25.図書館
ゼクティア達と拠点候補を探したのち、しばらく町を散策し終えたユタカは、現在拠点としているホテルに戻ってきた。
「ユタカ、ロイトナン達からの報告ですが本日は戻らずに討伐を続けるようです。なお、結果は上々だそうです」
「それはよかった。あまり無理をせず、適当なところで戻ってくるように伝えておいて。あとで、フェルトに拠点候補を見てもらわないといけないしね」
その後、ホテルの夕食を終えたユタカ達は翌日の予定を決めるために、ユタカのいる部屋に集まっていた。
「いやー、今日の夕食も素晴らしかったです。あの前菜の料理は何だったでしょうか。野菜のうまみを上手に使っていました。ぜひとも再現したいです」
「新しい拠点が出来たらシャッツのために思う存分料理ができるような台所を整備したほうがいいかもしれないね」
「いいんですか、ユタカさん。なら、私はユタカさんの専属の料理人になれるように頑張ります」
ユタカとシャッツで本題から外れ始めたところでゼクティアが咳ばらいをしながら、話を本筋に戻そうとした。
「ユタカ、明日はマクトルの図書館に行く予定でしたね」
「ああ、そうだった。そうそう、明日はこの町に来た目的の一つでもあるが、この世界について知るために情報収集を行う。そのために図書館に行くよ。ただ、今日エルヴィンさんに図書館について聞いたところ、この世界ではまだまだ書籍は希少なものらしく、入館する際には一人当たり金貨10枚の保証金が必要らしいよ。当然、図書館に損害を与えなければそのまま返されるものだけどね」
「その保証金の値段なら今の手持ち資金で3人が図書館に行くことは可能ですね。調べることは分担をしますか。それとも、総がかりで必要なことを調べていきますか」
「分担しよう、シャッツはこの世界の金融、経済関係について確認してくれ。俺とゼクティアは政治、統治関連、それと帝国と例の伯爵について調べていこう」
「分かりました。グレンゼ村を襲った首謀者と思われる人物ですね」
「ああ、そいつに関しては必ず仇を返すぞ。ただ、聞き出した内容からは奴が動き出すまでには時間がありそうだ。それまでに、こちらが十分な知識と力を得る必要がある。そのためにも、奴がどんな力を持っているのか、人間関係、利権関係を調べていこう」
「「了解」」
翌日、ユタカ達はマクトルの富裕層が居を構え、領主の住まいもある中心部付近にある図書館へと向かった。
「この辺は城壁近くと違って落ち着いた雰囲気だね。保証金の高さを考えれば庶民が日常的に利用できるような施設じゃないから、こんなところにあったほうが需要に合ってるんだろうな」
「ユタカ、見えてきました。あれがエルヴィンさんに教えていただいた図書館だと思います」
ユタカ達の前に現れたのはアテネのパルテノン神殿のような外装で、重厚な雰囲気のある建物だった。そして、警備の兵士が目を光らせる中、3人分の入館手続きを終え、司書に自分達の求める書籍の大まかな分野を伝えて、紹介された書庫のある区域へ着いた。
「ほう、これはすごい蔵書の数だな。これだけのものがあるならあの外観にも納得だな。保証金が安すぎるとさえ思える数だ。よし、早速始めよう。これだけの書籍の数があるとかなり時間が掛かると思うけど、とりあえず今日は夕方の閉館時間まで調べよう。閉館後は図書館の出入り口に集合しよう」
「「了解」」
シャッツは経済などに関する書籍がある区域へ向かい、ユタカはゼクティアと共にこの世界の歴史、政治体制について一般的な事柄から浅く広く調べていった。調べるべきことは膨大でアッという間に閉館の時間になってしまった。
「2人ともお疲れ様。俺たちのほうは常識を知る作業が全然終えられてなくて、まだまだ時間が掛かりそうだよ。シャッツの方はどうだった?」
「大体のことは把握できたかなと思います。金融などに関しても発展途中のようで、まだ単純な形態で行われているようです。税金に関して人頭税や関所や城門などでの関税関係が主で、所得税などは一般市民には課せられていないようです。まあ、人頭税の額を領主の一存で決められることもあって、税の種類の少なさがそのまま市民の資金的な余裕には繋がっていないようですが」
「もう全体が見えてきてるのか、すごいなシャッツ。別に商人になって金や物を動かして儲けようと思ってないからそこまで深堀する必要もないのかもしれないな」
「はい、あと2,3日調べたらユタカさんが調べているほうをお手伝いしようかと思います」
ホテルに向かって歩きながら一日の成果を確認をしていると、ホテルの入り口に見慣れた馬車が停まっているのが見えた。
「おう、ユタカ。いま帰ってきたところだぜ。ユタカ達も図書館から戻ってきたところか」
「ああ、お疲れ様ロイトナン、フェルト。もういい時間だから夕食を食べながらお互いの成果を確認しようか」
5人はいつもの食堂の席で豪勢なフルコースを堪能していた。
「なんでしょう、この牛肉の上に掛かっているソースは。とても深い味わいがします。ただ旨味があるのではなく、苦味や酸味などが素晴らしくお肉の味を引き立てています。どんな風に作ったのでしょうか」
「なんだ?シャッツ。急に食レポなんか初めて。前に夕飯食った時は”おいしい”しか言ってなかったよな」
「ロイトナン先輩、私はユタカさんの専属の料理人になるんです」
シャッツの突然の宣言にロイトナンは「?」マークを頭の上に出していた。
「昨日、ホテルの夕食を食べた後に部屋で話していたら、シャッツがここの料理を再現してみたいと言い出して。それを聞いたユタカが新しい拠点に台所を整備しようって話をしてからこう言ってきかないんです」
「なんですか、ゼクティア先輩。羨ましいんですか?しょうがないですねー。ホールぐらいなら任せてあげてもいいですよ」
凄い目でシャッツを睨みつけるゼクティアを見て、ユタカは若干引きながらも互いの報告をするように話を進めた。
「まあまあ、落ち着いてゼクティア。シャッツは新しい目標が見つかって舞い上がってるだけだから。2人で喧嘩をせずに仲良くやってください。じゃあ、お互いの成果を確認しましょうか」
「ユタカ、なんで敬語なんですか。まあ、フェルト達の方から報告をお願いします」
「ああ、我々はこの二日間で傭兵ギルドの依頼を処理して50人ほどの賊を捕縛、20人ほど殺害をしました。傭兵ギルドからの依頼達成による報酬はすでにシャッツに渡しております。捕縛した者に関しては換金作業後、受け取るようになっています。なお、前回の依頼の際に捕縛した賊の換金が終了しておりましたので、先の報酬と合わせてシャッツに渡しております」
「確かに、受け取っています。このあと話そうかと思っておりますが、順調に手持ちの資金が増えています。捕縛した賊の売却益も当初私が見込んでいた以上に高額です」
「ロイトナン、フェルト、この二日間お疲れ様。みんなは肉体的な疲労はないだろうけど、念のため明日は休養日としてゆっくりしてくれ。シャッツ、後で2人にお小遣いを渡してあげて、金額は任せる」
「分かりました。あとで先輩方に渡しておきます、次は私たちの成果の報告ですね」
「そうね、現時点で私達は拠点候補をすでに挙げています。資金的な面ではすでにシャッツに確認してもらって購入可能であると判断しています。ですが、警備面での問題が少々あるので後程、フェルトに確認してもらってから最終的な判断が出来るかと思います。その後は図書館にて情報収集を行いっている最中といったところです」
「分かった、明日の休養日にでも確認しておこう。あとで場所を教えてくれ」
「その物件に関して、主計官の私の見解では今のペースで収入が得られるのであれば、4か月ほどで購入が可能です。ただ、エルヴィンさんと交渉したところ低利で融資の確約を得ているので、後二週間ほど現在のペースで依頼をこなしてもらい、物件の購入を行おうと思っています」
「え、いつの間にそんな話をしてたの?それに借金をするのはどうかと思うけど、どうなの?」
ユタカは借金に対して、忌避感を感じていた。前の世界でも借金をして身を滅ぼす話を多く聞いていたので、積極的に選択肢の中にお金を借りるという行為を入れたくないと感じていた。
「確かに、お金が無くなったからお金を借りて、その場をやり過ごすようなことをやっていれば、すぐに先がなくなります。でも、適切な利率で借りることができ、その資金でもって大きな利益を得られるのなら時間を買う意味も含まれ、十分に選択肢に挙がると思います。ただし、十分に自身の収入とその投資の効果を検討しておく必要がありますが。今回は我々の抱える機密と十全にマネキンによる警備が出来ないことを考えると十分だと思います。先のユタカさんの能力の段階が上がる際にも報告のタイムラグが機密面での問題によって起きていますが、我々しかいない拠点を得ることである程度解消が可能です」
「分かった。うちの主計官が収入等を鑑みて決定したのなら問題ないんだろうと思う。俺が先入観で拒否するのはよくないみたいだ」
ユタカはシャッツの考えを聞き、この件については自身の好みを前面に押し出すのを控えることにした。
「ありがとうございます。ではユタカさんの了解を得ましたのでフェルト先輩の意見を聞いた後、購入の可否を決定して行動に移ります」
シャッツに拠点の購入について任すことを決定したあとは、ロイトナンから賊退治で消耗した備品などの細かい打ち合わせを行い、その日を終えた。
次回は1月20日午前0時の投稿となります。
誤字・脱字、語句の選びの間違いなど指摘いただければと思います。




