせる。
そして眩い光が潰えた時、二十名の騎士風の者達の元に、黒のローブにフードという、如何にも密偵らしき男が血相を変えて駆け寄ってきた。
「ほ、報告します…。破滅の使徒様が……倒されました……」
その一言で、場に漂う緊張感が一気に張り詰める。
沈黙を破るように、リーダー格と思われる同じく甲冑姿の男がくぐもった声を上げた。
「光の柱に崩れる様は、この目で確認した。…凄まじい力だ。しかし…誰がどうして、何が起きた。…夜の刃、お前にはあれがどう見えた?」
夜の刃と言われた密偵らしき男が、フードの下で声を震わせる。
「…あ、あれは、聖職者か聖戦士の類…。白いローブに身を包み、刺剣を手にした……少女でした」
「…少女だと? あの商人の情報にそのような少女のものはなかったはずだ。…村へと続く山道も、夜の刃が監視を行っていたはず…。ならば、其奴はどこから、なんのために現れたのだ…」
「…わかりません。しかし、あの村を救うために隠されていた、もしくは召喚されたと考えるのが妥当ではないでしょうか…」
「…王族の民。その力はペイザンヌであれど侮れぬか…」
「…逃げた村人を確殺するために、村の周囲に放った百を超えるゴブリン。そのほとんどが首を刎ねられ、死んでおりました」
「破滅の使徒様と、百を超えるゴブリンの斬殺。そんなことが、人一人の力で行えるなど…それはもはや、魔人様ほどの力がなければ不可能に近い…」
リーダー格と思われる騎士風の男は腕を組み、悩む仕草をする。
「……敵は、我らペイザンヌを邪魔する不穏分子は2人いると考えた方が良いな。…夜の刃。王族の民と、その少女の監視を頼む。我らも、救援騎士として王族の民に、その少女に接触を図る。…くれぐれも、怪しまれるな。あの力は危険だ」
「…承知しました」
刺客は騎士風の男の指示のもと、足早にその場を後にし始めた。
山の向こうからは陽光が漏れ、金属の鎧は赤い光を湛える。
「……このままでは済まされない。ペイザンヌ皇国の威厳を保つためには、その者の排除が必要不可欠となるだろう。…本国へ、なんと伝令すれば良いものか……。まあひとまずだ。ペイザンヌに栄光を。来るべき進軍に備えよ。我ら同様、奴らも強い」
「「はっ! ペイザンヌに栄光を!」」
ペイザンヌ皇国の戦力を潰した少女と、裏手からゴブリンを殺した謎の存在。
彼の者達が、これからの戦局にどう影響を及ぼすのか。そんな恐れを抱えながら、甲冑姿の者達は日の登る空の下を歩き出した。
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・アイテム/【月光石】
〈説明〉
月の光を溜め込む、綺麗な石。
特にこれといった用途はないが、大きさや形で価値が異なるため熱中するコレクターもいるのだとか。
月の夢で使用すると良い効果を発揮する。
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ルウ「…月の夢内で使用すると、空中浮遊の効果と、全ステータス+15の効果が得られるんです。一時期はバグで、月の夢から出てもその効果が持ち越せるものが流行りましたっけ…」




