25_救世主
まさしくエリック父の登場は、救世主が現れたかと思った。エリック父の後ろには、サラさんたちが着ているメイド服と若干デザインが異なるメイド服を着た、茶色い髪をお団子にしたメイドさんが立っていた。こちらのメイド服はキャラメル色で、裾にはさりげなくレースが使用されていた。うん、このメイド服も素敵だ。
「エルザ……」
お嬢様がエリック父の後ろにいるメイドに声をかけた。きっと、お嬢様つきのメイドで、そのメイドすらも巻いてこの別荘にきたのだろう。
エルザと呼ばれたメイドは涙目になり、声を震わせながら「お嬢様ぁ、私を置いて行くとは酷いですぅ。探したんですよぉ」とポロポロ涙を溢しはじめた。それもそうだ。自分が仕えるべき人がいきなり姿を消したら焦るだろう。なにが変なことに巻き込まれていないかとか、そうなったら仕えるべき人から目を離した自分を責めるだろう。お嬢様は貴族だろうに、その辺を理解していないのだ。なにかあったらお嬢様つきのメイドが罰せられるのに。ここで私は、お嬢様をただの癇癪もちの我が儘娘と認定した。
エリック父が口を開く。
「もう分別のつく年齢だろう?自分の行動がどう影響するのかを考えて行動しないといけないよ。昨日の唐突な訪問は目をつむったが、今日の行動はダメだ。我が屋敷の警備たちも、エリザベスつきのメイドも、エリザベスを見逃したことで罰せられたかもしれないのだよ」
「私はそんなつもりはっ!」
「君になくとも、君の立場がそうさせるんだ」
エリック父の物言いに、お嬢様は反論できずただ下を向いて黙った。
「エリザベス、今日はひとまず帰りなさい。そして今後、訪問するならきちんと手順を踏みなさい。セバスチャン、エリザベス嬢がお帰りだ」
エリック父がお嬢様を諌める。話かけていたいた時は親戚のおじさん感覚だったのだろう。お嬢様の名前を敬称もなしに呼んでいたけれど、セバスチャンさんに指示する時はきちんと"嬢"とつけていた。これが立場あるものとしての使い分けか、と関心して見ていた。
セバスチャンさんは「さぁ、エリザベス様、玄関までお見送りします」と言うと、お嬢様つきのメイドも「これ以上のご迷惑はかけられませんよ。帰りましょう」と帰宅を促す。
お嬢様は「…本日はひとまず帰りますわ。でも!エリック様!私は納得してませんからね!」とエリックに向かって言い出した。エリックは「貴様のゆるしなど必要ない。さっさと帰れ。2度とくるな」と右手でシッシッと追い払う仕草を見せる。そんなエリックを「女の子に対する態度ではないぞ」とエリック父が咎める。
お嬢様はメイドに付き添われながら扉まで歩き、退室ざまに振り向いたと思ったら「またきますわ」と言って応接室を退室していった。セバスチャンさんは一礼し、その後に続いた。
エリック父は、先ほどまでお嬢様が座っていたソファーに脚を組んで座った。
「まさか父上がくるとは思ってもいませんでした」
「私も新しく迎えたいという鍛冶士を直接みようとは思ってはいたよ。だけど、エリザベスがまた勝手に暴走したから、予定が早まったけどね」
エリック父は苦笑いをした。
「11歳でアレでは、ご両親も大変でしょう」
「あぁ、甘やかして育てすぎだ。しばらく我が家にくるなとゼナに言っておく。マリも朝から迷惑をかけたね」
話をふられるとは思っておらず、「ぅいえ」と変な声が出た。恥ずかしい。
「マリ、鍛冶士を自分の下で働かせたいそうだね?」
エリック父は私を見つめて聞いてきた。
「はい。もしご迷惑をおかけするようなら出ていきます」
「いや、マリがつくる道具は希少だし私たちの生活を豊かにしてくれる。だから鍛冶士もここで働くことに異論はないよ。この別荘も、今はエリックが主な利用者だしね。ただ、その新しい鍛冶士とやらを直接みたいから簡単な面談はするけどね」
つまりは、ジェットさんもここで一緒に魔道具やらを作っていいとエリック父から許可がおりたということだ。私はソファーから立ち上がり「ありがとうございます」とエリック父に頭をさげた。
「必要な設備は鍛冶士に聞きながら準備するよ。さぁ、エリック。その鍛冶士を連れておいで」
エリックは立ち上がり、「マリも行くぞ」と私の右手を掴んで立ち上がらせた。エリック父とジェットさんの面談に、私はいない方がいいかと思い、エリックに続いて応接室から退室した。もちろん、退室時の一礼は忘れずにした。




