表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/215

76.統治開始

 今ユタカ達がマインラートの案内のもと歩いているボイオス城の様子はマクトル城やヤンティヌム城のそれとは異なり、美術品も装飾もなにもない殺風景な空間であった。


「現在、ここボイオス城は人手不足により衛兵、使用人ともに不足している状況です。とても美術品などの管理が行える状況ではないので、そういったものは全て地下の倉庫にまとめて保管しております。それと城の一部は封鎖して使用人の負担を削減しているので、我々が仕事をしている所と寝泊まりしている所以外は何の手入れがされていなません」


 ユタカの前を歩き案内を続けるマインラートはシワの寄ってしまった服を着ながら疲れを隠しきれない様子で猫背になりながらゆっくりと廊下を歩いていた。物が少なく妙に声が反響する廊下をしばらく歩くとそれまでの扉とは違い細かい彫刻が施された木製の扉の前で止まった。


「こちらが閣下に執務していただくお部屋となります。どうぞ、お入りください。中には執務室と居室、寝室があります。両隣の部屋は護衛の方にお使いいただけるようにしております」


 通された部屋はかなりの広さがあり、大きな会議机や応接用の椅子や机が一式揃っていた。窓際の所には重厚なデザインの執務机が配置されており、どこかの大会社の社長室か大臣室を思わせるような豪華だが実務面も考えられているようなレイアウトとなっていた。部屋の端には寝室などに繋がっているであろう扉があり、書棚の陰に隠れて見えにくい様に工夫されていた。


「立派な部屋だね、それに使いやすそうだ。俺が子供ではなければって条件だけどね。あとで座布団を持って来て椅子の高さを調整しないとね。じゃあマインラートさん、早速これからのことを詰めていこう。大公陛下から俺が考えている最初の施策については聞いてる?」


 ユタカは執務室の会議机にマインラートを座らせてその正面に座りながら道路工事を行う公共事業に関して確認を始めた。それを聞いたマインラートはただでさえ疲労のせいで曇っている顔をさらに深く曇らせた。


「はい、陛下から大規模な道路工事を行いマクトル公爵領、シュトツェル子爵領との街道を整備しするとお伺いしてます。それに伴い援助物資の食料配給を工事の役務に就いた者のみに行うという内容であったかと思います」


「よかった、じゃあすぐにでも手配を始めてください。まずは円滑な物流を戻さないといけないのでそのための最初の一手です。労働力はこの町の外の難民たちなども含めて意欲のある者は年齢性別を問わず採用してください」


「閣下、食料の分配についてですが町の住人の分を一定量確保してくださいませんか。領内で生産されている食料だけでは必要量が賄えない状況です」


「いいえ、援助物資は全て今回の事業に投入します。資金についても労働者の賃金として払うようにします。変に分散させて効果を失うより一点に集中し、施策の効果が最大限現れるようにしましょう」


「しかしそれでは町で飢える者が現れてしまいます。町には商人や騎士、その家族などがいるのです。彼らがとても工事に参加するとは思えません」


「ん?蓄えもなく、仕事もしないのなら当然飢えるんじゃないですか。別に難民だけに仕事を与えるのではないのですよ。しっかりと意欲があれば誰であろうと受け入れると言っているんです。気になることがあるんですが、騎士がまだいるんですか?」


「はい、先の戦争でかなり数が減ってしまったようですが。生き残った騎士はここボイアテスや他の町などにおります」


 前にディアナが言っていたけど騎士は貴族が任命するんだったな。その任命した家が存在しなくなった場合は扱いはどうなるんだ。それにそいつらは何をやってるんだ?


 ユタカはもう存在しないと思い込んでいたものが存在していることに驚いた。無謀な戦争に加担し、その中でも責任ある立場にあった者たちが、まさかいまだに騎士を名乗り普通に存在しているとは考えていなかった。生き残りはどこかに逃亡しひっそりと暮らしているか、反撃の機会を狙って隠れているだろうと予測しその者たちを探し出して排除をする算段を考えていたユタカとしては意外で仕方なかった。


「通常、戦争に敗れ主を失った貴族領の騎士のうち生き残ったものは新たな当主の元で再戦の機会を伺います。敵に領地を占領され仮に当主筋の貴族が断絶した場合は敵に新たな忠誠を誓うか、逃亡するかです。今回の戦争ではボイオス伯爵家が急激に衰退し、家がとり潰されたことで通常より多くの騎士が残っている状態となっております。新たにこの領地を統治する閣下に忠誠を誓おうにも閣下は正式な貴族ではありませんのでそうも行きません。前例のない状態で彼らの立場は宙に浮いてしまっているのが現実です。しかし、いくら陛下に命じられ代官を行っていようとも平民である私が騎士の処遇を考えることは出来ません」


「なるほど、大敗北したのに敵が領地を占領しないから元のボイオス伯爵家に収まろうとしたが、勃発した内紛であっという間に伯爵家が消えてしまって騎士という立場だけが残ってしまったのか。それで、その暇そうな騎士は何しているの?まさか領内がこんな状態なのに遊んでるわけではないよね」


「その、彼らの一部は自らの私兵を率いたりして周辺の賊を討伐しているようです。ただ、多くは町にとどまっているようです」


「はあ、よそ者の俺がこんな面倒なことに巻き込まれてるってのに地元の連中は給料だけもらって呑気におうちで過ごしてるなんてふざけてるな。マインラートさん、義務を果たそうとしている騎士とそうでない騎士を調査しておいてください。義務を果たそうとしないものは即座に解雇処分にしてください。文句を言ってきたら俺に通してください、処分します。それと食料の配分に関しては譲りませんよ、働こうともせず町にいたいのなら餓死してもらいます」


 マインラートは領民をふるいにかけるようなやり方を提案したのは目の前の子供ではなく、その後ろに立っている奇妙な服に身を包んだ者たちであると思っていたが、話している間終始ユタカのみがしゃべっている姿を見て自分が思い違いをしていることに気づき、目の前の穏やかそうな子供が気持ち悪く見えてきた。


 それから数日するとマクトル領やシュトツェル子爵領から支援物資や資金、官僚や兵が領都であるボイアテスに本格的に到着し始めた。人気のなくなっていたボイオス城には人の足音が響き、みなが忙しそうに走り回っていた。


 そんな城の一室に総督であるユタカを筆頭に責任者が集められた会議が始まっていた。


「まずはここボイアテスまでの移動ご苦労様でした。まずは落ち着いてもらってから仕事をしてもらうのが良いとは思いましたが、この領地の惨状を考えるとその暇さえ許されない状況となっているのは皆さんが道中確認して来たので言うまでもないかと思います。では最初に始める事業についてマインラートさんから説明をしてもらいます」


 ユタカの隣に座っていたマインラートが引き継いで道路建設に関する説明を始めた。


「・・・マクトル領-ボイアテス間を仮称1号線、シュトツェル子爵領-ボイアテスを2号線とします。ここにいる皆さんは3つのグループに分かれてもらい、一つはボイアテスを含め町やその周辺の難民、村民から労働希望者を集めてください。その際、腕力のあるなし、健康状態は気にせず労働の意欲のみを判断基準としてください。残りの二つのグループはそれぞれ1,2号線の工事の監督、給与の支払いと工員のキャンプ地の治安維持、周辺の賊退治の段取りを行ってください。賊退治についてはユタカ総督閣下麾下の部隊による掃討も同時に行われますので必要に応じ連携をお願いします。何か質問はありますか」


「いくつかいいですか。まず、2号線を担当する者が多いのには何か意味があるのでしょうか。もう一点は労働者に意欲以外で選考基準を設けないとかなり非効率な工事となり工期が長くなることが予想されますが、いかがでしょうか」


 手元の資料を見ながらマインラートの説明を聞いて、皆が気になるであろう所を率先した質問した者は以前ユタカがヤンティヌム城で面接したことのある役人の一人であった。


「それについては私から説明しましょう。一点目については地形的要因が理由です。1号線は最終段階で厳しい峠にあたります。私達はこのルートを通ってここまで来ましたがこの峠は物資の大量輸送に際して大きな障害となっており、それを解消するにはかなりの時間が掛かかります。対して2号線に関しては基本的には平地を抜けていくため完成後の物流に与える影響が大きいと予想できるので、優先的に人員を配しました。二点目については今回の事業が道路建設だけではなく民の救済も大きな目的となっていることが理由です。意欲があるならば仕事量が少なくても給金を与え生きていくための機会を平等に与えます。効率の悪さは人員の多さで補えると考えています」


 ユタカが質問に答えるとそれぞれのグループに分かれ侃々諤々の議論が交わされより効率的な運用を模索していた。ボイオス領という過酷な状況下で仕事をすることで成長することを望んだ各領地の領主が有望な若手官僚や兵士たちを送り込んだことで難しい事業もうまく進みだそうとしていた。



「っだぁ~疲れた。シャッツ、晩御飯ある?」


 会議を終えて、自分の執務室に繋がっている居室に戻って来たユタカは大きなソファーに身を投げ出した。


「今できますよ。でも、ユタカさん。いつになったらちゃんとした台所で料理が出来るようになりそうですか。こんな狭いところだと大したものが作れないんですけど」


 ユタカの居室に備え付けられた台所は簡易的なもので、本来はお茶や軽食程度に対応したものでしかない所をシャッツがユタカの食事を作るために利用していた。食堂に行けば大きな台所もあるが今現在応援でやって来た官僚や兵士によって混雑しており自由に使える状況ではなかった。


「早く自分たちの家が欲しいな。シャッツもそうだけどテヒニクにも工房を用意しなといけないと思っても、忙しすぎてそれどころではないのが正直なところ。悪いがもうしばらく我慢してくれたらうれしいな。マクトルの拠点より立派なものを用意するからさ」


「ほんと頼むぜユタカ。机上の実験じゃ限界があるぜ、どうしても実際にやってみないといけないものがあるからな」


「わかってるよ。テヒニクも実験ができるようになったらやりたい事を効率的にできるようにリストアップして必要なものをシャッツと相談して揃えておいてよ。話は変わるけどフェルト、ここでの俺の護衛にはどれだけ必要か目途はついた」


「はい、私とゼクティア、シャッツ、テヒニクと不完全体2体。これが最低限必要な戦力です。本当はアルファたちも入れておきたいのですが、ユタカ殿が賊の殲滅に割く戦力が少なくなることを良しとしなさそうなのでここが私の妥協点です」


「ありがとう、俺の我が儘を聞いてくれて。それじゃあ、賊退治を再開しよう。第一班にロイトナンを班長としてマネキン9人を配して2号線周辺地域の掃討をお願いするよ。第二班はアルファとベータでもう一度1号線周辺を掃討した後、マクトル領境周辺地域を中心に行動してくれ。明日からまた別行動になるけど連絡は密に行って無理をしないように頑張ろう」


 シャッツの作った食事を食べたユタカは風呂に入った後ゼクティアとシャッツに見守れながらベットに潜り込むとすぐに寝息を立てた。

次回は1月11日午前0時の投稿となります。


誤字・脱字、語句の選びの間違いなど指摘いただければと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ