22:森の中でひっそりと
葉桜が目を覚ますと全てが終わっていた。魔術師二人の死体と獣人の死体が転がっている……大勢いたゴブリンの姿も無く正人がダンジョンコアを手に入れていた。
「ガルフさん……」
葉桜の呟きに正人は応える。
「ガルフは闇に堕ちたんだろう。犠牲はあったが、私達はダンジョンを攻略したよ」
「ごめんなさい、僕は気を失っていたみたい……ガルフさんに何があったんだろう」
「人間を殺すとひたすら呟いていたからね。私も驚いたよ」
セラの様子を見ると眠そうに瞼を擦っていた。
「ガルフの様に闇へ落ちる者が居るのには驚いたが、私は強い。力さえあれば魔術師の二人を犠牲にすることも無かっただろう。そう考えるともっともっと力を付けないとね。力が私には足りない」
ダンジョン攻略はこれで終わった。ギルドへダンジョンコアを提出し、すべての経緯を覚えている限り伝える。ガルフ達の死は大きな話題となったが、冒険者に死は付き物……疲れ切った葉桜は報酬を受け取り帰路に向かった。
「葉桜。今日は家に帰る前に立ち寄って欲しい所があるの」
「僕はもう疲れたよー。修行中でも意識を失う事は無かったはずなのに……もう休みたい」
「だめよ。付き合ってね」
そう言ったセラに引っ張られるまま……ポリュス王国を離れて修行していた森の近くにある小さな家にセラは葉桜を閉じ込めた。
「こんな所あったんだ……でも、どうして?」
「そうね。うーん。説明が難しいわね。えっとね。今日は大人しくしててね」
「ちょっと、セラ? よく分からないけど、僕はもう疲れたよ……」
古い家の軋むベッドのシーツは新しい物だった。埃が溜まっている訳でも無く、疲労が大きい葉桜は横になる。
「ごめんなさい。寝てもいいから」
「そう……?」
すーっと寝息を立て始める葉桜を横目でセラは紗月に嫌われる覚悟を決めた。
夜になり森外れの小さな古い家で物音が鳴り響く。すっかり眠っていたはずの葉桜が動いてベッドが軋む……ぎしぎしと音を鳴らす。セラはそんな葉桜へ馬乗りしていた。セラは魔力を込めて葉桜の両手足を縛って押さえつけている。
「大丈夫かしら……」
セラの魔力を流す事で葉桜が衰弱死する事を防ぐのに成功していた。ムチリアがアメリアへ魔力を譲渡する様に、セラの膨大な魔力で葉桜を助ける……でも、葉桜の身体がその魔力に慣れるには時期尚早であった。
今の葉桜は無意識で暴れている状態。セラの目で見ても危険な状態。
一日目は朝までセラが押さえつけていた。葉桜が起きると体は怠く、木剣を振るが魔力を上手く流す事が出来ない。このままだとギルドで仕事を請けても達成が困難だと判断し休暇を取る事を二人で決めた。
自分の状態が変だと葉桜も気付いてセラを問いただす。
結果、葉桜がアノ時に死にかけていた事を正直にセラは話した。隠し事をするつもりは無いが……セラは言える範囲で伝える。
そんな日が一ヶ月続いた。朝はじーちゃんの教えを守り体を動かすが夜は家にこもり、暴れる葉桜の面倒をセラが見る……その際に葉桜は意識が無く、本人はただ寝ている感覚しかなかった。
葉桜の身体にセラの魔力が慣れるのを待つ日々が続くと……セラの来てほしくない人物が現れる。
いつもの様に夜は面倒を見ていたセラの耳が物音を捉えた。近くの木が倒れる大きな音……絶対に姿を現すとセラは予想していたので、不安げな表情で苦しむ葉桜に呟く。
「少しだけね。うん。すこしだけ……一人にするわね」
そう言ってセラは家の外にいる――紗月の前に立った。




