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第二話「”狼”の名を与えられし子狼」

 家に入る前にお父さんが僕の事を呼び止める。

「言い忘れてたけど三階の部屋を選ぶんだぞ。それと、リルを連れて行きなさい」

「はーい。おいでリル」

「ウォウッ」

 名前を呼ぶと、今まで寝ていたリルが目を覚まし走ってきた。

 全身を真っ黒な毛が覆った小さな生き物は、一見すると子犬に見えるが、リルは子犬ではなく狼なのだ。まだ生まれて二年しか経っていない子狼だ。

 二年前、お父さんが家に連れて来た。

 何でも、友人と遊びに行った先で狼の群れを見た時、一匹だけお父さん達の下まで歩み寄って来たのだ。様子が変だと思ったお父さんが、その狼の後を付けて行くと巣にたどり着き、中に赤ちゃんの狼がいたらしい。

 しかし、五匹いるうちの四匹が死んでいて、生き残っていた一匹も死ぬ寸前だった。

 お父さんはその狼を抱いて、親の狼の方を振り返った時、そこには親の狼の姿はどこにも見当たらなかった。

 その代りに、大量の血が親の狼がいた場所にあったそうだ。

 そういう経緯があって、お父さんは一人ぼっちになった子狼を引き取った。

 そうして連れてきた子狼に、僕は何を考えどう思ったのか分からないが、北欧神話に登場する狼、『フェンリル』からちなんで『リル』という名前を付けたのだ。


 お父さんに手を振り、僕は玄関を潜って一気に階段を上る。

 階段を上りきると左右に廊下が分かれており、どちらに曲がってもまた左右に廊下が分かれていて、左に曲がると、右に曲がるより廊下の長さは短い。ちょうどアルファベットのHのような形をこの家はしている。

 ただ一階だけは少し他の階と違う造りになっている。食堂と浴場、その他の部屋は別棟にあり一階から渡り廊下を歩いて行かなければならない。

 部屋は中庭向きにあり、中庭を全て見渡すことが出来る。

 廊下側の窓からは太陽の光が差し込み、内装の色が薄暗い廊下を明るく照らしている。所々には高そうな彫刻や瓶、絵画といった物が飾られている。

 僕は最初に右へ曲がり、次に左へ曲がって一番奥の部屋へ行き扉を開ける。

 部屋の広さは二十畳ほど。子供の部屋にしては広すぎる程だ。中にはまだ家具が入っておらず、中はがらんとしている。

「よし。ここにしよっと」

 持ってきたカバンを置き、中からリルと遊ぶ用のオモチャをいくつか取り出す。

「いくよリル、この家を探検だ」

「ウォン」

 部屋から飛び出した僕は、リルを連れてこれから住む家の探検へと出発した。


「つっかれた~」

「クゥ~ン」

 リルと一緒に中庭の草むらに倒れ込む。

 部屋を出てから僕は、リルと一緒に家を探検した。探検と言っても、家の中を歩き回って何があるのかを見て回っただけだ。

 業者の人の邪魔をしないようにとお父さんに言われていたが、何回か邪魔をしてしまったし、静かにしなさいと何回もお母さんに怒られたりもした。

 そうして一通り見終わったので、中庭で休憩することにしたのだ。

「リル、楽しかったね」

「ウォン」

「はは、そうか。リルも楽しかったか」

 体を撫でてやると、リルは気持ちよさそうに目を細めそのまま眠ってしまった。

 リルはまだ子供なので、そんなに長く活動していられない。ましてやさっきみたいにはしゃいだりなんかしたら、あっという間にリルは疲れて眠ってしまう。

 これは、生まれた時の影響だとお父さんは言っていた。

 生まれた時は殆ど死んでいたも同然だったリルは、奇跡的に死なずに済んだ。だが、生まれて直ぐ極寒の地に弱った体でいたので、その後遺症として長い間活動出来ないのだそうだ。

 リルが寝てからしばらく僕は空を眺めていた。


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