異世界でも俺の口八丁は絶好調、首長に主張!太鼓持ちスキルの真骨頂!
今の状況はこうだ。
現在地は町の北方に位置する領主の館。
同行者は多田と、ネコ商会の二人だ。
今回は俺だけじゃなく、多田にも制服を着て来てもらった。
現状、俺たちにとって一番上等な衣装は制服だからね。
ちなみにゴザは訪問直前に逃亡。
ゴザがフラッといなくなるのはいつもの事だ。
アネモネは戦力外通告でお留守番。
あの尊大な幼女は貴族との相性が悪そうだ。
要件はジャガイモ栽培のライセンス契約についてだ。
これが成約すれば、今後は定期的に多額の不労所得が入ってくることになる。
本当は来週の予定だったんだけど、領主の都合で今日に前倒しとなった。
ネコ商会との合同プロジェクトなので、取り分についても事前に決めてある。
成約時に支払われる契約料は、全額がネコ商会の取り分となる。
そして、ジャガイモの生産量に応じて支払われるロイヤリティについては、ネコ商会が2割で俺が8割。
契約時に支払われる即金よりも、将来的な収入の多さを選んだ形だ。
これが上手くいけば、一切働かずに永続的な安定収入を得られることになる。
領主の館周辺には用事がないので、ここには初めて来た。
貴族の邸宅ってのはもっと豪勢なのかと思っていたけど、案外普通の洋館だ。
しっかりと手入れされているが、上質なのに飾り気がまるでない。
良く言えばシンプル、悪く言えば地味。
片田舎とはいえ貧乏貴族ってわけでもないはずだが……。
「ウェイさん、緊張しなくても大丈夫ですよ」
「ハハハ、貴族と会うのは初めてだからさ……」
三毛猫はお得意様だから頻繁に来ているらしい。
ここでビビッてたら格好がつかないよな、しっかりしよう。
「心配いりゃーせん、卿はええ人じゃけぇ」
トラ猫親分の低い声にはやたら安心感があるね。
気合とともにネクタイを締め直していると、大きな扉がゆっくりと開いた。
「やあ、きみがウェイ・リュータさんだね、オタコさんも歓迎するよ」
「はい、お会いできて光栄ですゴルベーザ卿」
出迎えてくれたのは小柄でナイスミドルな犬の獣人だ。
身なりが良く小奇麗だが、派手さはなく貴族的なイメージとはかけ離れている。
前情報をもらってなければ、領主だとは気付けなかっただろう。
だってさ、普通は領主に会いに行ったら出迎えるのはメイドか執事だろ?
案内された応接室では長時間待たされたあげく、威張り散らすのが貴族ってもんだ。
まあ、貴族なんて会うのはこれが初めてだけどな。
「君の事は聞いてるよ、これまで色々大変だったのだろう」
ブチ猫が俺に軽く目配せをした。
なるほど、おそらく領主も俺を遠い国の高貴な身分と勘違いしているらしい。
「えっと……何と呼ぶのが失礼がないかな、家名は……リュータ族のウェイでいいのかい?」
「いえ、ウェイ族のリュータです。
今はしがない冒険者ですので、気軽にリュータとお呼びください」
「ではリュータ君、私はマークス・ドゥ・アルベリオン・ゴルベーザだ。
堅苦しいのは苦手でね、ぜひマークスと呼んでほしい」
大仰な名前だな、フルネームを覚えるのは既に諦めた。
簡単な挨拶を済ませた後、俺たちはメイドさんの案内で応接間へ移動する。
お茶は美味しかったが、カップや調度品は高級品ではないように見える。
しかしメイドさんっていいね!
アニメで見るエプロンドレスもいいけど、クラシカルなケモミミメイドもたまらない。
おっと、メイドさんへの視線を多田に気取られないようにしなければ……。
「飾り気のない場所ですまないね、これでも応接間はマシな方なんだ」
「いえとんでもない、むしろ感激すらしているほどです。
華美な装飾こそありませんが、しっかりと手入れされているのが分かります。
私の故郷でも質素倹約こそが誇るべき美徳とされていました。
マークス様は少しでも領民に負担をかけまいと節制されているのでしょう?」
普通なマークスさんのプチ自虐に『そんな事ないですよー』と返すだけだろう。
でも、高度な太鼓持ちスキルを持つ俺はこのヨイショチャンスを絶対に見逃さない。
見ろよあの顔、既に褒められた嬉しさを隠しきれていないニヤけ顔だ。
「それに、マークス様の人柄はこのお茶に表現されていると思うのです」
「このお茶かい?恥ずかしながら高級品ではないのだがね……」
これは褒めるのを失敗したわけじゃないぞ。
落として上げるのもヨイショテクニックの一つだ。
「ええ、この茶葉自体は最高級品ではないかもしれません。
ですが、淹れる人の技術によって素晴らしい味と香りが引き出されています」
「確かに、こちらで出していただけるお茶はいつも美味しく香り高いですな」
三毛猫、ナイス援護だ!
俺には茶の味の違いなんてよくわからんけど。
「贅沢をせず、今あるもので最高のパフォーマンスを発揮する質実剛健な在り方。
そして、イチ従業員であるメイドにこれほどの技術を身に付けさせる指導力。
このお茶だけでもマークス様の素晴らしさが伝わってくるのです」
そして何より、と前置きをして更に畳み掛ける。
「町の人々や従業員の方々の顔を見れば、マークス様の尽力がよく分かります。
マークス様は真に領民のためを思うからこそ、今回私どもを呼ばれたのでしょう?」
「そうか、分かってくれるかリュータ君!
たとえ貧乏領主と言われようとも私は領民の生活を良くしたいのだ!」
「ええ、それでは領民の方々の一助となるジャガイモの商談に入りましょう!」
三毛猫またもナイス!
領主の演説が始まるのを見事に阻止して誘導してくれた。
上に立つ人間ってのはどうにも長話が好きだからな。
ここから先は契約内容の確認と営農サービスの営業活動なので割愛だ。
しかし、実はこの契約に必要なある物がここにはない。
ジャガイモの特許(品種登録)の証明書だ。
これがなければロイヤリティに関する契約が締結できない。
本来なら証明書を持参した上で商談に臨むべき物だ。
だが領主が日程を前倒ししたので未だ手元に届いていない。
そこで、今日この場所に届けられるように送付先を変更してもらったのだ。
つまり証明書が届き次第、内容の最終確認をして契約書へのサインとなるのだ。
「概要はこの通りとなりますが……サインは証明書の到着をお待ちください」
「それはかまいません、元々私が日程を前倒ししたせいですからね」
なんとも物わかりの良い領主だ。
ともあれ時間があるのなら、今のうちに領主からの印象をもうちょっと良くしておこう。
「それなら調理場をお借りできますか?ジャガイモ料理をご馳走させてください」
「それは嬉しいが、客人に料理をさせるというのも……」
「いえ、私はそのために来たんです、ぜひ料理させて下さい!」
ここまで後ろで暇そうに見ているだけだった多田がようやく口を開いた。
そんな奥ゆかしさも激マブだぜプリティーガール。
メニューは以前ネコ商会でふるまったものと大差ないが、
今回は更に多田特製マヨネーズを持参している。
マヨネーズはあらゆる人種を超魅了してきた調味料だからな。
多田の料理にマヨネーズが添えられれば鬼に金棒。
これで喜んでもらえないはずがない。
テーブルに並べられたジャガイモ料理を前にマークスさんは目を輝かせている。
「これが話に聞いたジャガイモ料理か……
ああそうだ、試食に妻を呼んでもかまわないかね?」
「ええ、是非ともご一緒なさってください」
このナイスミドルな領主が連れてくるのはどんな奥さんかと、少しワクワクした。
ボストロールみたいなずんぐりむっくりか、ビックリするくらいの美人か。
金髪縦ロールなんかが来たら失礼ながら吹き出してしまうかもしれない。
それだけ想像の幅を広げておきながら、俺はこの後自分の目を疑うことになる。
なぜかって、連れてきた女性がゴザだったからだ。
ゴザ、ゴルーザ、ゴルベーザ……
はい、完全に繋がりました。
ネコ商会はゴルベーザ卿と懇意にしているから、顔を合わせれば身元がバレる。
だからアイツは一度も打ち合わせに来なかったのか。
今回はアーリエと名乗っているが、それがゴザの本名ってことでいいのか?
「まあ珍しいお料理ですね、とても素敵な香りだわ」
ゴザのくせに上品な言葉遣いをして本当に似合わない。
服装も普段とは違ってかなり落ち着いた雰囲気だ。
っていうか、子供みたいな見た目して人妻って何?
奇妙な状況に俺の脳が理解を拒否してるぞ……。
「おいおい、こりゃ何かの冗談か……?」
「植井君、何か事情があるかもだし気付かないフリした方がいいよね?」
込み入ったことかもしれないから、そこについては多田に同意だ。
「あの……わたくしがどうかされましたか?」
ゴザのくせに“わたくし”だなんて生意気な……。
ご丁寧にウィッグまで付けやがって、セミロングも案外可愛いじゃねーか。
だが、ここは知らないフリで通すとしよう。
「いえ失礼しました、アーリエ様が友人に似ていたものですからつい……」
すると、領主と夫人が顔を見合わせる。
俺、変な事言ってないよね?
嘘をつかない範囲で誤魔化す返答としては及第点だと思うけど……
「もしかして……娘に会っているのですか?」
「おおきっとそうだ、あの家出娘は妻と瓜二つでしてね」
別人!?いや、どう見ても夫人がゴザ本人……。
いや、言われてみれば瞳の色がいつもとは違うような……?
そうだとしてゴザって領主の娘だったの!?
良家の娘がいい年して家出とかするんじゃないよ。
「まさかご息女だったとは……いつもお世話になっております」
「まぁこちらこそ、元気にしているならよかったわ」
「えっと……居場所を聞こうとは思わないんですか?」
家で娘の居場所を聞かないなんて、親にしては蛋白すぎやしないか……?
「あいつも年齢的には立派な大人です、自分のことは自分で決めるでしょう」
「ええ、それでも母親として全く心配が無いと言えば嘘になりますけどね」
そう言えば、幼い見た目のせいで忘れがちだがあいつは18歳で俺より年上の合法ロリだ。
たしかこの世界では15歳で成人って聞いた気がするな。
ってことは……待てよ?
目の前にいる女性は今、いったい何歳なんだ……?
ゴザ本人と見間違えるほどの若さ……というか完全に幼い。
普通に見れば小4、かなり上に見積もっても中学生にしか見えない。
これがアレか、ラノベとかでよく見る童顔の母親ってやつか……。
いざ目の当たりにすると脳がバグる。
頭が混乱したままでも、多田の芋料理は美味かった。
以前と若干風味が違うのは、こちらの世界の人の好みに寄せているんだと思う。
もちろんゴルベーザ夫妻にも大好評で、会話も大いに盛り上がった。
しばらくして訪問者があり、三毛猫が書簡を受け取ってきた。
これはジャガイモの品種登録の証明書に違いない。
これからは異世界生活イージーモードの始まりだ!
三毛猫がその場で封を切り、中の書類を読み上げ……なかった。
絶句している。
なんだよ、もったいぶるなんて三毛猫も役者だなぁ。
代わりに俺が呼んでやろう。
えっと、なになに……?
「品種登録を申請された該当作物について、その特許をここに証明する」
おっと、まだまだ続きがあるぞ。
「しかし、本件においてはその重要性と社会への影響を考慮し権利の占有を認めず……
なんだこれ、つまりどういうことだってばよ?」
「これは私どもの認識が甘かったようです……。
有用すぎる作物と判断され、魔王様直々にジャガイモでのライセンス契約を禁止されました。」
三毛猫の声が少し震えているようにも聞こえる。
よほど予想外の展開だったんだろう。
「でも品種登録は証明されたって……」
「魔王様の勅命は全てに優先されます。
我々には補填金が支払われますが、あまり大きな額ではないでしょう」
「そしたら……今回の契約はどうなるんですしょう?」
目の前でこんな会話をされたら領主のオッサンも不安になるよな。
俺も正直かなり混乱してる。
「種芋の販売と営農指導に関する契約はそのまま進められます。
しかし……ライセンス契約については白紙となります」
「つまり、自由に栽培してよくてロイヤリティの支払いも無いと?
それは我々としては願ってもないが……
君たちには少しばかり酷な話ではないかね?」
「ええ……しかし、勅命とあれば仕方ありません」
三毛猫のキッパリとした諦めから察するに、勅命というのは絶対に覆せないんだろう。
この後、お葬式みたいなムードで契約書を交わした俺たちは、肩を落としたまま領主の館を後にする。
三毛猫が言うには、ジャガイモが有用すぎたのが問題だったらしい。
寒さに強く、高地や痩せた大地でも栽培可能で栄養価も高いジャガイモには、国の食糧事情に革命を起こすほどの大きな価値があると評価された。
国としては全国的に栽培を推し進め、僻地の食糧問題を一気に解決したい。
しかしながら、ライセンス契約は価値の独占を意味し、非契約者は栽培することができない。
これは、ジャガイモの普及において致命的な枷となりかねないものだ。
だから封じられた。
この件で最も得をした人と、損をした人が誰か分かるか?
最も得をするのはマジハ集落の人たちだ。
全国的な農業の推進に伴う種苗農園の需要拡大は計り知れない。
マジハ集落はそう遠くない未来に大農園へと成長しているだろう。
同時に、営農指導の仕事もどんどん増え続けていくはずだ。
次に、ネコ商会だ。
今回の契約金は、ほぼ全額がネコ商会の取り分というのが最初からの約束だ。
白紙になったロイヤリティ収入の代わりに、補填金の2割がネコ商会の取り分となる。
しかし、マジハ集落が種苗農園として発展すれば人・物・金の流れが活発になるだろう。
南部エリア全域の物流を仕切るネコ商会にとっては、これまでにないビジネスチャンスの始まりだ。
一方、俺はというと……
契約金はネコ商会のものなので、ゼロ。
ロイヤリティ報酬も当然ゼロ。
社会貢献がどうとかで勲章を授与されるらしいけど……
名誉なんて腹の足しにもなりゃしない。
形だけの品種登録証なんて便所紙以下だ。
手元に残るのは、チンケな補填金の8割だ。
チンケとはいっても金額的にはそこそこの金額ではあるのだが……
俺が得られるはずだった半永久的な不労所得の前ではその魅力も霞む。
ちなみに、ジャガイモと同時に持ち込めたニンジンとタマネギについては……
ニンジンはこの世界に似た植物があるせいで、地域の特産品として売り出すことはできてもライセンスビジネスができるほどの強さがない。
タマネギは獣人への中毒が懸念されるから、魔界南部以外か人間界への販路が必要となる。
どちらも将来的に堅実に稼ぐことはできても派手な収入や不労所得には直結しないだろう。
大恩あるマジハ集落への恩返しができたのは嬉しいけどさ……。
考えようによっては、領主とのパイプができたのが一番の報酬かもしれないな。
何か困ったことがあったら泣きつくとしよう。
しかし魔王め……国益のためとはいえ、横暴過ぎるだろ。
いつか会うことがあったら覚えてろよ!




