52_相変わらず近い距離
今日、エリックが別荘に帰ってくる日だが、セバスチャンさんからエリックは本邸に寄ってからくるから今日の到着は昼過ぎになると朝食時に聞かされた。エリックが到着したら知らせるから、私は自分の好きなように過ごしていて下さいとも言われた。
もともとエリックが帰ってくる日だったため、セバスチャンさんの勉強会は無い予定で、急に予定がなくなってしまった私は何をして過ごそうか考えた結果、優雅に二度寝を決め込むことにした。
普段は勉強会や魔道具等の制作、趣味の創作や先人達が遺してくれた書物の翻訳、最近はルーパパと一緒に私のような者が現れた時の対応をどうするか決め、それを各国の魔法使い代表を通じて国の偉い人に周知してもらったりと、なかなかに忙しい日々を過ごしていた。各国に周知してもらった際、古代語で書かれた書物があれば魔塔に知らせるようにとも通達したところ、新たな書物が各国から魔塔に献上されたため、私の翻訳は多忙を極めていた。
そのため、二度寝なんて贅沢なことは最近出来ずにいた。
まぁ、各国への周知はルーパパというか、ルーパパ付きのガイナスさんが表立って頑張ってくれたのだけれど。
そうと決まれば私は急いで部屋に戻り、ワンピースタイプの寝巻きに着替え、ベッドに横になった。ふかふかの布団に包まれた私は幸せな気持ちで眠りについた。
「マリ様、そろそろお坊ちゃんが到着されますよ」と、サラさんの声で私は起きた。早馬が先にエリックの到着を知らせにきてくれたみたいだった。
サラさんに今はいつ頃か確認したら、まだ昼前だった。
サラさんに手伝ってもらい着替えをして、エリックを出迎えるべく玄関ホールへ向かう。そこにはすでに別荘の主人の帰宅を迎えるべくセバスチャンさんが待機していた。
私はセバスチャンさんと一緒に外に出た。時間にして10分は経っていないと思う。先頭の護衛たちが見えたと思ったら、エリックが乗っている馬車が見えた。
土煙をあげ別荘に向かってくる馬車が別荘の前に到着すると、セバスチャンさんが扉をあけた。すると中からエリックが降りてきて、セバスチャンさんに手荷物を預けた。
私はエリックの側まで近づき「エリック、おかえりなさい」と言うと、「ただいま、マリ」と私の頭を優しく撫でてくれた。
「マリ、寝癖がついているぞ」
エリックは笑いながら執拗に私の頭を撫でるため、おそらくそこに寝癖がついているのだろう。
私はエリックから離れ、自分の右手で寝癖があろう箇所を抑え「……ちょっと仮眠をとっていました」と言い訳をした。
「仮眠をとらないといけないほど夜も寝ずに作業をしていたのか?」
「そんなことはないよ。長旅で疲れたでしょ?ゆっくり休んで」
エリックの説教モード突入を回避すべく、私はエリックの後ろに回り背中を押して別荘の中へと誘導する。
「マリ、押さなくとも私は歩けるよ。それよりマリの顔をじっくり見たいのだが」
「私の顔なんて見ても楽しくないよ。さぁ!早く座って休もう!」
さぁさぁ早く早くと私が急かし、別荘の中に入った。
「一度部屋に戻るよね?」
私が背後から声をかけると、エリックは急に180度方向転換をし私の方を向いた。驚いて「わっ」と声をあげるがエリックに正面から抱き止められた。
「あぁ、やっとでマリに会えた」
「エリック苦しい」
「頼む、マリ成分を補充させてくれ」
エリックはそう言うと私の肩に頭を埋めてスーハーと匂いを嗅ぎ始めた。言い方もやっていることも変態っぽいぞ、エリックさん!!
私はそんなエリックから逃れるべく「エリック、とりあえず移動しようっ!ここ玄関ホール!」と言った。するとエリックは私から少しだけ身体をはなした。しかし、エリックの両腕はまだ私をホールドしたままだ。
後ろから「ゥエッホン!」とセバスチャンさんの咳払いが聞こえた。エリックはそちらをチラリと一瞥をし、「そうだな、続きは二人きりになってから存分に補充させてもらおう。一度私は部屋に戻って着替えをしてくる。マリは先に行っていてくれ」と、私を解放してくれた。
セバスチャンさんが「坊っちゃま、行きますぞ」とエリックに声をかけた。
「マリ、また後で。直ぐに行くから」
と、エリックはセバスチャンさんを連れ立って自室へ向かって歩きだした。
私も応接室で待っていようと歩きだした。




