第38話 エルフとヒューマン
『ファラウェイ・ワールド・オンライン』内のエリア1中央噴水前。
既に夜中と言える時間帯なのに、これまでになくユーザアバターが多い。あと、やはりイベントがあったらしく、NPCの数も多いようだ。
だから、特に人が多い中央噴水前なら、人混みに紛れてわかりにくいんじゃないかなと思っていたのだけれども…。
「…なあ、あれ、もしかして」
「似てるけど…どうだろ。街で見かけたことなんてほとんどないし」
「だよなあ。あと、待ち合わせしてるみたいだし」
ひそひそひそ
うーん、フードを深くかぶっていても疑われるようだ。確かにこの耳はフードからはみ出て目立つけど、エルフなアバターは他にもいっぱいいる。もちろん、『目立つアバターにしてフードで隠すとか怪しい』という理屈はわかる。でも、今だけはそういう格好のアバターも珍しくない。有名アバターは、なぜか身内ばかりのユニークウェポン持ちばかりではないのだ。
ところで、そんなに『ぼっち』イメージが浸透してるの? ミリアナって。
「よう、お待たせ。…うん、まあ、しかたがないか」
「私が早く来ただけだよ。でも、しかたがないって?」
「装備がなあ。俺達は『コナミ・サキ』ブランドって意識してるけど」
「あっ」
しまった、『ミリアナ・レインフォール』の装備は全て自前だった! つまり、ほとんどユニーク装備のようなものだ。デザインは地味にしているけど、アバターに合わせて調節しているから、アバター全体として『他には見ない雰囲気』となる。うん、ソロばかりでそういうところ無頓着だったよ! さすが、筋金入りのぼっちアバター。
「でもまあ、いいさ。なんか聞かれたら『ミリアナ・レインフォールの真似してみました』って言っとけ」
「クリスマスだから?」
「クリスマスだから。じゃあ、行こうぜ」
そういって、私の手をとって歩き出すヘラルド。ちなみに、ヘラルドはサングラス…違うな、目だけを覆う仮面みたいなものを付けている。これもまあ、今の雰囲気に合っている。
◇
てくてくてく
「うーん、特殊イベントは軒並み終わってるっぽいな」
「そうなの?」
「ああ、姉さんは知らないか。こういう時のイベントって、特別な表示がポップアップするんだ」
てくてくてく
「へー、そうなんだ。ん? ねえ、もしかして、あれ?」
「お、まだ残ってたか! なんか、変な扉が佇んでいるが…。まあいいや、行こうぜ!」
「う、うん」
てくてくてく
…ヘラルドが、ずっと私の手をとって歩いている。無意識…じゃあ、ないよね。
えへへ。
えへへへ。
「なあ、まだエントリーできるか?」
「ええい、くそ、まだリア充共が残ってたか! VRだけど!」
「なんの話だ?」
「このイベントはカップル限定なんだよ! 日本サーバだけだけど」
「受付のアンタが、なんでやさぐれてんだよ」
「エントリーするカップル達を妬んで祝福するよう言いつかってる」
「なんだそりゃ」
あれ、マーカー表示をよく見たらNPCだ。あまりにどっかで見たような人達と同じ雰囲気だったから、ユーザ主催イベントかと思っちゃった。それにしても、『言いつかってる』って…NPC制御システムがやらせてるってことだよね。意外とおちゃめさん設定?
「特別仕様の、一層しかないダンジョンへの入口だ。最後にボスを倒せば豪華景品がドロップする」
「レアものか?」
「さあ。やってみてのお楽しみだ。ああ、もちろん、カップル限定ゆえの制約がある。ほら」
ピッピッ
ぽんっ
「同じ青色の…双剣とロッド?」
「攻撃用の武器はこれしか使えない。魔法も含めてな」
「縛りプレイか」
「ああ。しかも、双方同時の発動のみ効果がある」
「剣と魔法をか?」
「そうだ。まあ、入口付近の魔物がチュートリアル代わりだな。どうだ、やってみるか?」
ぽーん
【イベント『双輪の迷宮』を開始しますか? 〔はい/いいえ〕】
「えっと、姉さん、やるか?」
「うん、ヘラルドさえよければ」
「よっしゃ」
ピッ
「それじゃあ、扉を開けて入ってくれ。入って扉がしまればイベント開始だ」
「おう。さんきゅー」
NPCとも普通に受け答えするヘラルド。そういえば、バー『雨宿り』のマスターにもそんな感じだよね。というか、私の知り合いはみんなそうだけど。天空城の戦闘メイドさん達の影響かな?




