56_エリックの暴走
「私の好みか?
そうだな。心の中に大きな不安を抱えているのに、それを悟らせないような芯をもった女性だ。精神年齢は実年齢より大人びて見えるが、笑った顔は可愛らしく年相応に見える」
私は「ほうほう」と頷きながらエリックの好みの女性のタイプを聞いていた。エリックは止まらずに続ける。
「体型の維持のために身体を鍛えているし、でもそのくせ甘いお菓子は好きで」
私はまだ「それで?」と聞いていた。
「知識が豊富で新しい遊び道具を作ったり」
「ふむ?」
私はこのあたりで違和感があった。しかし、エリックは続ける。
「魔道具という素敵なものを制作したり」
「むむむ???」
エリックは右手で私の左頬を撫ではじめた。
「私的にはアピールしているつもりなのに、それに気付かない目の前にいる子が、私の好みのタイプな女性だよ」
エリックは優しく私に微笑んだ。
「……ぇ」
私の思考回路はいったんストップした。いや、考えることを放棄したといっても過言ではない。
驚いて固まって動かない私の左手をとって、エリックは自分の口元に運ぶ。私はただその光景を見ていることしか出来なかった。が、私の意識は痛みで引き戻されることになった。
「いたっ」
左手の薬指の付け根に鈍い痛みが走ったのだ。思わず左手を引っ込めようと引っ張るが、エリックによって阻まれた。
エリックに噛まれたのだと理解した時には、今度は薬指の付け根に唇を落とされていた。
「……エリック、何をしてるの?痛いし手を離してよ」
「本当は指輪を送りたかったんだが、魔道具の制作の邪魔になるかと思って遠慮したんだ」
私は未だに左手を引っ張っているが、エリックが掴んで離さない。
「マリはどんどん美しくなっていくし、それなのに未だに出て行くとかほざくし……。
私を1人の男としてみて貰うためには、私を意識して貰うしかないよな?マリ」
エリックはそう言って、再び私の左手の薬指の付け根に唇を落とした。
目の前の男は本当にエリックなのか!?急激な変化に私は戸惑う。
「……とりあえず、手を離して」
エリックは素直に私の左手を離してくれた。左手を見ると、薬指の付け根は赤くなっているだけだった。よかった、歯形とかつくほど強く噛まれていなくて。
私は隙間なく並んで座っているエリックから少し離れたが、その分エリックは詰めてくる。私は慌ててソファーから立ち上がり向かいのソファーに移ろうとしたが、エリックに腰を抱かれて立ち上がることを阻まれた。
私はエリックを睨み付ける。
「……噛まれるのは痛いから嫌だ。そもそも噛むな。そして私を離せ。私は向かいのソファーに座るから、離れてから冷静に話し合おう」
エリックは「このままでも話せるぞ」と言ってきたので、無言で右手をピアスに持っていくと、「魔塔主は呼ばないでくれ」と両手を軽くあげ降参ポーズをとり、私を解放してくれた。
私は今のうちだ!と立ち上がり、向かいのソファーに座った。




