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53.論功行賞

 論功行賞が行われる日の昼、ユタカ達が拠点にしている屋敷ではマクトル城に行く予定のユタカ達4人の準備を進めていた。


「またあの紐をつけるの?重いんだよね、今回は大丈夫じゃないかな。手紙でも簡単なって書いてあったし、そんなにしなくても普通にこの制服を着ていけばいいような気がするけど」


「考えてみてください、貴族がそれも公爵家が簡単なと書いていて本当に質素な雰囲気で行われると思いますか。これは謙遜を含んで表記してあるだけだと思います。そんなところに、本当にユタカだけが簡単な服装で訪れて浮いてしまうようなことになってはいけません。最大の功労者は紛れもなくユタカなのですから」


 ユタカとしては手紙通り本当に簡素な感じの式でこんなに気合の入った服で向かって逆に恥ずかしい思いをするのでは、と思わなくもなかったがゼクティアの言うことを聞いて飾緒を含めその他の部品を大人しく付けられていた。


「間に合ったみたいだな。ユタカ、昨日言ってたお前用の刀が出来たぜ。まだ、焼き入れの温度とか検討の余地はあるが形にはなった。つけてみろ」


 渡された刀はきれいな反りの入ったもので、ユタカの腕の長さに合わして作られており、刀身が短めのものだった。


「おおー、抜いてもいいかい?いやー、30を過ぎたおっさんが刀を持って興奮するのもどうかと思うけど、実際に手に持つと何とも言えないね。綺麗な刃文だよ。それに図ったような刀身の長さだから鞘からスムーズに出せる。ありがと、テヒニク。いい刀だ」


 それを聞いたテヒニクは少し笑みを浮かべた後すぐに「作業場で仕事をする」と言って戻っていってしまった。

 新しいおもちゃをもらった子供のようにはしゃいだユタカはゼクティアに連れられ論功行賞の会場となるマクトル城に移動するために馬車に乗せられた。


「彼の技術は素晴らしいね。フェルト、今度この馬車にサスペンションを付けてもらおう。そしたら乗り心地が良くなると思う」


「ええ、それと何か馬車自体の重さを減量する方法も考えていただきたいですね。先の戦闘で感じましたがやはりこの馬車を引かせている馬は逸材です。あのような戦場にも怯まず走り抜けることが出来ました。この優秀な馬たちの負担を軽減したいと思いました」


 グレンゼ村でライマーが使っていた馬車を曳いていた馬をそのまま使っているだけだが、確かに相当訓練された馬なんだろうな。軍馬として訓練されていたものを馬車馬として曳かせていたのかもしれないな。


 そんなことを考えているとマクトル城の門にたどり着き、招待状として先に受け取った手紙を門番に渡し、正面玄関から城の謁見の間に通された。

 謁見の間はマクトル城内でユタカが訪れたことのある場所と異なり、明らかに高価な装飾で満たされており、中央のカーペットの両脇には公爵の配下の文官武官が並んでいた。ユタカ達が一番最後の到着なのか入室するとすぐに扉は閉められ、公爵の配下ではないユタカは部屋の端の方で待機した。


 ユタカが到着してしばらくすると壇上へ公爵家の家族、そして当主であるエンゲルベルト・マクトル公爵が現れた。


「皆、よくこのマクトルを守り切ってくれた。今回の敵は稀に見ぬ兵力を持ってこのマクトルを落とさんとしたが、皆の活躍によって敵はマクトルの町を見ることなく敗北した。これより今回の戦に係る論功行賞を行う。初めに防衛戦という性格もあり突出した個人の活躍はなかったが、各部隊、各部門の長を称え、それを持って下の者たちを労うことを望む。」


 マクトル公爵が話した後、執事とも思われる者が手にした紙を読み上げ、領軍司令官アルトナーを始めに、奇襲部隊の領軍の隊長、文官の物資調達担当した部署、工事を担当した部署などの長が呼ばれそれぞれが中央のカーペットの上を歩き、公爵より直接労いの言葉と共に予算の増額や金一封を与えることを示した書類を受け取った。


「最後に、先ほど突出した個人の活躍は無かったと申したが、例外が一人だけいる。武官の諸君はすでに知っているはずだが、今回の戦いで敵の主将であるアンスガー・ボイオスを討ち取ったうえ、今作戦の立案、奇襲作戦の指揮を執った者がいる。加えて、敵の侵攻をいち早く私たちに警告した者でもある」


 一通りが終わったところで公爵はもう一人の功労者について語りだした。その保有する圧倒的な戦闘能力と苛烈さを知っている武官たちは頷いたり、悔しがったりなどしていたが特に接点のなかった文官たちは理解が追い付けずにいた。公爵が功労者の活躍を説明したところで一拍置き、直接、名を呼んだ。


「ユタカ殿、前へ」


 聞かぬ名と公爵が殿という敬称をこの場でつけて呼んだこと。そして、呼ばれて現れた人物たちの装いに胡乱気な目を向け、先頭を歩く者の年齢に困惑した。そして、その子供の腰ぶら下がる物を見た文官の誰かが叫んだ。


「アルトナー司令官殿!武器を、帯剣している者がここにおります!衛兵に捕縛の指示をお出しください!」


 その叫びになぜか武官たちはギョッとした表情を浮かべ、一斉にアルトナーの方へ目をやった。そんな視線を受けたアルトナーはその視線を受けながら公爵の方へ目を向けた。


「よい。そこの者たちが今回の功労者と配下の者たちである。武官たちは見ておろうが、剣を持っていようといまいと、そこにさした意味はない。分かっているであろう」


 問われた武官たちは一斉に承知の意味を込め、頭を下げた。そんな、姿を武官たちの見て文官たちは公爵の行っていることに理解が良くできなかったがそれ以上は何も言うことはなく、成り行きを見守ることにした。


「ユタカ殿、相変わらず素晴らしい服を着ているな。初めにあった時に目にしたものと同じかな。いや、剣が違うかな。なんだいその剣は随分と変わった形をしているね」


「ご機嫌麗しゅうございます、公爵閣下。服に関してのお褒めのお言葉、後ろのゼクティアが聞いて大変喜んでおります。この剣は刀と申しまして、アロイジア様があの戦場で目にした物の、そうですね、完成版に近いものといったものです。斬撃と刺突に適したものでして、手に取って観てみますか」


 ユタカに聞かれた公爵は刀にそれほどの興味は持ってはいなかったが、横にいたアロイジアから漂う好奇心を感じとり、ユタカの持つ刀を手に持った。


「ほう、随分と軽いな。おお、何やら波のような模様があるなこれはなかなか美しいものだ。アロイジア、そなたも見て見なさい」


 アロイジアは先の戦場で見た刀に興味を抱いてはいたが、あの場の雰囲気とすぐに撤収してしまったユタカと共に刀が回収されていってしまったので、確認することが出来ず気になっていた。


「刀身の長さはあなたに合わせたものね。でも、これで戦うには華奢すぎないかしら。打ち合ったらすぐに折れてしまいそう」


「この刀は構造上の工夫によって見た目ほどはやわではありません。確かに一般的な剣と打ち合ってしまえば負けてしまいますが、この軽さと切れ味で打ち合う前に相手を斬ればよいのです。非力な私には良い武器と思います。それと使い手によっては金属さえ切り裂くことが可能ですよ、刀は」


 刀にはディアナやアルトナーなどが興味を持っていたが、その場での見分は無理でありすぐにユタカのもとへ戻ってしまった。そして、ユタカへの褒美について公爵が言及した。


「公爵閣下、以前取り交わした条件によって私はこのマクトルの防衛についてご協力をいたしました。そして、その条件によって私の目的が完遂されました。今回の件に関して、何かしらの報酬等を受け取ることも与えることも適当ではないかと存じます。しかしながら、今回の奇襲作戦に参加し戦功をあげた傭兵たちへの褒美をギルドを通して行っていただければ幸いと考えております。彼らの働きは報いるに値するものだったと確信しております」


「相変わらず見た目にそぐわぬことを申すな。分かった、傭兵たちについてはそのように図らうとしよう。君への褒美も双方が義務を果たしたことで終わりということならそうしよう。皆、ご苦労であった。しばしの間、英気を養い再びこのマクトル領発展のために邁進するように」


「「「「はっ!」」」」


 武器を持った子供の登場と褒美の受け取り拒否など異例なことはあったが、執事の解散の合図と共に皆それぞれが謁見の間から退室した。人の流れが一段落したところで出ていこうと考えていたユタカ達が待っていると執事が別室に向かうようにと案内の者を付け、謁見の間から少し離れた応接間に通された。


 通された応接間でしばらく待っていると、謁見の間での服装より幾分ラフになった公爵夫妻がアルトナーを連れてやってきた。


「ユタカ君、先ほどはあのように言ったが今回のことは本当にやってくれた。君がいなければマクトルは甚大な被害を被っていただろうし、場合によっては陥落さえ考えられた状況だった。マクトル領を代表して感謝する、ありがとう」


「いえ、閣下。あの場でも申し上げた通り、私にも利益があったことなのでお気になさらないでください。私も目的が達成できたのは公爵閣下を始めアロイジア様や領軍の皆さんのご協力があってのものと思っています。私の方からも感謝申し上げます」


「うむ、では本題なのだが、別室に来てもらったのは君の今後についてだ。今回の件で君の持つ戦力が白日の下に晒されたのは分かっていると思う。異能者であることまでは分からずとも、戦力はそこらの貴族の持つ軍より勝るとも劣らないものであることは隠しきれない。そんな力を持つものがマクトルの危機、ひいてはこのヤンティヌム公国の危機から守ったとあれば公爵である私としては大公陛下にお伝えしない選択肢はなかった。そして、この知らせを聞いた私の兄上である大公陛下はぜひとも君に直接会いたいと言ってな。どうだろう、陛下と会ってもらえないだとろうか」


 ッチ、思ったよりずっと早く国家元首が関わってきたな。貴族あたりの接触が起きると予想はしていたが、いきなりトップが来たか。俺たちという戦力の囲い込み、あるいは排除あたりが考えられるが。どうする、この町を出るか?今までの人脈、領主の人格を考えるに代えがたいものはあるが。どうする。


「はは、君は本当に珍しい反応をするね、ユタカ君。普通、陛下が礼を伝えるために直接会いたいとなれば、大きな褒美を夢見て喜ぶか、畏れから辞退するかだけど。君みたいに露骨に嫌がるような顔をしたのは初めてだよ。安心してくれ、兄上は優秀だ。自身の身分を笠に着て横柄な要求などをする方ではない。大公として君みたいなさ優秀なものを取り込みたいという思いは当然あるだろうが、自身の興味が先立つような方だ」


「・・・分かりました。お会いさせていただきます。正直に言えば公爵閣下のお見立て通り、積極的な気分ではございませんが、ほかならぬ閣下の頼みとあらば、兄君とあれば」


「よかった。では、準備もあるだろうから明後日の朝に北門の前に来てくれ。案内の者などを用意しておく」


 そう言った公爵の顔は普段より嬉しそうに口角を上げていた。

次回は8月3日午前0時の投稿となります。


誤字・脱字、語句の選びの間違いなど指摘いただければと思います。

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