第一話「始まりの生活」
初夏に入ってまだ間もない頃。
僕は山奥に新しく買ったという別荘に遊びに来ていた。
遊びに来ていたというのは建前で、本当は僕の体が生まれつき弱く、六歳の誕生日を迎えたころになって症状が悪化したので、療養をしに来たのだ。
医者によると、しばらくの間、空気の綺麗な所で過ごしていれば、時期に治るでしょうとのことだ。
「ほら桜華、御覧。あれがこれから私たちが住む家よ」
馬車に揺られながらお母さんの指す方向を見ると、そこには壁全体が真っ白で、この国の造りではない、別の国の造りの大きな家があった。
「あの真っ白いお家?」
「ええ、そうよ」
お母さんの膝の上でお菓子を食べながらまだ少し先から見える家を眺める。
ここから見るだけでも、家の造りがこの国の造りでないのはわかった。壁の材料は何か分からないが木造ではない。
それに、窓が全て規則正しく等間隔で設置されていた。
それから少しして、車が家の門の前で停車した。
膝の上で寝ているペットをそっと下ろして、お母さんの膝の上から飛び降り、大きな門を見上げる。
大きな、本当に大きな門。
家の正面側の塀と一体化した真っ白な門は、縦、横、斜めと鉄格子が交差し、僕の頭ほどある南京錠で閉められている。
業者の人がその南京錠の鍵を開け、車に乗せていた家具類を運び込んでいった。
「桜華、自分の部屋を選んでおいで。部屋の鍵は全部開いているはずだから」
自分の荷物を出している時に、お父さんが話しかけてきた。
「はーい。ねえ、部屋を選び終わったら家の中を探検してもいい?」
「業者の人の邪魔にならないならね」
「やった♪」
お父さんからの許しを得た僕は、荷物を持って駆けだした。
主人公の年齢を少し変更しました。それにともない、プロローグの年数も少し変更しました。