第31話 解決策
標高数千メートルの山脈の山頂。その山頂を目指して登山を続けていた一行が、急な悪天候で遭難しかけている。遭難した、というわけではないのは、運良く山小屋にたどり着き、そこで難を逃れているからである。通信端末も問題なく通じている。しかし、ここから先が進まない。食料が尽きかけており、このまま悪天候が長引けば、いつかは救出されるとしても、後遺症が残るほどの酷い体調不良となるかもしれない。
「これらは『緊急』とは言えませんし、現界能力がなくとも無事に救出される可能性が高いので、『ミリアナ・レインフォール』に回ってくることはないのですよ」
「でも、進捗によっては…」
「そうですね。ですので、『準緊急クエスト』とでもいえばいいのでしょうか? 『ファラウェイ・ワールド・オンライン』にはない言葉ですが」
ユリシーズさんはそう言うが、聞いてしまった美奈子さんとしては、気が気でならないようだ。それなら…。
「美奈子さん、こういう時は、どうしますか? 『NPC制御システム』は、自ら解決策を編み出せると判断した人々に指示を出すこともあるんですよね。というか、『ミリアナ・レインフォール』にはほとんどそのパターンみたいですけど」
「霧雨さん…ミリアナは、最終クエストまでにあらゆるクエストをソロで攻略していますからね。それこそ、パーティ攻略のはずのクエストの数々まで」
「だから、『NPC制御システム』がミリアナとしての美奈子さんに依存した解決策を出しまくるんですよね。もう、あのシステムって、人間の心情まで考慮するんじゃ…ああ、考慮したからこうなるのか。気が気じゃないって顔してますよ、美奈子さん」
美奈子さんが『ははは、はは…』と乾いた笑いを浮かべる。自分で自分に呆れているのかもしれない。いいことである。
「そ、そうだね。えっと、全員を連れて転移するのは最終手段かな。遭難しかけるたびにミリアナや魔石をアテにされるようになっても困るし」
「それでも、最終手段として残すんですね」
「人の命がかかっているからね。全部の依頼をこなせないからって、わざとひとつも手を出さないってのはおかしいよ。私は神様か何かじゃないんだから、できることをせいいっぱいやりたい」
「そこまで断言できる美奈子さんが素敵です」
「あ、ありがとう? 次は、そうね。追加の食料や暖房設備を転移で運ぶのもアリかも。ただ…」
「ただ?」
「精神的な辛さは残るよね。特に、転移なんてものができる人間を目の当たりにしたら」
「ああ…」
結局のところ、『現界』などというファンタジーなものがあったところで、使うのは普通の人間だ。こういう場合に重要なのは、どうやって使うかではなく、何を使うかだ。なるほどねえ。
「というわけで、原因が悪天候なら、天候そのものを変えてしまうのも手かな」
「「…は?」」
「リナちゃん、いいえ、『ライナ・アセトアルカナ』、あなたのユニーク・ウェポンは何?」
「それは、美奈子さんが今言った通り、アセトアルカナ…ああっ!!」
「そう、『嵐弓』アセトアルカナ、だね」
『シューティング・スター』って、流れ星って意味だけど、あのユニークウェポンの最終スキル、どう見ても嵐を巻き起こしてた!
「いやでも、霧雨さん、天候を変えるのは、周囲の環境に多大な影響が出るのでは」
「一行が山頂に上ってまた下りる程度の規模と時間なら、ほとんど影響ないと思いますよ。局所的とでもいえばいいかな」
「なるほど…」
ユリシーズさんが、一度は心配したものの、現場付近の天気図をモニタ表示させながら美奈子さんの説明を聞き、納得したような表情をする。
よし、時は熟した!
「じゃあユリシーズさん、私のアイテムボックスに『現界』スキル付与の魔石をふたつ入れておいて下さい」
「行くの、リナちゃん?」
「ええ、見てて下さい!」
私の初出動だ!




