第41話 ハイエース
『あれ、雨だ。折り畳み傘、持ってたっけ?』
『置き傘なら。というか、こっちは降ってねえ』
『あら』
帰りのHRがそろそろ終わるかな、という頃に雨が降り出してきたので、拓也くんとそんな『会話』をする。いやあ、便利だ。便利過ぎる。
「ミナ、今、拓也くんと話をしてた?」
「うん。向こうは降ってないみたい」
「そっか」
『蒼瞳シンフォニア』の現界については、とりあえず前島さんには伝えた。ユリシーズさんを含むフォークロア・コーポレーション関係者とリナちゃんは、言わずとも知っているだろう。『ファラウェイ・ワールド・オンライン』内の現界絡みの現象は、ログから筒抜けだろうし。いまさら隠してもね。…ちょっと、恥ずかしいけど。
「霧雨さーん、たまには一緒に帰りましょ! …あれ? 指輪?」
「指輪!? あ、本当だ!」
「おお、まぶしい…」
「あ、う、うん。普段はつけてないけど、今日は、その」
目ざとい三人娘の皆様。ところで、たまにはって、年明け早々の昨日、一緒に帰りませんでしたっけ。
「ふーん…いいなあ、弟くん」
「え!? な、なんで、拓也くんのこと…!?」
「クリスマス・プレゼントでしょ? 中学生なのに、やるなあ」
「そ、そそそ、そーなのよ! もー、拓也くんったら、無理しちゃってー」
まあ、嘘ではない。大量のリナちゃん…じゃなかった、魔物をひーひー言いながら倒してたし。
「うわ、全くごまかす気がない反応。更に進化? 」
「いろいろな意味でカウントダウンが始まったか」
「これって、婚約指輪? それとも、結婚指輪?」
「言われると思った」
「ははは…」
前島さんは、力なく笑うばかり。三人娘との力関係がますます如実にって感じ。…といっても、まあ。
「でも、そっちこそ、昨日から同じストラップ」
「「「「うっ」」」」
いやいやいや、普通、すぐ気づくでしょ。4人のカバンについている、小さなクリスマスツリー。私の指輪より、よっぽど目立つよ?
「相変わらず、とっても仲がいいんだね。やっぱり、クリスマス・プレゼント?」
「い、いや、もともと交換するつもりがなかったんだけど、それでも何か記念に、と思って」
「れ、例年の集まりでギルマスん家でごはん食べて、それで、そんな話になって」
「駅前の100円ショップの、クリスマスセール品でごまかした…」
「みんな、優希様のようなお金持ちじゃないし…」
ふーん。ほー。へー。
「い、いいじゃないか! 高い物ばかりがプレゼントじゃないし!」
「普段から豪華なギルマスが、そんなこと言っても説得力ない」
「結局あたし達は、毎年優希様にタカるだけだし…」
「他のギルメンに叩かれても、文句言えない…」
「みんな…」
えーと、もしかして惚気ですか? ハーレムパーティの惚気とか初めて見たよ! 周囲もクラスメートも、どういう反応すればいいか困ってるし。特に、他の『新緑の騎士団』のギルメンのみなさん。もしかして、またギルド会議案件とかいうやつなのかな。私は関係ないけど。
「ま、まあ、安っぽいギルマスも似合うけど? これだから、イケメンは」
「美奈子様がいなかったら天下取れてたのに、とことんヘタレを極めるように」
「霧雨さんのことはサクッとスパッとあきらめて、一緒に眺めて過ごしましょ」
「キミ達、絶対ボクを貶してるでしょ? ねえ?」
うん、そろそろ砂吐きそうだし、放置して帰ろう。そうしよう。
◇
傘をちょっとくるくる回しながら、通学路を歩く。周りは住宅地で、人通りはほとんどない。
雨は、しとしとという感じだ。年初めなんだし、雪の方が良かっなあ。車の人とか大変そうだけど。
『今、どこだ?』
『もうすぐ、学校最寄りの駅かな』
『なんだ、まだそっちの市内か。下校帰りに駅まで迎えに行こうかと思ったのに』
『いいよー、そんな。迎えなら、お父さんやお母さんにお願い。傘持ってなかったはずだから』
『ああ、今日は早く帰るって言ってたな。ならさ、一緒に…』
キキキキキッ
突然、白くて大きな車がやってきて、私の目の前に停まる。こ、これは、まさか!?
どたどたどた
「なに…むぐっ!?」
「静かにしろ! ふっ、結構軽いな」
「よし、早く乗れ! 出すぞ!」
ぱさっ
ぽいっ
ブロロロロロロッ
おお…誘拐、されてしまった。しかも、運転席以外は中が見えないガラス仕様の、白いハイエース。なんというお約束。でも、ああ、あの傘、お気に入りだったのに。さっくり取られてしまった携帯端末と共に、そのまま捨てられた。手際がいいのは確かだ。
『…姉さん? 美奈子姉さん? 何かあったのか!?』
『あー…。うん、なんか、誘拐されたみたい。ハイエースでさらっと』
『なにぃ!? おい、前島の野郎は何してんだ!』
『いやいや、前島さんと一緒に誘拐されたわけじゃないし!』
『あたりめーだ! ったく、肝心な時には姉さんの側にいねえし! くそ!』
自宅が同じ市内だし、ここんとこよく一緒に帰ってたのは確かだけどね? 三人娘とも、だけど。
『はー、今は「現界」モードってわけじゃないしなあ。困った困った』
『何落ち着いてんだよ! 犯人達はどんなやつらだ!? 目的は!?』
『拓也くんの方こそ落ち着いて。運転手含めて三人だけど、私を連れ込んでからは何も喋らないのよ。三人ともサングラスにマスクで、人相とかもわからないし』
『何か手出されてないか!? あちこち触られるとか!』
『ないねえ。拓也くんから漂ってくるイメージほど、私は女として魅力的じゃないんじゃあないかな?』
『そんなわけあるかー! くそう、姉さん目当てのおかしな連中、ウチの市内ならさらわれる前に対処してたのに!』
『え、何それ、くわしく』
『今はどうでもいい!』
そういえば、前にユリシーズさんが似たようなこと言ってたよね。ホントになんなの、それ。
『でも、すぐ手を出さないってことは…「現界」絡みか? ミリアナの正体がバレてないとすると、こないだみたいに復讐目的で…』
『あの男は今頃、仲間と共に陸の孤島の施設で矯正中だって聞いたけど』
『なら、目的はなんだ…?』
『だから、様子を見るしかないんだよ』
車の外は見えないけど、もうずいぶんと直線的に走っている。学校の周辺一帯は、土曜日恒例の『現界』を転移込みであれこれ試すうちに、だいぶ詳しく頭に入っている。
とすると…海の方に向かってる?




