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80.作業員募集

 難民キャンプの一角に突如として現れた役人や武官の様子を見て、遠目に眺める者や何か施しが与えられると思い近づいてくる者などでそれなりの人数の集まりとなった。そんな中で演台に乗った役人が説明を始めるとざわめきが途切れ、耳を傾けるような状況へとなった。


「この度新たにこのボイオス領を統治なさるユタカ総督閣下が民を救済すべく大規模な工事を始めることとなった。内容は道路の建設である。この工事に参加する者はその対価として金銭またはそれに相当する食料が与えられる。参加の条件は、勤労の意欲がある者、この一点である。性別も年齢も健康状態も能力も問わない。意欲のある者は参加せよ。意欲の無い者へは一切の援助が断たれる。これは総督閣下の御意向である」


 役人が二度、三度と同じことをしゃべった後、演台から降りると周辺にいた難民たちから再びざわめきが起き始めた。今まで工事のために強制的な募集が掛かることは多々あったが、そんな時は連れていかれるが働き盛りの男たちに限られていた。そんな経験から女や老人たちが不審に思いながらもこのままでは飢えてしまうことが目に見えていたこともあり、応募のために動き出そうとしていた。

 そんな中で周辺の他領から難民キャンプに与えられていた僅かな支援物資を無理やり集め、それを餌にキャンプの中で大きな顔をしていたゴロツキの集団は支援物資が断たれることを聞き、先ほどまで演台の上にいたマインラートの部下に詰め寄り始めた。


「おい、このもやし野郎。俺たちの飯を無くそうってか、ふざけるんじゃねえ」

「兄貴、こいつ俺達をなめてんですよ。しめてやりましょう。そうすれば、何とかって言う偉い奴もあきらめるさ」

「そうだ、一発ぶちかましちまえ」


 仕事に忙殺されているマインラートの部下の部下の顔は血の気が少なく、目の下には隈が大きく広がっているので、ひどく病弱そうな外見をしておりゴロツキたちは殺さない程度にいたぶれば今回の件を簡単に撤回するだろうと安易に考えて動き出した。当然そんなことは想定していた武官たちがすぐさま動き、近くにいたゴロツキの数人を装備していた剣で袈裟懸けに切りつけた。

 まさかいきなり剣を抜き、切りつけられるとは思いもしていなかったゴロツキは自分の胴体に致命的な切り傷が深々と出来ても、自分に起きた出来事が理解できず不思議そうな顔をしたまま地面に倒れ込み息絶えた。


「総督閣下より他者に迷惑をかける者、他者の物を奪う者、それらの行為に準じる行いをした者は即座に処刑を行うよう通達が下りている。応募する者も肝に銘じるように。では、応募する者はボイアテスの北にある丘に受付所があるので持ち運べる程度の荷物を持って集まるように。以上だ」


 そう言って演台を降りた役人は少し離れた物陰に隠れうずくまっていた。事前に予想されていたことであったしその為の用意はしていたが今まで人が死ぬところを目の前で見たことのなかった役人は気丈に残りの説明を行う役目を果たした後、人目に付かないように腹の奥からせり上がってくるものの処理をした。


 一方、有無を言わさず数人の仲間を殺されたゴロツキは騒然となっていた。今までは門番の兵や物資を届ける兵たちをトラブルを幾度となく起こしていてもお互い人死にが出るような事態は起こらず、せいぜい剣の鞘で思いっきり殴りつけられる程度でことは収まっていた。それが急に苛烈な処置を躊躇なく行う態度を示したことで、元々は農民で戦闘訓練を受けておらず不良が集まっていただけの集団では到底あらがえない本職の兵士の容赦のなさに狼狽え、立ち尽くすだけとなっていた。


 一連の様子をフェルトとの約束通り、馬車の中から覗き見ていたユタカは満足そうにしていた。


 いやー、予定より数が集まりそうで良かった。これならキャンプの設営と同時に工事を始める準備ぐらいはできるんじゃないか。それに、決まりを守らない奴がどうなるかも実際に目で確認させることが出来たから、この人たちの中から盗みとか働くような奴が出ることは無いと思いたいね。


 その後もユタカは一行の後ろを付いていき、予定されていたキャンプ内での残りの説明を行っている様子を見終えると、応募者たちの集合場所となっていたボイアテスの側にある南の丘へ移動し、その様子も確認することにした。


 そこではいくつものテントが立てられ、中では役人と武官が二人一組で応募者たちの名前と年齢、出身地、家族構成を聞き取り手元の書類へ記録を行っていた。聞き取りを終えた応募者たちは家族が生存している場合は出来るだけ同じ場所で働けるように調整がされた後、それぞれの作業内容に見合った道具を受け取った後、多くは無いが用意されていた食事を摂り2号線の工区へと兵士達の帯同を受けながら移動していった。


 そんな作業が一段落するとそれを追うように作業作用のキャンプ設営のために用意されたテントなどの物資や食料、工事を監督する役人と警備の兵士たちが馬車に乗り、移動していった。


 太陽が傾き赤み帯び始めるまで丘の上から見ていたユタカは側にいたテヒニクに話しかけた。


「てっきり、あの馬車と一緒に作業現場に行くかと思ってた。呼ばれなかったの?」


「ああ、数日して工事の進捗や問題点とかの報告が城に届けられることになってるんだ。そうしたら残りの二グループの工事の担当者たちと打ち合わせて改善や助言をまとめて、これからの本格始動のための手順書を固めるんだ。まあ、どこかのタイミングで現場に行かないといけないとは思うが、大丈夫か?」


 テヒニクは御者台に座っているフェルトを見ると、腕を組んで考えながら渋々といった表情でいた。


「オーバストたちが加わったということで少しだけ余裕はあると思ってる。ただし、テヒニクのための護衛は付けられないがそれでも問題無いなら大丈夫だ」


「なら大丈夫だ。もしもって時はとにかく走り続けてここまで逃げてくる」


 自動人形の中でも大柄でがっちりとした体格を持っていながら非戦闘職系である職能によって戦闘能力が限定されているテヒニクは自動人形が持つ無限の体力を利用した逃げの一手に徹すると宣言した。当然、そこらの賊や一般の兵士が一人や二人で襲って来ようと問題にならない程度の力があるが、それを越えた人数や能力を相手にしては破損を避けることは難しく、仲間の損傷をもっとも嫌うユタカを前にしてはすぐに逃げるという選択肢が最善であった。

 ユタカもテヒニクがまず自身の安全を重視した選択をしてくれたことを満足そうに笑みを浮かべながら見ていた。


「お話し中失礼いたします。総督閣下、少しよろしいでしょうか」


 馬車の外からマインラートの部下である役人が話しかける声がし、ユタカがフェルトに視線を向けると少し間を置き、周囲を確認したところで頷いた。そして、同じく馬車の中にいたオーバストが先に馬車から降りて、ユタカが馬車から降りるのを助けるために手を出して待っていてくれた。降りた先にはゼクティアとゼクティアに目を奪われているマインラートの部下が立っていた。


「・・・っ!失礼いたしました。その、あまりに美しかったので、間近に見て、その、目が離せなくなっておりました。・・・えー、本日の応募者数は想定を超え、作業を開始するのに十分な人数が集まりました。余剰人員に就きましては能力を考慮し、採石場の補助、材料の運搬業務などに振り分けております。先に出発した作業員たちも半数が最初の工区に設置するキャンプの設営を担い、残りが工事の作業を始めるとグループの責任者から報告を受けております。これを持ちまして本日予定していた外での業務は全工程が終了いたしますが、閣下はこの後如何なさるご予定でしょうか」


 ゼクティアは言葉を詰まらせながら自身を誉めそやす役人を前にしても何の変化を見せず、ただユタカをすぐに守れるように周囲の警戒を行っていた。


「ご苦労様でした。予定より多く集まってよかったですね。でも、人が増えれば不心得者が出る可能性が高くなりますので、警備担当者にはその辺りを注意するように改めて伝えておいてください。それと工事の監督者には安全第一でけが人が出ないように注意を払うように改めて申し伝えておいてください。私達も視察を終えた皆さんと一緒に戻る予定です」


 役人はユタカに頭を下げた後、その隣にいたゼクティアをもう一度見て惚けとしたところで頭を振りながら撤収作業を続ける同僚たちの待つところへ戻って行った。


 丘から朝くぐった城門に近づいて来ると今日までその周囲に広がっていた難民キャンプにあった多くの人の気配はなくなり、遠くで残っている食料や難民たちが置いていった物を奪い合って喧嘩をしているゴロツキの姿が見えるだけとなっていた。

 城門の門番も急に静かになった状況でやることがなくなって仲間同士でおしゃべりにふけっている様子が遠目にも確認ができたが、一行が近くになるや否やキビキビと動き出し、何も言わずとも開門作業を始めていた。


 一行が今までになくこの城門をスムーズに通過しようとした時、急にその歩みが止まりしばらくすると、マインラートの部下と護衛の武官がこの城門の門番達から隊長と呼ばれていた男を連れて、ユタカの乗る馬車方へ近づいてきた。


「総督閣下、お疲れのところ失礼いたします。この城門を担当する兵士の隊長がどうしても話があるとしつこいため隊の進行が止まっております」

「閣下、先日我々が働いたご無礼の釈明の機会を頂きたく参りました。何かにつけて町の中に入ろうとする輩の多さに我が隊は疲弊しておりまして、総督閣下のご乗車になられる馬車を留めるような行為をしてしまいました。どうかお許しを頂ければと」


 門番の隊長が釈明をしている最中、馬車の外にいたゼクティアやフェルトは一度だけマインラートの部下に視線を向けることはあったが以降は、前を見ているだけで聞いている素振りが全くなかった。しかし、隊長の話の途中で馬車の中から何かを話しかけている子供の声がすると力づくで城門を一人で開けた笑みを張り付けるフェルトが隊長の話を遮るように口を開いた。


「総督閣下は貴官らの低い士気と規律の崩壊している様を目にしておられる、閣下が確認していない過去の行為について何か指摘することは無いが、今後も改善が無い場合は除籍、あるは投獄も含めた措置の対象となりうる。以上だ」


 フェルトの言葉を聞き、顔を青くして立ち尽くしてしまった隊長は、ゆっくりと町の中に進んでいく一行を見送っていた。

次回は2月8日午前0時の投稿となります。


誤字・脱字、語句の選びの間違いなど指摘いただければと思います。

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