第24話 霧雨家
ふおんっ
「あれ? ここどこ?」
「初めて来る…お酒が出る店?」
「ギルマス、優真くん…ユーキくんはまだ小学生だよ!」
「ミナ…いや、コナミか、彼女がここを指定したんだよ」
『ファラウェイ・ワールド・オンライン』エリア1中央噴水前近くの路地裏にある、バー『雨宿り』。ミリアナがオーナーで、コナミも待ち合わせや雑談によく使う。この3人がいなければ、ここでも良かったんだけど。
「ご、ごめんください…。あ、ユーキくん!」
「マリちゃん! 時間ぴったりだね」
ひとりの男性ヒューマンアバターと一緒に、獣人アバターで狐耳…かな、そんな姿の女の子がバーに入ってきた。この子が友達のようだ。一緒にいるのはお父さんだろう。
「あら、友達って女の子だったの? 霧雨さんのファンって言うから、てっきり」
「じゃあ、本当の意味でファンなのね。ということは…あらあら、まあまあ」
「ヘタレ兄と違って、ユーキくんぐっじょぶ」
うん、最後の言葉はスルーしよう。
お友達のお父さんアバターと話をし、フレンド登録や待ち合わせ時刻の確認をして別れる。ボクがこの娘の保護者を引き継ぐ形だ。
「それじゃあ、早速『現界』しようか。あ、ボクがユーキ…優真の兄です」
「マリです。本名も『真理』って言います」
「よろしく。それじゃあみんな、僕につかまって」
ピッピッ
【現実世界の『霧雨家・リビング』に転移します。よろしいですか? 〔はい/いいえ〕】
〔はい〕を、ぽちっと。
◇
「はあ…これだから変態集団は」
「ごめん、拓也くん…」
「アンタには期待してねえから、別にいいけど」
そう言われると、ますます悲しくなるんだけど。
無事にミナの家のリビングに『現界』した僕達6人を迎えたのは、ミナではなく拓也くんだった。
「美奈子姉さんは近所のスーパーに買い出しに出てる。少し待っててくれってよ。ほら、ジンジャーエール」
「あ、ああ、ありがとう。…ちょっと、苦い?」
「ギルマス、味覚が子供」
「コーヒーも、砂糖とミルクたくさん入れてるよね」
「この間の夕食でも、ハーブ料理が苦手だった。残念」
ミナの家でまで、言われ放題…。
「そっか、美奈子さんのファンなんだ。私もだよ!」
「はい! 初めて会うの、楽しみです。本当は、生身で会いたかったんですけど」
「僕もそうだけど、やっぱりちょっと現実感がないんですよね。VRゲームやってる時と同じで」
「『アバター同期率』のせいかな? 通信状態が悪いと特にそうかもね」
「やっぱり詳しいんですね。はー、並木さんにも引っ越す前に会いたかったです」
「私が転校したのも最近だからね。学校が近くても、入れ違いになっちゃったかな」
そしてなぜか、拓也くんのクラスメートで、『フォークロア・コーポレーション』社長の娘でもある、並木リナさんも来ている。拓也くんがわざと呼んだらしい。本当に、なぜに。いや、わかってるけど。
「ミナも含めて9人かあ。多くなっちゃったね」
「あの連中が来なければ6人で済んだんだけどな」
「いやもう、本当に面目ない」
「苦労してるのは知ってるけどな。でもよ、あの3人、姉さんは別としても、それでもあんたのこと好きだよな?」
「えっと…そうなの、かな?」
「他のギルメン女子よりはそうだろうよ。幼なじみなんだって?」
「不本意ながら…」
かれこれ、幼稚園以来だ。ベッタリというわけではないし、今だってクラスが別だけど、それでも、同じ学校に通い続けている。高校は別の市にあるし、偶然…だと思いたい。
「リアルハーレムか。せいぜい刺されないようにな」
「キミは、天空城のメイドさん達とうまくやってるようだね」
「しょせんはNPCだしな。っていうか、最近は姉さんとの方が仲良くて」
「らしいね。でも、話題はキミのことばかりなんじゃないのかい?」
「いや、まあ…」
拓也くんが、ミナを姉以上に想っていることは明らかだ。しかも、ふたりは血がつながっていないのではないかという、もっぱらの噂である。似ていないということもあるが、霧雨家はふたりが小さい頃にこの街に越してきたことから、それ以前のことが不明なのである。実のところ、御両親の仕事もよくわからない。シフトが入りやすい会社員ということらしいが…。
「まあ、それでも僕はあきらめてないけどね」
「そーかい」
「…あっさり、してるんだね。自信があるのかな?」
「別に。アンタが『何を』あきらめていないかとか興味ねーし」
そりゃあ、まあ、ミナも明らかに拓也くんのことを意識しているしね。拓也くんが姉弟の関係を思い悩んでいるのが丸わかりなのに対し、ミナは特にこだわっているように見えない。だから、未だ家族愛の域を超えていないと解釈できなくもないけど、ミナは良くも悪くも自覚というものがない。普段の様子を見る限り、無自覚に惚れ込んでいる可能性さえある。
「ただいまー。お待たせ…って、あれ、人口密度が高い」
「おかえり、ミナ。ごめん、またあの3人が…」
「ああ、なるほど」
「姉さん、物分り良すぎ」
ミナが、買い物袋を抱えてリビングに入ってきた。小柄なミナには重そうだ。
「あら、あなたが優真くんのお友達?」
「は、はい、真理っていいます! 初めまして!」
「霧雨美奈子です。よろしくね。あ、そうそう。『現界』のことは、できれば内緒にしてね」
「大丈夫です、誰も信じませんから!」
「なのよね…」
そういえば、この真理って子、『現界』については特に驚くことはなかったけど、ミナとの初対面は興奮しているんだよね。うん、まあ、気持ちはわかるけど。
「それじゃあ、少し待っててね。アップルパイ焼くから。ジンジャーエールに合うんだ!」
「楽しみです!」
「み、美奈子さんの手作り料理…!」
「じゅるり」
「ごくり」
「はぁはぁ」
な、なんか、優真の教育に悪い反応が一部の方向から…。
「というか、『現界』組はいい加減、装備外せよ。エルフ耳や狐耳はともかく、そこの3人は剣と鎧、アンタはそのクソでかい盾」
「えっと、アイスフィールドは、あの時と同じく、この壁でいいかな?」
「いいんじゃね。ほら、剣と鎧も」
「「「ぶー」」」
「ああん?」
「「「ごめんなさい」」」
拓也くん、キミの方がよほど『新緑の騎士団』のギルマスにふさわしいよ…。




