異世界に行ったら、冒険者ギルドに登録して剣と魔法の世界を堪能しなくちゃね!
現在の状況はこうだ。
ここは、町の日雇い労働者が集う仕事斡旋所。
私達の想像する“冒険者ギルド”そのものだ。
足元には屈強な体格のおじさんが転がっており、うめきを上げている。
腰に抱きついて離れない女の子、爆笑する植井君、ドン引きの冒険者たち。
どうしてこんなことになったのかしらね……?
猫の館での会話はよくわからなかった。
異世界の言葉はまだ分からないし、植井君はずっとウェイウェイ言ってるからだ。
あの“ウェイ”は伝えようとしている対象にしか思考が届かないみたい。
私は犬派だけど、ちょっとだけ猫さんも触ってみたかったな。
「暑かった……ようやく脱げる……」
なんで制服なのか知らないけどご苦労さま。
村人の服、あんまり似合ってないね…。
当面の生活費を手にした私たちは、まずは市場に向かった。
知らない土地での食べ歩きは人生最高の楽しみの一つだと思う。
衣服や生活雑貨を揃えるのが主な目的だ。
私の体に合う服もあればいいんだけど……。
あと、集落の皆にお土産を買うのも忘れてはいけない。
「今後も末永くお世話になるからお土産は奮発しよう」
そう言った植井君の顔には感謝以外の感情が見えた気がする。
何か良くないことを考えてそうだね。
荷物はかなりの量になってしまったけど、ここで一つ気付いたことがある。
果汁たっぷりの果実も、金属製の鍋にしても、何を手にしても全体的に軽いのだ。
思い返してみれば植井君が寝ているベッドを軽く蹴って起こそうとした時も、ベッドが想定外に軽すぎて大きな音を立ててしまっていた。
「俺はそんな事はないと思うけど……?」
諸々検証した結果、私には怪力の能力があるらしいという結論に至った。
そうか、森で植井君を軽々運べたのもこのおかげだったんだ。
でもなんかこの能力、可愛くないなぁ。
一通りの買い物を済ませると、次は植井君がどうしても行きたいという場所へ。
異世界モノには必ずあると言っていい“冒険者ギルド”だ。
外観も内装も、皆が想像した通りのものがあると思っていい。
依頼内容が貼られた大きな掲示板があり、受付カウンターには綺麗なお姉さん。
併設された酒場ではあまり上品ではない方々が食事と酒を楽しんでいる。
この建物だけは他と違ってあまり南国感はないように感じる。
冒険者ギルドといっても、その実態は定職を持たない求職者が集う“仕事斡旋所”だ。
草むしりやペットの探索、薬草採取、土木作業、農作業など依頼や契約期間は様々。
害獣駆除や魔物討伐のような危険なものはランクを上げなければ受注できない。
読み書きできない人の登録や受注は受付カウンターで対応してもらえる充実ぶりだ。
――と、受付のお姉さんが言っているらしい。
どうやらこの世界では文字を読めない人が珍しくはなんだとか。
ほぼ全員が読み書きできる日本ってすごかったんだね。
いざ登録というその時、酒場の方からガシャンと音が響いてきた。
こぼれた酒と散乱した料理、コワモテのおじさん、転倒している女の子。
これは酔っ払いに絡まれているとみるのが妥当だろう。
「ウェーイ!」
どう助けるか考えている間に飛び出したのは植井君だ。
普段はアレだけど、こういうところはちょっとカッコいいかも。
「なんだテメェ?」
「ウェイ?」
「ふっざけんなよ俺はこのガキに……っ!」
「うぇ~いうぇ~い」
「ああん?いいぜ、勝ったら見逃してやるが負けたら覚悟しろよ?」
「ウェーイ!」
ちなみに今の私にはどちらも何を言っているか意味不明だ。
何やら話がついたようで、植井君が申し訳無さそうにこっちに来た。
「ごめん、アイツと腕相撲してくんない?」
言うまでもなく腕相撲は圧勝。
開始の合図と同時におじさんはひっくり返っていた。
力の加減って難しいね。
女の子は私の腰に抱きついて離れない。
この子、もふもふですっごく可愛いわぁ……
黒豆みたいに光るまんまるな瞳!フサフサのしっぽ!ピンと立ったお耳!
これは間違いなく犬の獣人、しかもこの感じは柴!小柄な豆柴だわ!
犬好きのわたしも流石に興奮を隠せない。
この後たくさんモフモフした。
「わふ……お姉さまのナデナデ……しゅごい……」
植井君のウェイをはさまないと会話できないのはすごくもどかしいなぁ……
アビー君やこの子と仲良くなるためにも、この世界の言葉を頑張って覚えなくちゃ!
そういえばサブタイトルで“剣と魔法”とか言ってるけど、どっちも出てきてないよね?
ギルドにいたモブおじさんは剣を持ってた気もするけど……。
実は魔法使いとはもう出会ってたりするので、次回も楽しみにしていてほしいな。




