75.ボイアテス入城
「なんだてめえら!傭兵か?ふざけた真似しやがって。ぶっ殺してやる、お前らぁーやるぞ!」
「倉庫の連中はどうした!」
「お楽しみの最中だったのにタダで済むと思うなよ」
「うぉぉぉぉー!」
峠を越えた後、本隊である第一班と別れた第二班のロイトナンとマネキン2体は本隊の進む街道から離れるように移動を続け、夜になったころに炎を上げる村を発見した。村の中に接近すると所々に村人の死体が打ち捨てられており、村の中心部と倉庫のような建物から下品な声が轟いていた。
ロイトナン達は倉庫のような建物に接近し中を窺うと村人と思われる女性たちを拘束し、複数の男たちが肉を打ち付けるような音を立てながら笑い声を上げ、息を上げていた。
「おおー、良い感じだぜ。お前の方はどうだ」
「こっちはまあまあだな。前の村でやった時の方がよかったぜって、お前それもう壊れてんじゃねえか」
「ああ?ッチ、少し殴ったぐらいで壊れやがって。具合がよくないならお前の使ってるやつ貸してくれ?」
賊は話しかけていた仲間の口から突然剣が飛び出る様子を見て裸のまま這いつくばるように倉庫の外に出ようとした。しかし、少しも進むことなく顔に横から激しい衝撃が襲いそのまま人生を終えた。
ロイトナン達は倉庫の中にいた8人の賊を全て殺し終えると囚われていた女性たちを解放しようと近付いたが、しばらく考えた後、諦めたようにかろうじて息のある者にできるだけ痛みの無いように止めをさして回った。生きている者が誰もいなくなった倉庫から出るといまだ多くの人の気配のある村の中心部に向かい走り出した。
村の中心部でも倉庫と同じような光景が広がっており、ロイトナン達が見張りの賊を切り捨てると激高した連中が仲間と共に向かってきた。
全てが終わり賊たちの発していた奇声は無くなり村には放火された家々が炎を上げて、木のはじける音だけが響いていた。それを少しの間見た後ロイトナン達は一言も発することなく村を去り、村に通っている道をボイアテスの方へ向かって駆け出した。
昼夜を問わず行動を続け索敵の際には三体が広範囲に展開し、ひとたび賊を発見すれば即座に集合し殲滅するということを続けてた。二日ほどしたころからは村を失った村人らしき集団を発見し、それを遠くから追跡をしつつ、村人たちの荷物などを狙った賊たちが近づいてきたところを逐次叩き、村人たちを餌にした効率的な賊の殲滅が行うことが出来た。
村人たちが後三日ほどでボイアテスに到着しようかというところでフェルトから集合命令が届いた。ロイトナン達は撒き餌として賊退治の協力をさせた村人たちへのささやかな謝礼として、これから進んでいくであろう道の周辺に展開し、周囲の賊を殲滅しながらユタカの待つボイアテス付近に向けて高速移動をした。
「よお、そっちはどんな感じだったんだ、フェルト。ユタカが静かだがなんかあったのか?」
ユタカ達が休憩している高台に到着したロイトナンは第二班のマネキン達に周辺警戒を命じた後、馬車の側にいたフェルトに近付いて行った。
「ああ、上手い具合車列に食いついてくれたおかげでそれなりには潰すことが出来た。第三班の方も順調にいっているとのことだ。これでマクトルからここボイアテス間の賊はそれなりに数を減らすことが出来ただろうな。ユタカ殿は先ほどからあれを見ている」
ロイトナンが単眼鏡でユタカが見ている方向を見ると賊を集めるのに使っていた村人と似たような人間たちが大量に屯っている城壁の付近の光景が見えた。
「こりゃーひでえな。ここまでの道中壊滅的な村をいくつか見たが、町の方はこんな具合なのか。こりゃユタカが黙りこくってるわけだ。そんでいつあの中に入るんだ?いつまでもここから見ているだけにもいかないだろう」
「もう少しすると第三班が到着する。その後はユタカ殿に確認してからだな」
しばらくすると第三班も高台に集合した。そのことをフェルトから伝えられたユタカは完全体を集めた。
「みんなご苦労様。報告はフェルトから受けてるけど順調に賊を殲滅してくれたみたいだね。無事にここまで辿り着いたわけだけど、目的地は見ての通り先が思いやられるような光景が広がる町だった、って状況だね。フェルト、ここまで三班に分けてたけど一つに統合して引き続き護衛を指揮してくれ。出来ればこのまま見なかったことにしてマクトルに帰りたいけど受けた仕事はきっちりこなさなきゃいけないからね、早速あの中に入ろう」
車列は高台を後にして難民キャンプの抜けた向こうにあるボイアテスの町に向かって進みだした。フェルトは今まで先頭車の御者をしていたがその役をマネキンに任し、今はユタカから預かっている大公が発行した任命書と身分を証明する短剣を持って先頭を歩いてボイアテスの城門に向かっていた。
難民キャンプの近づくと物乞いたちが群がってこようとしたが自動人形たちが一斉に抜剣するとその威容に動きを止め去って行った。中にはごろつきのような者たちが馬車に走り込み、荷物を奪おうとしたがことごとく自動人形たちに吹き飛ばされ食料を得られた者はいなかった。
周囲を威圧しながら車列が城門前に着くと規律が徹底されているとは感じさせない門番たちがうろついていた。
「そこの妙な集団、止まれ。ボイアテスに入るためには馬車一台につき小金貨5枚と一人頭1枚、それと開門料が金貨一枚だ」
まとめ役のような兵が先頭を歩くフェルトに近づき止まるように指示した。フェルトは近づいてきた兵に対していつもの張り付いたような笑みのまま大公の任命書と短剣を示し開門を命令した。
「大公陛下により新たにボイオス総督へと任命なされたユタカ様が到着された。速やかに開門し、新たな総督を迎え入れろ。これはボイオス総督であるユタカ閣下のご命令である」
「?」
「何やってるんすか、隊長。おい、訳の分からない事くっちゃべってないで払うもん払いな。そうじゃなきゃさっさと失せな」
会話を聞いていた門番たちは訳の分からないことを話し始めたフェルトに詰め寄りだした。服装の乱れた兵たちに囲まれたフェルトは表情を変えずに目の前にいる隊長と呼ばれた男をただ見ていた。
「おい、待てお前ら。ちょっと前に上の連中が新しい貴族がやってくるってしゃべってた。もしかしたらこの連中じゃないか」
「何言ってんだ隊長。よく見て見な、お貴族様がこんな少ない護衛でここまで来るはずないじゃないですか。ふかしてるだけですよ。金を払う気がねえなら後がつっかえるから消えな」
高台から様子を見ていて確認は出来ていたが、貧困と治安の極端な悪化によって兵士の規律も崩壊しており通行人から金を巻き上げる賊とも分からないものとなっていた。そんな連中が見るからに貴族に見えない新しい統治者が来たと聞いても素直に通すとも思っていなかったフェルトは「しょうがないですね」と一言言って、一人で門番たちをかき分け城門の前に立つと両手を鉄で補強された巨大な内開きの扉を押し始めた。
整備が行き届いていていな巨大な蝶番が軋みながら城門は徐々に開いていきある程度まで開いたところでフェルトは一気に両腕に力を掛け、左右の門扉を開け放った。その開け放たれた城門を7台の大型の馬車が次々と通過していき、嵐のように一行が過ぎ去っていくと城門の外にいた難民たちが大きく開け離れた城門から町の中に入ろうとし始めた。不良の門番達でも無秩序に難民が町の中に入る厄介さは想像できるのか多くの負傷者を出しながらも難民を押しとどめつつ、不必要に限界まで開け放たれた門扉を必死の思いをしながら閉門させた。
一方、城門から怒号と悲鳴が上がり始めたころ馬車は通行人のほとんどいない大通りを町の中心部にある城に向けて走っていた。
「なんだか寂れてるとかそんなどころでない雰囲気だね。町の外があんな感じなんだから中が活気に溢れてるはずもないか。はあ~帰りたいな」
「物資が不足して治安が悪化して、物流も滞って経済活動が停滞して。ユタカさんはなかなか歯ごたえのありそうな仕事を見つけてきましたね」
ユタカは人気のない大通りを馬車の中から窺いながら御者台にいるシャッツに愚痴っていた。マクトルの大通りなら確実に交通事故が発生するような速度で走っている車列はさした時間を掛けることなく城に到着し、門を守っていた衛兵に任命書を見せると騎兵が車列を先導し始めた。
騎兵の誘導に付いていきながら進んで行くとかつては人の手が入り、立派な西洋風の庭が広がっていたであろう所は徐々に自然のままの姿に戻ろうとしていた。そんな放置された庭を通り抜け、建物ばかりが立派で衛兵や仕事をしている人間の気配が少ない城の正面玄関に到着し、ユタカの乗っている馬車が横付けされた。
ユタカは荷物の隙間からもぞもぞと体を動かしながら馬車の外に出るとすぐに服の乱れを外で待っていたゼクティアに整えられた後、玄関へと向かって歩き出した。城の大きな玄関扉の前にいたのは目の下に大きなくまを作っている男が一人だった。
彼が大公の言っていた代官か。確か30手前で若手の中で特に優秀な人材だって言ってたな、でも人違いか?目の前の人は良くて30後半にしか見えないけど。
「ボイオス総督ユタカ閣下、ご無事なる着任喜び申し上げます。私はエドゥアルト・ヤンティヌム大公爵陛下よりボイオス領代官に任じられているマインラートと申します。閣下が着任された現時点を持ちまして代官の任を解かれ、以降は閣下の補佐を務めさせていただきます。閣下のご到着に際して出迎えが私一人であること大変な無礼であると理解しておりますが、なにとぞご容赦のほど伏してお願い申し上げます」
マインラートってやっぱり大公の言ってた若手のエリートじゃん。こんなやつれて老けたようになっちゃうなんてどれだけブラックな職場なんだよ。
「初めまして、マインラートさん。私がユタカです。この度ボイオス総督を拝命いたしました。これからよろしくお願いします。迎えの件は全く気にしてませんし、むしろこんな儀式的なことより実務を重視しているのなら好感が持てます。到着早々申し訳ないですが、仕事の話を始めましょう」
大公から事前に就任する総督について情報が手紙で来ており子供だとは知っていたマインラートであったが、浮ついた様子もなく、迎えがいないことに癇癪を起すようなこともなくすぐに仕事の話を始めようとする姿を見て、目の前の子供の中身が自分たちの手では負えない程悪化しているボイオス領を救うのではと、微かに希望を持った。
次回は1月4日午前0時の投稿となります。
誤字・脱字、語句の選びの間違いなど指摘いただければと思います。




