61_次の人生も
特に会話もなく応接室についた。室内に入室するといつもは解放したままだった扉を、ほんの数センチだけの解放を残しエリックは扉を閉めた。
驚いた私はエリックをまじまじと見た。それに気づいたエリックは「閉めきってはいないから安心してくれ。大丈夫。まだ手は出さない」と爽やかに言った。
エリックに促されソファーに座った。エリックは私の右隣に座ったが、私とエリックの間に全然隙間がなかったため、私は人1人分横に移動し、エリックとの間に空間をつくった。
そんな私を見たエリックは無理にその空間を埋めようとはせずに苦笑いだけしてみせた。
最初に口を開いたのはエリックだった。
「本当はこんなに急ぐつもりはなかったんだ。だが、魔塔主が『嘘偽りは赦さない。不埒な貴様をマリから引き離す』などと魔法を展開するものだから。
そんななかマリが現れたら、私の中の黒いヤツが"マリを私のモノにするチャンス"だと囁いてね。騙し討ちのような形で申し訳ない。
嘘がつけない状況で、あんな言葉を投げ掛けておいてなんだが、マリが私を選んでくれて嬉しい。
ありがとう。一生……いや、次の人生でもマリと出会ってマリを大切にするよ」
エリックは身体を私の方に向け、私の膝に置いてある両手に自身の左手を重ねてきた。
「次の人生って……私は覚えていても、エリックは覚えていないよ」
エリックの気持ちは嬉しい。けれど、次の人生があるかなんて誰にもわからない。もし、もしもあったとしても、同じ時代に同じ世界に生まれる保証もないのだ。ましてや、前の人生の記憶など、本来は無い方がいいに決まっている。
「だからの魔法契約だ。魔法契約は魂で縛られる」
エリックはおもむろにシャツのボタンを外し、上半身を露にしようとした。
私は「なにしてるのっ!」の両手で顔を覆いつつ、目の箇所は指と指の隙間をあけて視界をしっかり確保していた。
上半身が全て露になり、私は息をのんだ。エリックの心臓のあたりに拳一つ分の大きさの魔法陣が画かれていたのだ。
「マリにも私と同じ箇所に対になっている陣があるはずだ。
これで次の人生でもマリを探せる。考えたくはないが、万が一私の記憶がもちこせなくとも、マリが私を探しやすくはなるだろう?」
「━━━━なんでそこまで……」
"なんでそこまでしてくれるの?"そう言葉にしたかったのに、最後まで言葉にすることができなかった。
それなのにエリックは私が何を言いたいのか察してくれたようだった。
「私がマリを愛しているから」
「……だからって、次の人生も私に捧げるの?
もしエリックに他に好きな人ができるかもしれない。
もし、次の私の見た目がみるも耐えないほど醜かったら?
もし、お互い同じ性別だったら?
もし、親子くらいに年が離れていたら?
もしっ!」
ここでエリックに抱き締められた。
「全てを愛せる自信しかない。
安心して私に寄りかかって生きてくれ」
「……頭が不毛な大地になった小デブなオッサンな私でも愛せる?」
「……もちろん、努力はする」
私は笑った。返答が遅いところは素直だな。
「私もそうならないように努力するね」
エリックは「では、これからのことを話合おう」と私から身体を離した。




