第22話 ふたりでも出来ること
突発的な緊急クエストはあったものの、本日の業務を一通り終えた社員が帰宅を始める。もちろん、シフトの保守要員を残して。
「今回は指示対象に『ミリアナ・レインフォール』は含まれていなかったな。さすがに、毎回のように出動させるのは心苦しいぜ」
「でも、あの娘、いつも積極的に引き受けてくれるよな。やっぱり、楽しんでいるのかな?」
「10年以上もクリアされなかった最終クエストをソロでクリアしたほどだからな。本人の意思を含めて、うまくマッチしたということだろう」
「すげーよなー。あの最終クエスト、今の運営である俺達でさえ、どうにもならなかったのに」
NPC制御を含めたゲームシステムは、最終クエストがクリアされるまで大幅拡張を行わないことにしていた。実際、VRゲームとしての『ファラウェイ・ワールド・オンライン』は、最終クエスト初クリアへのモチベーションが人気を博した大きな要因のひとつであった。
「ま、そのおかげで、世代交代した俺達が新しいアイデアを導入できたわけだ。結構評判いいよな」
「ミリアナは強すぎてむしろ目立たないっていう。バランス調整もバッチリだな」
「そして、弟くんが物凄く目立っているという。攻城戦を想定した『天空城ミストライブラ』が、あそこまで効果を発揮するとは」
「『聖盾アイスフィールド』は第一期の隠しアイテムだったけど、ユーマくんがきちんと活用してるな」
「ゲームでもリアルでもな。前島家の御曹司としては、鬼に金棒だな」
「それ、たぶん言葉の使い方間違ってるぞ」
最近、現実世界から呼び出せるだけでなく、それ自身でミリアナのように『現界』機能を使えるようになった、聖盾アイスフィールド。制約はいろいろとあるものの、ミリアナだけに偏っていた『緊急クエスト』依頼が分散されたのは、運営としても少しほっとしているところだった。
「ていうか、今や俺達も使おうと思えば使えるんだよな、『現界』機能。夢のようだ…」
「美奈子ちゃんが魔石たくさん作って納品してくれたもんな。あの三人組にいくつか掻っ攫われるとは思わなかったが」
「あれなあ…。いや、結局はあの娘のためだったからな。情けは人の為ならず」
「やっぱり言葉の使い方違うぞ」
「とにかく、これから世界が大きく変わる可能性もあるわけだ。良い方向に行ってほしいところだ」
「『NPC制御システム』は依然、広く公表することを避けているみたいだけど」
「というか、誰も信じないだろ。だからこそ夢なわけだが」
シフトの社員は、今日もそんな話に花を咲かせる。本日2回目の『緊急クエスト』が発動するとも知らずに。
◇
『それは…本当なのか?』
「嘘ついてどーすんですか、ユリシーズさん。というか、これまで『NPC制御システム』が、夜中に彼女を叩き起こすような指示を出したこと、ありました?」
『確かに…。付与魔石の活用も、この間の三人娘達の働きがあったからこそだったな』
「とにかく、俺達はやる気ですよ。まさに千載一遇のチャンス!」
今回の緊急クエストは、夜間シフトに入っていた運営スタッフふたりの出動が提案されていた。転移スキルを付与した魔石を用いた、現実世界への『現界』を含めて。
「タイミング良すぎるよな。お前が、夢がどうとか言うから…」
「え、もしかして俺達、『NPC制御システム』に監視されてる?」
『シフトの様子は普通に記録が撮られている。あながち間違いではないだろう』
「おうふ」
「まあ、今回に限っては、悪い気はしないな。よし、そろそろ行くか」
「ああ! まずは俺な!」
既にログインしていたふたりは、アイテムボックスから取り出した魔石の転移スキルを発動し、現実世界を示す地図ウィンドウから転移先を指定する。
ピッ
【現実世界の『大西洋上・XXX地点』に転移します。よろしいですか? 〔はい/いいえ〕】
〔はい〕を、押す。
◇
ひゅんっ
「うわあああ!?」
「落ち着け、スキルを発動しろ! 『浮遊』!!」
「れ、『浮遊』!!」
ふわっ
海面から数十メートル上空に転移したふたりは、浮遊スキルで落下を防いで空中に留まる。
「おおお…マジで魔法が使える!」
「初心者装備のヒューマン魔導士だけど、結構いけるな」
「現実世界で少しでも魔法が使えればと思っていたけど、本当に便利だな」
「美奈子ちゃんが毎週『現界』しているのも頷けるよな」
彼らは社員として採用される前は、『ファラウェイ・ワールド・オンライン』のヘビーユーザーだった。特に『アバター同期率』が高いというわけではなく、社員としても現実世界からの保守対応がメインではあったが、彼らは彼らなりにVRゲームを楽しんでいたから、ひさしぶりのアバター操作は特に苦ではなかった。それが、たとえデフォルトの初心者レベル1のアバターであっても。
「っと、感動している暇はないぜ! あそこ!」
「うお! 確かに火を吹いてやがる!」
ふたりの更にはるか上空から飛来する。火と煙を伴って落下している飛行機。事前情報では、300人を超える乗員・乗客を乗せているはずである。
「秘密裏に飛んでいた、どこぞの国の戦闘機と接触したんだっけ?」
「そっちは既に墜落したみたいだがな。パイロットはパラシュートで無事に海の上らしい」
「無事って言えるのか、それ? そいつは放っておいていいんだっけ」
「ああ、本国の救助隊が向かっているらしい。俺達は俺達で始めますか!」
「おう! 『飛翔』!!」
ひゅっ
飛翔スキルであっという間に飛行機に近づくふたり。次第に煙に巻き込まれるようになるが、本人達は特に気にならない。最低限の効果とはいえ、パッシブスキルで簡単な防御が働いているようだ。
「じゃあ、いくぞ。『氷結』!!」
「よし、凍ったな。おら行け、スライムジェム!!」
「『NPC制御システム』もよく考えつくよなあ…」
火と煙を吹いている箇所を凍結させつつ、スライム討伐で獲得できるゼリー状の素材を大量に『現界』させる。いずれも、レベル1で対応可能な規模である。
「ミリアナなら、魔剣レインフォールの『シャイニー・レイン』で全部消滅させちゃうんだけどな」
「いや、あの娘の本質は鍛冶・調合師だからな。案外、同じ手を使うかも」
「ああ、そっか。誘拐犯や社長のお嬢さんを爆弾で撃退するくらいだもんなあ」
ふたりが霧雨美奈子に対するよくわからない評価をしている間に、飛行機は海の上に不時着する。システムの通信機能経由でパイロットの無線を傍受する限り、ケガ人等はほぼ皆無のようだ。
「えっと、俺達はこれで帰っていいんだよな」
「だな。まさか俺達だけで乗客乗員全部を連れて転移できないしな」
「飛行機の端を掴んで転移すればいけそうだけど」
「たぶん、俺達の『アバター同期率』じゃ無理なんだろうよ。残念だけど」
「かもな。なんかやっぱり、少し夢を見ているかのような気分だし」
仮想世界や『現界』して臨む現実世界を、いかに現実として捉えるかことができるか。『アバター同期率』とは、反応速度やアバター制御といった技能的な側面に留まらない。心の動きや記憶にも関わるものであり、それゆえに、ユーザ本人のセンスが問われる。もっとも、それは才能などというものではなく、あくまで本人の意思や性格に依存するものである。
「そう考えると、美奈子ちゃんは相当ハマってるんだろうなあ、『ファラウェイ・ワールド・オンライン』に」
「ミリアナよりも『コナミ・サキ』を見てると、確かにそう感じるよな。今回の魔石の大量生産だって、なんかもう一心不乱に打ち込んでたし」
「すごい集中力だよな。おっと、乗客が続々と出てきた。見られても面倒だし、さっさと戻ろうぜ」
「おー」
ピッピッ
【現実世界の『フォークロア・コーポレーション本社・管理運営室』に転移します。よろしいですか? 〔はい/いいえ〕】
「おいおい」
「いいじゃんか、もちっと楽しもうぜ。魔石はまだいくつかあるし」
「しょーがねえなー」
その後、念のため本社に駆けつけてきたユリシーズに、運営部屋でマンガ肉を頬張っていたところを見られたふたりがどうなったかはあまり知られていない。




