第49話 迎撃
シルバーリング。最近新しく誕生した、月面都市のひとつだ。
数十年前から月面開発は本格化していたが、SF作品に出てくるような反重力技術などというものは存在せず、宇宙進出はゆっくりとした歩みである。
人類が初めて月面に到達してから1世紀をはるかに超えて、ようやく『普通の人々』が住めるような月面ドームを建設できるようになり始めている。
繰り返す。反重力技術などというものは存在しない。それこそ、創作ファンタジーが現実化しない限り。
『予測できなかった隕石群が、シルバーリングに向かって飛来しています。万が一の迎撃システムが起動を始めていますが、月面上の観測では、迎撃できないほどの大きさの隕石が含まれているそうなのです。他の隕石も数が多く、その大きな隕石の破壊だけに迎撃を集中させることもできない…という状況です』
住民はもともと多くなく、火山噴火の時と同じく、既に近隣の月面都市に避難済である。しかし、隕石衝突によるドーム破壊は甚大な損失である。たとえ小さな隕石よる小さな陥没であっても、そこから空気が即座に漏れ、ドーム内の動植物や建造物に多大な影響を与える。
と、いうわけで。
「え、ここは…って、ええええええ!?」
ドーム内側の壁近くに転移した私達は、月の重力に引っ張られて落ちていた。
「ちゃんと私に掴まっててね。『飛翔』」
ふわっ
私達の体が浮き上がり、地面に向かってゆっくりと降りていく。
ドーム内のビルの屋上に降り立ち、私に掴まっていた優真くん…正確には、『現界』中のアバターであるユーキくんを、屋上のスペースに降ろす。
「え、ここって…空が、宇宙…? 『ファラウェイ・ワールド・オンライン』に、こんなエリアって…?」
「ここは、ゲームの中じゃないよ。現実世界の月面都市のひとつ、『シルバーリング』のドームの中だよ」
「言われてみれば…最近、ニュースで観たような建物が…でも、…え???」
あ、ニュースで流れてたのか。私は初めて見たのよね。マップ表示がそう示していたから、自信をもって教えただけなのだけど。
「これが、現実世界への転移による『現界』だよ。万が一のことがあっても、本体は自宅で眠ったままだから安心してね」
「え、現界って…それって、ミリアナの…???」
「ごめん、ちょっと待っててね。時間がないんだ」
ピッピッ
『…なんだ、これ? 地球からじゃなくて、ドーム内から…!?』
「『フォークロア・コーポレーション』からの要請を受けて来た者です。迎撃システムによる超電磁砲発射は何秒後ですか?」
『!? マジで本当だったのかよ…! ああいや、あと1分もない。30秒前までは標的を変更可能だ』
「では予定通り、迎撃可能な小隕石のみを標的にして下さい。問題の隕石は、私―――ミリアナ・レインフォールが対応します」
ピッ
【ショートカット『偽装解除』を実行します】
ぶんっ
「…美奈子、姉ちゃんが………!!!」
予想外だったような、期待通りだったような、そんな瞳と表情を見せる、優真…ユーキくん。
「そこで、よく見ていてね。『攻略』してくるから。『エアーバブル』」
薄い膜が私を包む。元は、深海クエスト攻略などで必須となる魔法だ。ボスのクラーケンはなかなかしぶとかったよ。とにかく、宇宙空間でも有効であることは、人工衛星回収の時に確認済である。
ぶおん…
バチッ―――――――――
ドームの外側から、 いくつもの筋が音もなく伸びていく。
そして。
―――
―――、―――!
―――! ―――! ―――…
数々の小隕石が、音もなく破壊されていく。
「あれね…!」
ピッピッ
【現実世界の『月面都市シルバーリング・ドーム外地点XXX.XX』に転移します。よろしいですか? [はい/いいえ]】
[はい]を、押す。
ふっ
目の前に、隕石が迫ってくる。遠近感があいまいで、速いのか遅いのか、小さいのか大きいのか、よくわからない。
でも、関係ない。
「『絶対拘束』!」
『束縛』の上位魔法。地面を駆ける対象だけでなく、空を駆ける対象にも有効な移動制限魔法である。ワイバーン程度なら一発で空中に固定できる。
ゆっくりとブレーキがかかるように、隕石が速度を落とす。しかし、完全には止まらない。このままでは、月の重力に引かれて、いずれは月面に落ちる。もちろん、そんなことはさせない。
「これで…終わりよ! 『シャイニー・レイン』!!」
もはや定番となった、トドメの必殺技。宇宙空間だろうがなんだろうが、仮想世界や地上で見たファンタジーな現象と同じ光の奔流が、減速した隕石を包み込む。
…シュッ
『闇の王』討伐の時と同じように、ある一点に急速に収束するように、すっと消える隕石。
…
……
………
ピッピッ
「ん、隕石はみんななくなったみたいね」
マップでそう確認した私は、再びビルの上に転移する。
【現実世界の『月面都市シルバーリング・○○ビル屋上』に転移します。お疲れ様でした】
ひゅんっ
「ちゃんと、見てくれた?」
「…うん!!!」
それは、良かった。




