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求めるは世界の魔法  作者: 幸野仁
第1章
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シキ

前話投稿から1年以上更新出来ず、だんだん減る文字数。

わかってはおりましたが続けること、バラつかないことがいかに難しいのか痛感致します……。

「ここは…?」


 ゆっくりと瞼を開いた俺の眼前に広がるのは、ただ何もない白の景色。

 しかし次第に薄ボンヤリと、何もなかった白い空間に茶色と緑色が混ざり始めたことによって本当に何もない空間にいるわけではない事を認識する。

 どうやら長い間閉じていた目が、周囲の空間に広がる(キラメ)きに順応出来ず真っ白く見えていただけのようだ。


 視覚を含むすべての感覚が次第に明瞭になっていくにつれて、自分のいる場所がどの様な場所なのか、朧げながらも徐々に理解できるようになってきた。


 まず最初に目に移った緑と茶の色は、回復した視界の7割を覆うほどの大きな一本の木。

 いやただの木と称するには大きすぎるその木は、視線を軽く上に向けたところで更にその全容が分からなくなる程に巨大であった。

 一体この大きさまで成長するにはどれくらいの時間が必要だったのか、想像もできない。


 次に自らの体の状態だ。

 意識がはっきりしてくると、気絶する直前に起こったことを思い出しゴブリンの矢が掠めた脇腹を見ようと首をひねろうとし、やめる。

 というよりもそこまでうまく首が回らなかった。


 幸いにも体から痛みはなく、全身から感じるのは暖かいような冷たいような水の感触。

 どうやら理由は不明だが、俺の体の大半は水の中にあるようだ。


 目の前のあの大樹を覆う泉のような場所の(ホトリ)に寝そべるような態勢で横たわっている。


 「ここは一体どこなんだ……?俺はゴブリンの毒によって森の中で倒れてしまったはずだ。」


 『ようやく目が覚めたか。人の子よ。』

 その時、どこからか声が聞こえた。

 耳のすぐ傍で囁かれているようにも、この泉全体に広がり響くようにも聞こえるその声に、不気味さはなく、ただ穏やかな川のせせらぎの中で微睡んでいるような不思議な感覚を覚えた。


 そのままの態勢では広がる大樹の葉が見えるのみだった為に、声の主を探すべく緩やかに戻りつつある全身の筋力を総動員して上体を起こし辺りを見回してみる。

 すると丁度大樹の根元付近に淡く輝く小さな光を見つけ、目を凝らしてみると、そこにいたのは12~13歳程の少女。

 しかしその表情にあどけなさはなく、凛とした雰囲気すら感じられた。

 薄い緑とも蒼ともとれるようなその髪と、同じ色に輝く瞳。

 白く透き通るような白磁の肌に飾り気がない白の服を身に着けている。

 彼女が身にまとっている服は袖が無く、丈は少し短め、(クルブシ)から膝までのちょうど中間といったところだ。


 少女は俺の顔をみるとやや楽し気に頬を綻ばせている。

 『あぁ、急に驚かせてしまったか。私の名前はシキ。この森の始まりの生命にして管理者だ。お前の名は何という?まさか名無しというわけではあるまい。』

 そんな事を言いながら、少し地面から浮いている彼女はふよふよと漂うように泉に触れることなくこちらへ近づいてくる。


 「俺の名前はアラン・フォード。ここは一体どこなんだ?君は何者なんだ?俺の怪我は君が治してくれたのか?」

 自分の体の状態、彼女の落ち着いた声音からひとまず助かったのだという事は理解したが、どうにも状況がわからない。


 『ははっ!そう急ぐな。不安がらずとも私はお前に危害を加えるつもりもないし、知りたいことは教えてやろう。』

 快活に笑う彼女に安堵しつつ、もう一度言葉を紡ぐ。


 「よくわからない状況に取り乱してしまった。まず一番知りたいことはそうだった、ソフィーはどこに行ったんだ?俺の愛馬なんだが……」

 『ほう。なんだかんだといっても最初に聞きたいのは相棒の安否か。おいソフィア、良かったな。お前の主人はどうやら恩知らずではないらしい。』


 その言葉に反応するように俺の背後から小さく嘶く(イナナク)馬の鳴き声が聞こえてくると同時に、耳元を伝う水を舌でなめ取られる

 「そこにいたのか……。お前も無事でよかった。」


 『アランよ、ソフィアに感謝するのだな。彼女が私にお前を助けて欲しいと必死に願わなければ、お前は今頃森の中で毒にやられ野垂れ死んでいたであろう。』

 「ソフィーが?シキ、君はソフィーの言葉がわかるのか?君は一体何者なんだ……」

 そういえば、彼女は自らを紹介する際にこの森の”始まりの生命にして管理者”と言っていた。あれはどういうことだったのか。


 『お前もずいぶん回復してきたようだからな、そのあたりも含めて順を追って話してやろう。なに、そんな顔をせずとも聞けばわかるよ。』


 『お前もこの森の事は知っているだろう?ここはこの世界の最古の森であり人がシキの森と呼ぶ場所だ。

そしてお前が見ているこの大樹こそがこの森のすべての親木であり魔の力が寄り添う場所。


 そしてお前の浸かっている泉はこの木から溢れる魔力によって生命を育み森を育てる。お前の負っていた傷もその生命を育む力によって癒されているところだ。


 私は自身の事を先ほど始まりの生命と言ったが、正確にはこの木と私が始まりの生命といったところだな。簡単にいえば、俗にいう双子のようなものだ。


 私はこの木が生まれると同時にこの世に生を受けこの木の成長を見守る事となった。』


 そこまで流されるように黙って聞いていたが限界だ。口を挟まずにいられない!


 「いやいや!ちょと待ってくれ!この森で最初に生まれた木とそれを守護するだって?それだと過去誰も発見出来なかった大樹がその大きな木で、君は神精(シンセイ)シキということか!?」


 『ふむ。人は名を付けるのが好きだな。君のその質問に答えるならば間違いもあるがその通りだ。

もっとも神ではないが人でいうところの高位の精霊に近い存在であるのは確かだろう。そして間違いは誰も発見できなかったという部分だな。その辺りも話してやるからけが人はもう少し大人しくしていろ。』


 再びさらっと衝撃的な言葉が出てきたが、泉の力で回復してきたとはいえけが人なのは間違いない。話してくれると言うのだから質問は後でまとめて聞こう。

 もっとも、その前に頭の中が聞きたい事だらけで参ってしまうかもしれないが…。


 『コホン。では私の生まれの続きだったな。

 そもそもこの木が出来たのには理由がある。この星には遥か昔から魔力が網目のようにを流れている。その中で幾つかの箇所にはどうしても魔力のうねり、とでも呼ぶべきか、吹き溜まりの様になる箇所が存在する。


 その様な場所はどうしても魔力が集中しすぎ力の流れが不安定になる。不安定になった魔力は行き場を求めて突然吹きだす事がある。そうやって吹きだした魔力は周囲の生命を傷つけ環境を破壊する。実際にその為に大昔から未だに生命が生息するには余りにもつらく厳しい場所も存在するのだ。

 そして、その様子を見た”神”と呼ばれる存在がある時世界各地にある魔力の吹き溜まりに力ある者と、力を管理し必要に応じて外に流す役割を作った。


 その中の一つがこの場所であり、その魔力を放出する役割を持ったものがこの木であり、私は支え見守る役割を与えられた。

 そして私にはもう一つ、この場所を悪意をもった外敵から守るため、守護者としての役割を与えられたのがこの私だ。

 外部からの侵入者、悪意ある者をこの場所に近づけないため、私にはあらゆる生命と対話する能力が存在する。ソフィアの言葉がわかるのもこれが理由だな。


 名前についてはな、もともと私にもなかったのだが、この森に入ってくる人々がいつからかこの森をシキの森と呼ぶようになったのでひとまず便宜上シキを名乗った事があるだけなのだ。


 そうだ、お前は不自然に思ったことはないか?この森の周囲一帯の草原には魔物が少ないく、いたとしても弱い個体が多いのに比べ、この森の生物が強力な理由を。


 これにも歴とした理由があるのさ。

 すべての生き物が生きていくには多少なりとも魔力が必要な事は知っているだろう。魔術を持たぬ草木にも、な。

 シキの大樹から放出される魔力のおかげで空気中の魔力が濃く豊富なこの森は、ほかの場所に比べ比較的生命が豊かで強力だ。

 少々木を伐採したところですぐに新たな木は生えるし、そもそも強い魔力を持ったこの森の木はそうそう切り倒せはせん。


 そして体の大部を魔力の運用によって成立させている魔物も、やはり魔力を求めてこの森へ流れてくる。そしてこの森を自らの縄張りとして生きるのだ。

 魔力の濃い場所に長くいるという事はそれだけで非常に大変な事。

 魔物の中でも、もともとの力が弱く森の濃い魔力に適応できなかった物どもは、濃い魔力にあてられ肉体も精神も徐々にけずられ、やがてここでの生活に耐えられず外に帰っていく。


だから、この森の魔物は強く強靭であり、その割に森の周囲の魔物は弱いものがおおいのさ。』


 なるほど。森の魔物が強力な理由にはそういうことがあったのか。

 そういえばその中の一つと言っていたな。他にも何か所かこのような場所はがあるのだろう。


 『ちなみに、人間でも同じ事が言える。とは言っていも数日で体に異常をきたすほどではない。大抵強力な魔物から逃げるため早々に出ていくから知っている人間も多くはないがな。』


 『次にお前も気になっているであろう以前ここを訪れたものの話だ。


 この森はな、人であろうと魔物であろうとあらゆる種族が行き来する場所だ。だが、魔力のうねりの中心地であるこの場所に悪意ある者を近づけるわけにはいかない。悪用されるとそれこそ世界が転覆する恐れすらあるからな。

 だから、このうねりから湧き出す魔力を私が流用する形で結果を張り、この場所に外敵が侵入できぬよう普段は厳重に閉じているのだ。だからここには基本的には誰も入れん。


 私は普段結界の外に出る事はないが、この森の管理者である故この森で起こった事のすべてを知っている。

 ある時森の中に一人の人間が迷い込んで来たのだ。その人間はひどく傷ついていたよ。

至る所から血を流しもうほとんど死にかけであった。


 今に死にそうなやつなんてしょっちゅう見るがな、未だに自分でも理解できないが何故か私はその人間をこの結界に招きその傷ついた体を癒してやった。

 その人間からは悪意を感じ取れんかったし、何より長い年月森の中で誰と話すでもなく生きていたから退屈を感じていたというところだろうな。


 ともかく私は、泉によって傷が癒えたその人間と久方ぶりの対話をした。』


 そう話す幻の存在、存在すらも知られていないはずの神精シキはどこか懐かしむように話しを続ける。

 何だかこうして話しているのがすごく不思議だ。


 『その人間は丁度お前が来たと方向は反対側からやって来た。どうやら大陸中を旅しておるところ、夜盗に襲われ命からがら逃れているところに偶然この森を見つけて入って来たらしい。


 今でもそうだが、強力な魔物の群れを避け当時ほとんど人が訪れる事もなかったこの地に、わざわざひとりでやってくるなんて自殺行為もいいところだ。

 何故そのような状況に陥りながらも、そんな危険にさらされながらも旅をしているのか、私には理解が出来なかった。


 旅の訳を訪ねたら、その人間 ”世界の理を司る法” を探しているなどと夢のような事を言っておった。

 呪われ目を覚まさなくなった恋人を助けたいと。』


 …………!

 呪いで目を覚まさない……!?

 それじゃあ、まるで俺と同じじゃないか。


 『なんだ、お前随分面白い顔しておるぞ。

 あぁ、そういえばお前もまた、呪われた妹を救うため旅しているんだったな。』

 「なんでそんな事知ってるんだ……?」

 『そんなあからさまに不審そうにするな。お前が寝ている間にソフィアから聞いたのよ。』


 ソフィアは結構おしゃべりなのか?

 いや話している事自体はいいんだ。シキは命の恩神?でもある訳だし、そもそも神に近い存在だ。俺の心が読めても不思議じゃない。

 ただ、俺にはソフィアの言葉はわからないからな。俺の事なんて言っているのか……。気になる。

 いやいやいやそうじゃなくて!


 「なあシキ。その人がその後どうなったか知っているか?

 例えば森を出たその人がその後どこに向かうかだけでも。俺も妹を助ける為どうしても知りたいんだ!!」


 そういうと、シキは若干申し訳なさそうな顔をし、答える。


 『いや、私はその人間のその後を知らないんだ。私が知っている事なんてせいぜいこの森の中で聞いた事のみ。その人間がその後どうしたとか呪われて目を覚まさなくなった人々の話なんて誰もしてはいなかったからな。力になれんくてすまん。

 方角だけで言うならひとまず来た道を大きく周るようにして戻っていったからあちらかな。』

 

 そう言って指で道を指示してくれるシキ。

 それでもあまり力になれなかったと彼女からすれば圧倒的に小さな俺のような存在に、心から申し訳なさそうに頭を下げる姿はなんとも人間味がある。

 人とかかわる事がほとんど無かっただけで、動物にも好かれているようだし、すごく優しい性格なんだろう。


 「謝らないでくれ。もともと何の手がかりもなく始めた旅。開始早々に瀕死の重傷を負った俺を救ってくれたばかりか、君は光を与えてくれた。今更だが本当に感謝しているよ。」


 そう伝えると彼女はそれでも若干申し訳なさそうな顔をしながらもうなずき、続ける。

 

 『アランよ。お前が妹を助けたい気持ちは十分に伝わった。だが、悪い事は言わないからその”世界魔法”とやらを追いかけるのはやめた方がいい。』

 「なぜだ?確かに”世界の理を司る魔法”なんて大層な物に頼らない方がいいのは何となくわかるよ。誰も知らないし、理を司るなんていかにも危なそうな感じはする。だけど、フランを助けるためにはどうしても探さなくてはいけないんだ。」


 段々と語気を強める俺に怯まず、尚もシキは言葉を続ける。


 『そうだな。私自身”世界魔法”とやらの事は知らん。私は人と比べて長生きである事は間違いないが、私の知っている事なんてせいぜいこの森の中で起こった事だけ。だが、はっきり何とは言われんが何故だかその名を聞くと嫌な予感がするのだ。お前も察している通り、きっと危険な魔法である事に違いはない。すべての魔術には発動に必ず代償がある。普通であれば体内の魔力や体力といったものが消費されるだけだが、世界の理をいじる様な術であれば何が起こるかわからん。』

 そう。それは俺もずっと思っていた。それでも……。


 「それでもシキ、フランを助ける為にそれしか方法が無いのであれば俺はきっとその魔法を探しだしてみせる。そしてもう一度、フランに元気な姿を見せて欲しいんだ。それに何より、今まで俺がフランにしてあげられた事なんて極僅かで、逆に俺はフランにずっと支えられてきた。いつまでも助けられてばっかりの兄貴何てカッコ悪いだろ?」

 

 そう語る俺の言葉の一言一言をしっかりと聞き取り、やがてシキはその顔を手のかかる弟を見る様に柔らかく微笑みに変える。

 

 『あの時、あの男も似たような事を言っていたよ。お前の決意は十分に伝わった。だが、それでも私がその術を探すお前を止める気持ちは変わらん。少しでも、こうして縁を結んだものが不幸になるのは気持ち良い物ではない。だから、この先もそれを求めるのであれば気を付けろ。お前の身を案じるものがここにもいるという事を決して忘れないでくれ。』


 『それではアランよ、お前はその体の傷が癒えた後ここを出ていくのだろう?本来はあまりよくない事なのだろうが、私としてもこうして久方ぶりに人と縁を持てたのだ。せっかくの機会だから外の世界の事を教えてくれないか?』

 先ほどまでの凛々しく寒気すら覚えるような彼女の表情は一変し、見た目相応のなんとも可愛らしい笑顔でそう告げるシキ。

 

 この後俺は体の傷が癒えるまで、街や人々の様子、この森や彼女がクラフトに生きる人々にとってどの様な存在であるか。

そんな他愛ない話を彼女に請われるままに続けていくのだった。


 本来なら一生かかっても会える可能性が万に一つもない神精と、この世界の生ける伝説と対話しているなんて誰が想像できるだろう。そもそも神精シキが本当に存在するなんて、研究者に伝えたら卒倒もんだろう。

(そんな気はないが、まぁ誰かに告げたところで信じてくれる人なんていないだろうけどな…。)


ここまでお読み頂いた全ての方に感謝を。

今後もお付き合い頂けますと幸いです。

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