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第24話 霧雨家

 ふおんっ


「あれ? ここどこ?」

「初めて来る…お酒が出る店?」

「ギルマス、優真くん…ユーキくんはまだ小学生だよ!」

「ミナ…いや、コナミか、彼女がここを指定したんだよ」


 『ファラウェイ・ワールド・オンライン』エリア1中央噴水前近くの路地裏にある、バー『雨宿り』。ミリアナがオーナーで、コナミも待ち合わせや雑談によく使う。この3人がいなければ、ここでも良かったんだけど。


「ご、ごめんください…。あ、ユーキくん!」

「マリちゃん! 時間ぴったりだね」


 ひとりの男性ヒューマンアバターと一緒に、獣人アバターで狐耳…かな、そんな姿の女の子がバーに入ってきた。この子が友達のようだ。一緒にいるのはお父さんだろう。


「あら、友達って女の子だったの? 霧雨さんのファンって言うから、てっきり」

「じゃあ、本当の意味でファンなのね。ということは…あらあら、まあまあ」

「ヘタレ兄と違って、ユーキくんぐっじょぶ」


 うん、最後の言葉はスルーしよう。


 お友達のお父さんアバターと話をし、フレンド登録や待ち合わせ時刻の確認をして別れる。ボクがこの娘の保護者を引き継ぐ形だ。


「それじゃあ、早速『現界』しようか。あ、ボクがユーキ…優真の兄です」

「マリです。本名も『真理(まり)』って言います」

「よろしく。それじゃあみんな、僕につかまって」


 ピッピッ


現実世界(Real World)の『霧雨家・リビング』に転移します。よろしいですか? 〔はい/いいえ〕】


 〔はい〕を、ぽちっと。



「はあ…これだから変態集団は」

「ごめん、拓也(たくや)くん…」

「アンタには期待してねえから、別にいいけど」


 そう言われると、ますます悲しくなるんだけど。


 無事にミナの家のリビングに『現界』した僕達6人を迎えたのは、ミナではなく拓也くんだった。


「美奈子姉さんは近所のスーパーに買い出しに出てる。少し待っててくれってよ。ほら、ジンジャーエール」

「あ、ああ、ありがとう。…ちょっと、苦い?」

「ギルマス、味覚が子供」

「コーヒーも、砂糖とミルクたくさん入れてるよね」

「この間の夕食でも、ハーブ料理が苦手だった。残念」


 ミナの家でまで、言われ放題…。


「そっか、美奈子さんのファンなんだ。私もだよ!」

「はい! 初めて会うの、楽しみです。本当は、生身で会いたかったんですけど」

「僕もそうだけど、やっぱりちょっと現実感がないんですよね。VRゲームやってる時と同じで」

「『アバター同期率』のせいかな? 通信状態が悪いと特にそうかもね」

「やっぱり詳しいんですね。はー、並木さんにも引っ越す前に会いたかったです」

「私が転校したのも最近だからね。学校が近くても、入れ違いになっちゃったかな」


 そしてなぜか、拓也くんのクラスメートで、『フォークロア・コーポレーション』社長の娘でもある、並木リナさんも来ている。拓也くんがわざと呼んだらしい。本当に、なぜに。いや、わかってるけど。


「ミナも含めて9人かあ。多くなっちゃったね」

「あの連中が来なければ6人で済んだんだけどな」

「いやもう、本当に面目ない」

「苦労してるのは知ってるけどな。でもよ、あの3人、姉さんは別としても、それでもあんたのこと好きだよな?」

「えっと…そうなの、かな?」

「他のギルメン女子よりはそうだろうよ。幼なじみなんだって?」

「不本意ながら…」


 かれこれ、幼稚園以来だ。ベッタリというわけではないし、今だってクラスが別だけど、それでも、同じ学校に通い続けている。高校は別の市にあるし、偶然…だと思いたい。


「リアルハーレムか。せいぜい刺されないようにな」

「キミは、天空城(ミストライブラ)のメイドさん達とうまくやってるようだね」

「しょせんはNPCだしな。っていうか、最近は姉さんとの方が仲良くて」

「らしいね。でも、話題はキミのことばかりなんじゃないのかい?」

「いや、まあ…」


 拓也くんが、ミナを姉以上に想っていることは明らかだ。しかも、ふたりは血がつながっていないのではないかという、もっぱらの噂である。似ていないということもあるが、霧雨家はふたりが小さい頃にこの街に越してきたことから、それ以前のことが不明なのである。実のところ、御両親の仕事もよくわからない。シフトが入りやすい会社員ということらしいが…。


「まあ、それでも僕はあきらめてないけどね」

「そーかい」

「…あっさり、してるんだね。自信があるのかな?」

「別に。アンタが『何を』あきらめていないかとか興味ねーし」


 そりゃあ、まあ、ミナも明らかに拓也くんのことを意識しているしね。拓也くんが姉弟の関係を思い悩んでいるのが丸わかりなのに対し、ミナは特にこだわっているように見えない。だから、未だ家族愛の域を超えていないと解釈できなくもないけど、ミナは良くも悪くも自覚というものがない。普段の様子を見る限り、無自覚に惚れ込んでいる可能性さえある。


「ただいまー。お待たせ…って、あれ、人口密度が高い」

「おかえり、ミナ。ごめん、またあの3人が…」

「ああ、なるほど」

「姉さん、物分り良すぎ」


 ミナが、買い物袋を抱えてリビングに入ってきた。小柄なミナには重そうだ。


「あら、あなたが優真くんのお友達?」

「は、はい、真理っていいます! 初めまして!」

「霧雨美奈子です。よろしくね。あ、そうそう。『現界』のことは、できれば内緒にしてね」

「大丈夫です、誰も信じませんから!」

「なのよね…」


 そういえば、この真理って子、『現界』については特に驚くことはなかったけど、ミナとの初対面は興奮しているんだよね。うん、まあ、気持ちはわかるけど。


「それじゃあ、少し待っててね。アップルパイ焼くから。ジンジャーエールに合うんだ!」

「楽しみです!」

「み、美奈子さんの手作り料理…!」

「じゅるり」

「ごくり」

「はぁはぁ」


 な、なんか、優真の教育に悪い反応が一部の方向から…。


「というか、『現界』組はいい加減、装備外せよ。エルフ耳や狐耳はともかく、そこの3人は剣と鎧、アンタはそのクソでかい盾」

「えっと、アイスフィールドは、あの時と同じく、この壁でいいかな?」

「いいんじゃね。ほら、剣と鎧も」

「「「ぶー」」」

「ああん?」

「「「ごめんなさい」」」


 拓也くん、キミの方がよほど『新緑の騎士団』のギルマスにふさわしいよ…。

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