第42話 一族
キキッ
「よし、降りろ!」
「…っ! 乱暴、しないで」
「しねえよ、せっかくの人質だしな」
「人質…?」
拓也くんを誘拐したり私に復讐しようとしていた男達と似ているが、何か違う。あれはなんというか、邪な雰囲気があったというか。誘拐の時点で邪以外の何者でもないけど。ただ、今回は…。
「ほら、さっさと乗れ」
「…小型クルーズ船?」
「そうだ。俺達の雇い主がいる」
なるほど、ただの雇われ犯か。淡々としているわけだな。
雨は止んでいるが、もうだいぶ暗い。埠頭に停泊中の船にこの面子で乗り込んでも、離れたところからでは誰が誰だかわからないだろう。下手をすると、隠蔽されたまま国境を越えてしまう?
『という感じ?』
『だから、なんでそんなに落ち着いてんだよ!?』
『たぶん、こうして拓也くんと話しているからだと思うよ? 「フォークロア・コーポレーション」には連絡したんでしょう?』
『ああ! なんか、現地の警察と本部の機動隊が既に動いてるってよ。けど、その船が出港しちまったら…!』
『機動隊って…そんなに早く動くものなの?』
『よくわかんねえけど、姉さんの「依頼」成果の恩恵をすぐに発揮するとかなんとか?』
『ああ、あの防御スキル付与の魔石かなあ。量産できるまでには時間がかかるはずなんだけど』
『姉さん、何してきたんだ…。とにかく、船が出港するようならすぐ知らせてくれ!』
『ん、わかった』
そんな『会話』を拓也くんとしている間に、誘拐犯達と共に、船の中の部屋に到着する。
◇
「俺だ。予定通り、連れてきた」
「入れ。早かったな」
バタン
部屋には、20代後半に見えるスーツ姿の男が座っていた。リアルのユリシーズさんよりは年上かな?
「ふむ、確かに。しかし、なるほどな…」
「俺達は、待ち構えていればいいか?」
「そうだな。あのふたりが来たら、丁重なおもてなしを」
「わかった」
バタン
「そこのソファに座ってくつろいでくれ。誘拐されて、くつろぐのも無理な話だろうが」
「…目的は、なに? 人質って言っていたけど」
「そう尋ねるということは、本当に知らないようだな、両親のことを」
「両親?」
両親…って、どっちの両親のことだろう?
「美奈子…と言ったな。お前は、両親のことをどれだけ知っている?」
「拓也くん…弟と一緒に、私達を小さい頃に引き取ったってことは」
「それは知っていたか…。そのきっかけとなった事件は?」
「わからない。両親も、知らないはず。調べてはいるみたいだけど」
というのは、拓也くんから聞いた話だ。あと、事件そのものについては、ユリシーズさんからも。
「我々にもわからん。だが、背景はわかっている」
「『我々』…?」
「そうだ、我々霧雨一族。数千年の間、世界を裏から支配してきた血脈」
「…」
「胡散臭いと思うのは当然だが、事実だ」
「はあ」
いやだって、ねえ。
「もちろん、世界中で『霧雨』を名乗っているわけではない。そうだな、英語圏では…『レインフォール』と名乗っている」
…なんですって?
◇
「あなた、あと10分もせずに機動隊が到着するみたいよ」
「なんということだ…。『フォークロア・コーポレーション』が、ここまで力を有していたとは」
「まずいわね。未だ『ミリアナ・レインフォール』の正体さえ、つかんでいないというのに」
「あの会社は底が知れん。いや、会社というより、『NPC制御システム』か」
「『現界』についてもガードが固くて、詳細がわからないし」
「美奈子はもちろん拓也にも我々の力が通用しない以上、無理はできないしな」
「とにかく、もう行きましょう? 警察が介入したら隠蔽が困難になるわ。私達はもちろん、一族の『宗家』にも」
「そうだな。それで、美奈子に知られることになっても…」
「あなた、美奈子ならわかってくれるわ。それに、あの娘の素性のことも」
「ああ。行こう」




