60_親離れ?
「坊っちゃま、騙し討ちなんぞ卑怯ですぞ」
「……マリ様の気持ちを置き去りで、こんなことをする人だったんですね。幻滅です」
エリックの部屋の入り口で事のなりゆきを見守っていたセバスチャンさんとサラさんは、そう言葉にしていた。
「坊っちゃま、このことは旦那様にご報告させていただきます」
セバスチャンさんは右手で顔をおおい、ため息一つ溢して去って行った。
「私は皆にお坊ちゃんが卑怯な手をつかってマリ様との婚約を勝ち取ったことを伝えてきます」
サラさんはそう言ってセバスチャンさんに続いて去って行った。
「……ルーパパ、セバスチャンさん達がいた場所も魔法範囲内?」
私は首をかしげルーパパに質問した。
「あぁ、片足だろうがこの部屋に踏み入っていればな」
「心の底から幻滅されて、おめでとう」
私はエリックの背中をポンと軽く叩き、満面の笑みを浮かべて言った。届け、私の嫌味!
「こんな手段に出た私を、マリも幻滅するか?」
「……私の気持ちを待ってくれないことには残念に思ったよ。ただ、」
「ただ?」
「エリックはいつでも私を第一に考えてくれていたし。抱き締められても嫌悪感がなかったことが答えだったのかもね」
「……マリっ!!!!」
エリックは私に抱きつき、勢い余って私を押し倒す形となった。
「クソガキ!マリから離れろっ!!」
ルーパパが指を鳴らすとエリックが吹っ飛ばされて、壁に背中を打ち付けた。
「エリック!?」
私は直ぐに身体を起こし、エリックの側に近寄った。
もともと私達が居た場所が壁際だったことが不幸中の幸いだったと思う。そこまで衝撃が強くなかったのだろう。エリックは直ぐに身体を起こし立ち上がった。
「娘をとられる父親の胸中、お察ししますよ」
「ならマリを私に返せ」
このままだと嫌味の応酬第2ラウンドが始まると思った私は、ルーパパに駆け寄った。
「心配してくれてありがとうございます。今はエリックと話し合いたいので、何かあったらルーパパに連絡しますね」
ルーパパは「はぁ」と深いため息をつき、もう一度指をパチンと鳴らした。
「これが親離れか……。マリ、何かあったらいつでも私を呼びなさい」
と、私の頭に手を軽くポンとのせたあと、エリックを睨み付け「……手を出したらわかっておるな?」と牽制をした。
「結婚するまでは清いままでいますよ」
「当たり前だっ!!」
ルーパパは「この部屋の魔法は解いた。本当に何かあったら、なくとも私を呼べ」と私のピアスに触れた。最後にエリックに「クソガキ」と言ってからルーパパはその場から消えた。
いざ二人きりになると、なんだか照れくさい感情が沸き上がってきた。経緯はともかく、エリックと結婚の約束をしたことになる。今までのように、エリックの身体的接触を普通に受け入れる自信がなくなっていた。
「マリ」
エリックに呼ばれ、私は振り向いた。
「ゆっくり話がしたいがここでは落ち着かないだろう」
回りを見渡すと物が散乱した状態だ。
「応接室でゆっくり話そう」
エリックはそう言って私の隣にたち、いつものように腰に手を回そうとした。が、私はなんだか恥ずかしくなってエリックから離れる。
「マリ?」
急に無言で離れた私に対し、訝しげな声をエリックはあげた。しかし、うつむいた私の耳が赤かったのだろう。エリックは何かを察して私に左腕を差し出してきた。
「マリから私に触れる方が恥じらいは少ないだろう?
それとも、私からマリに触れてもいいか?」
耳元でそう囁かれ、慌ててエリックが差し出した左腕に自分の右腕を絡ませる。
「足元に気をつけて」
私とエリックは荒れた部屋から応接室へと向かった。




