第18話 ルーチンワーク
『ミリアナさん、聞こえますか? これから、最後に送られてきた座標情報をお送りします』
「…はい、届きました。これより転移して、索敵魔法をかけます」
『よろしくお願いします!』
氷に閉ざされた海域で、クルーズ船が消息を断った。航行システムに不備が出たのか、それとも、座礁して動けなくなったのか…。いずれにしても、どこに流れ着いているのかわからない。衛星システムを使うには撮影と分析に時間がかかるということで、私―――『現界』したミリアナ・レインフォール―――に救援要請があったのだ。例によって『ファラウェイ・ワールド・オンライン』の運営会社を通じて。
最初のハイジャック事件といい、気分は世界を股にかけたなんとか救助隊である。ひとりだから隊とは言えないが。あ、フォークロア・コーポレーションを本部にすればいいのか。
「…クルーズ船の反応を検知! 生体反応も出ています。これから転移します」
『お気をつけて。ああ、あとは乗客を脅かさないようにしてもらえれば』
「それは…無理じゃないかなあ」
ユリシーズさんの冗談めかしたお願いに苦笑する。
なんといっても、銀髪エルフの美少女アバター。その造形は『ミリアナ・レインフォール』として知られているが、こうして『現界』して活動していることは噂レベルでしかない。大々的に公表できるわけではないので、噂以上にはならないが。
「それにしても、こうして通信・通話もVRゲーム内と同じように使えるなんて…」
『便利でいいですよね。仕組みとか原理とかは相変わらずさっぱりですが』
「これまでの推測が正しければ、これも『私自身の能力』ってことになるんですよねえ…」
アバターの『現界』を含めた一連の超自然的機能に、VRゲームのシステムはほとんど関わっていない。あくまで、能力に対するインタフェースを提供しているのみ。それが、現時点での私達が出した結論だ。
「そのうち、VRゲームとかに関係なく能力を発現できるようになったりするのかな…」
『その時は、霧雨さんを神と崇めた宗教法人を設立することにしましょう。世界が更に平和になりますよ』
「や め て」
さっさと救助して帰ろう、そうしよう。
明日日曜は、前島さんとお出かけする予定だし。
◇
ここ最近の私の日常は、曜日を基準にしてこんな感じだ。
【月曜日~金曜日】普通に学校生活をしつつ、夜は主にVRゲーム。たまに出動要請があってさっくり解決。
【土曜日】午前は偽装アバター『コナミ・サキ』で現界して学校生活、午後は運営本社で各種ミーティング。たまに出動要請があって以下略。
【日曜日】お出かけやら買い物やら。たまに以下略。
正義の味方活動はともかく、ユーザでしかないはずの私がVRゲーム運営会社である『フォークロア・コーポレーション』の臨時アルバイトのような立場と成り果てているのは、MMORPGではよくあること…なのか? 一応、報酬は出ているけど。
最近は以下略の活動がぽんぽん入ってきたので、前島さんとのお出かけは、久しぶりのお楽しみ外出だ。
「~♪」
「…姉ちゃんが、服とか選びながらおしゃれしているとか…哀れな」
「拓也、ノックしなさいと何度言えば…。あと、哀れってなによ」
「いや、姉ちゃんが男とかあり得ないから、クラスメートと出かけるだけでそんなに喜んでいるのかと」
「いいじゃない、クラスメートと一緒だって。映画館で映画観るのも久しぶりだし」
本当は、他のクラスメートも何人か一緒に行く予定だったんだけど、なぜか前島さん以外キャンセルになっちゃったんだよね。まあ、ふたりだけでも楽しめるよね、きっと。…あの、人前かどうかに関係なく、やたらと接触してくるスキンシップさえなければ。私以外にもやってることだと思うけど、恥ずかしいんだよねえ。
「よし! じゃあ、夕飯までには帰ってくるから」
「いってらー。お昼は母さんが作ってくれるって」
「たまには、拓也が作ってみたら?」
「やだ、めんどい」
「作れるようになりなさいよ…調理スキルのレシピ参考にしてみたら?」
「そんなヒマがあったら、ユニークウェポンのドロップを期待して討伐に出る」
「はあ…。それじゃ、行ってきます」
今度、ゲーム内で『ミリアナ・レインフォール』として拓也に接触してみようかな? 一応、憧れているみたいだし、料理が好きだとか言って…ダメかな。ユニークウェポンを一緒に探す方が喜びそうだ。




