27.拠点整備
ラクスホテルから新たに購入した屋敷へと拠点を移したユタカ達は、応接間で今後の方針について話し合っていた。
「さて、当初予定していた拠点の確保は出来た。次は情報の収集だけど、この町の図書館によって時間を掛ければ目標は達成できると思う。それで、この二つの目標に目処が立ったところで、グレンゼ村での仇を返す準備を本格的に始めたいと思う」
ユタカはマクトルに来た目的が達成できる見通しが立ったことで、グレンゼ村でアリーセを殺した集団の指導者に仇を返すための行動を始めようとしていた。そして、現時点で分かっていることを全員で共有するようにした。
「はい、あの襲撃後にユタカ殿の指示で襲撃犯の一人であるライマーの供述を裏付けるために襲撃犯の持ち物等を確認しましたが、明確な証拠となるようなものは出てきませんでした。しかし、拷問という手法を使用しましたが、その際にライマーが供述したことが逃避にための偽証とは考えにくいと思います」
「ああ、奴の供述では主犯はこのマクトルを含むマクトル領に隣接する領地を所有するボイオス伯爵だったな。この町で集めた情報では奴の供述した動機について否定するものは出てこなかった」
ユタカ達によって尋問を受けたライマーは、自身の雇い主とその動機、計画について知っていることを話した。
その内容はボイオス伯爵が領地経営の失敗で増える損失が隣のマクトル領に起因するものと断定し、経済の中心地であるマクトルに兵を進め、占領しようと画策してた。そのためには、マクトル領兵をマクトルから離れたところで分散させる必要があるため、辺境の村々を賊を装って襲う計画を立てた。そして、ライマー達は村を襲うことでどれほどの兵が釣れるのか、どのように襲うのが効率的なのかを調査するための部隊だった。
「だが、いまだに腑に落ちないことがある。マクトルの人から聞く話でもボイオス伯爵の領地経営がうまくいっていないことは事実のようだが、仮にも伯爵を名乗るような者がマクトルを占領するなんて安易な方法をとるだろうか。そんなことをすれば国が介入することは図書館で調べる前の俺でも分かることだ」
「ユタカ殿の言う通り、あまりにも短絡的な計画に見えますが所詮はライマーは組織の末端に過ぎず、聞かされている計画も表面的なものに限定されていたのかもしれません。人的な余裕があるのならば今後は、ボイオス伯爵の領地への潜入や側近への接触などを視野に入れる必要があります。ライマーの供述ではもう少しすると調査を終え、本格的に辺境の村々を襲う段階へと移行する思われます」
なんの縁も所縁もない村が襲われようと心が痛むことはないが、その先にあるのは世話になっている人が住むマクトルの襲撃とあれば阻止しなければならないし、仇であるボイオス伯爵の計画が順調に進むなんてことはあってならない。
「だが、マクトル領の領主にその襲撃は兵の誘引が目的だ、なんて言っても聞くはずがないし、そもそも領主に会うことが不可能だ。ならば、ギルドでの仕事で無視しえないほどの結果を残すことで力を示すか。その力とエルヴィンさんの力で領主と接触し、直接仕事を得るなどして信頼関係を築く。もっといい方法が思いつけばいいんだけど他に案のある人いる?」
「この短期間で賊退治によって多少の知名度を上げることに成功しています。ユタカの示した案以外に現状ボイオス伯爵の計画を阻止するものはないかと思います。ただ、懸念されるのはこの案で領主に会うまでの力を示す前に本格的なマクトルの襲撃が始まってしまうかもしれない、という時間的な制約が大きいところです。なので、意見具申ですが現在行っている賊退治では捕縛数よりも殺害する賊の数を増やしてはどうでしょうか。さらには、変異体の討伐も選択肢に入れることも考えられます。そこで、我々自動人形の召喚数の増加数を増加させ全体の仕事量を増やします」
「なるほど、借金はしているけど拠点を構えたから収入より俺の力の段階を進めることに重心を置くってことかな。その辺は主計官として収支バランスを見ているシャッツの意見はどんな感じ」
「エルヴィンさんの好意によって借入金については低利率で契約しています。一時的に収入が低下しても、その先自動人形の増加によって収入が戻るのなら問題ありません。ただし、賞金首に関しては確実に捕縛することで効率をできる限り収入の減少幅を抑えていただきたいです」
シャッツはそう言ってロイトナンとフェルトを見ると二人は頷いた。
「大まかな目標も定まったし今日は一日かけて新たな拠点の整備をしよう。掃除や家具の搬入は終わってるけどシャッツと約束した台所の工事が終わってないし、みんなの部屋をどこにするか決めないといけないしね。じゃあ、今日も頑張りましょう」
応接間を後にし、ユタカ達はそれぞれの仕事にとりかかった。
ユタカはシャッツ達と共に台所の工事を依頼をするためバルリング商会から大工の推薦をしてもらい、工事内容を詰めて契約を行った。その後は屋敷で必要となる小物類の調達に向かった。
フェルトはマネキン達と残り、歩哨のルート決めやその間隔、立哨する場所など細かく調整を行い、警備の穴を一つ一つ潰していく作業を行った。そして、警備体制が決定するとすぐにシャッツから図書館に入館するために必要な保証金分の金貨を借り、法務関係の情報を集めに図書館へと向かった。
「あっという間に一日が終わっちゃったね。今日はまだ台所が出来てないから、シャッツの作るご飯はもうしばらくお預けだね。その代わり大通りの屋台で売ってた食べ物を買って来たよ。フェルト、なんだか1人にいろんなこと任せてしまってごめんね」
「いえ、もともと警備関係のことでしたので私と不完全体がいれば問題ありませんでしたし、その後図書館に行ってこの世界の法律関係の情報を得られたので有意義な一日でした」
「そう言ってくれてよかったよ。こちらも必要なことは全部できたから明日からでもいつもの賊退治と情報収集に戻れそうだよ」
「申し訳無いのですが、我々が賊退治に戻る前に少し処理しておきたいことがります。まず、図書館で調べてきた結果この世界ではあまり人権意識は高くないようで、特に税を納めることのできないスラム街に住むような者が殺されても、公権の介入はないのが一般的とのことです。ですので、今後この拠点の警備方針として2,3日は侵入しようとする者、した者へは口頭での注意と今後は殺害を含めて処分することを警告として伝えるにとどめます。その後は、確固たる態度で挑み犯人とその背後にいるものも含めて排除するようにいたします。この犯人の排除を賊退治に行く前に一回は行っておきたいと思います」
今更だがこの世界は人の死が本当に身近に存在するよな。前の世界なら大きなニュースになりそうなことが日常的に起こってるし、それに人々が慣れている。いかに自分が前の世界で恵まれた環境に住んでいたかをしみじみと感じるよ。でも、最近では俺自身が人を殺す選択を躊躇なく選んでいる。この世界に毒されてるのかな。
夕食を終え、屋敷にある大きな浴槽の中でユタカはそんなことを考えながらぼーと浴室の天井を見ていた。すると、突然浴室のドアが開き大きな声が聞こえてきた。
「おお、でけー風呂だな。こりゃーいいぜ、フェルトも早く来いよ」
現れたのはマッチョなロイトナンと細マッチョなフェルトだった。
「あれ、2人ともお風呂なんて入るの初めてじゃない?ホテルに泊まってた時はいつも俺しか入ってなかったし、なんかあったの」
「我々自動人形は新陳代謝しませんし、衣服を作る要領で体表面に付いた汚れも落とすことが出来ます。ですが、せっかくこのような浴室がありますので、我々も使わさせていただこうかと思いました」
「フェルトはこう言ってるが、さっきまで大変だったんだぜ。ゼクティア達がユタカの身辺警護をするって言って、ここに突撃しようとしてたんだ。ユタカは残念だっただろうが、フェルトと俺が2人の代わりに警護するってことにして入りに来たんだ」
「そんなことが起きてたの。ナイスだよフェルト、あの2人が入ってきたらおじさん、目のやり場に困っちゃうからね」
「何をガキのなりでまた老けたこと言ってんだよ。それと、何か悩み事でもあるのか?さっき何か考えてるように見えたが」
「よく分かったね。ロイトナンは実体験があるだろうけど、森の中で生活してた頃から比べて随分といい生活が出来てると思ったら感慨深いものがあってね。それと、前の世界では普通のサラリーマンだった人間が他人を殺す指示を出すような存在になってるんだから変だなって思って」
「こう言っては何ですが、我々もユタカ殿の前の世界での人となりを情報として共有しており、以前に増してユタカ殿は身内とそれ以外を明確に分けている節があるように思えます。まあ、人間だれしもそうだと思いますが、それがこの世界に来て理不尽な状況に追い込まれたことで身内を守るためには危険を及ぼすその他を躊躇なく排除できるように、心の在り方が順応あるいは適応したと考えればよいのではないでしょうか」
「それに、だ。前の世界みたいに犯罪者にまで手厚い人権が保障されているような環境の考え方で命令されてたら、とてもじゃないがユタカを守り切ることが出来ないぜ。むやみに殺すのは頂けないが、少なくともこの世界では害する奴を殺すのは当たり前らしいぜ。まあ、ユタカが左手を額に当てながら命令するときの冷酷さは普段とギャップがあって驚くけどな。はははは」
「ありがとう、2人とも。世界に順応か、郷に入っては郷に従えってやつだね。そうだね、これからも身内のためならどんなに残酷なことでも出来るようにしなきゃね。この世界に血の繋がった家族はいないけど、俺の力から生まれたみんなは俺の家族みたいなものだ。」
風呂から上がった後はユタカの寝室をどこにするか、だれが部屋の警護をするかでゼクティアとシャッツが大いに揉めたが、警備責任者であるフェルトの鶴の一声で全てが決まった。
次回は2月3日午前0時の投稿となります。
誤字・脱字、語句の選びの間違いなど指摘いただければと思います。




