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努力を飲み込む才能

絋人は開戦の合図が鳴ると共にまずは先手必勝と攻めようと一歩目を踏み込もうと試みた。

だが、眼前に映る薙刀を構えた天海を見て一瞬で踏み留まった。

(……先手必勝で行こうと思ったんだが、カウンター狙ってるな)

踏み留まった絋人を見て天海は少し笑みを溢す。

(先手必勝で来ると思ったが、俺の構えを見て止まったか。結構冷静だな)

もしも正面から無策って突破を考えているなら叩きのめしてやる、と考えていた。

だが絋人は既にその行動でとても痛い目にあっている。

先手は取ろうと思ったが無策で飛び込む真似はしない。

しかも天海の得物は薙刀。

剣士同士の立ち会いとは別物だ。

圧倒的にリーチが異なり一般的には懐が深い天海有利と見る意見が多かろう。

だが絋人にはそれくらいの間合いは問題なし。

中途半端ではなく一気に加速するとあえて正面から天海にぶつかりに行く。

(━━━!何を考えている。だが正面から来るなら叩きのめすのみ)

迎撃の体制を取る天海。

カウンター覚悟での攻めの姿勢なのだが絋人からすれば十分打算はある。

(これくらいの間合いなら、俺も戦える)

だが意外と言うべきかそうすんなりとはいかなかった。

しっかりと天海の間合いに入った瞬間に、薙刀による斬撃が差し迫った。

それ自体感知は出来た為、身体を翻し対処は可能だった。

しかし場当たり的な対処までしか出来ない。

角度やタイミングなど工夫してずらしての攻撃を試みるが、その悉くが完璧に封じ込まれそれよりも内側に攻め入ることが出来なかった。

絋人の攻撃の速さ、天海の防御力。

卓越した両雄の攻防に会場もボルテージが上がってくる。


『月島選手、果敢に攻めますがその全てを完璧に天海選手により封じられています!それどころか天海選手は現状1歩たりとも動かず軸足で方向転換をするのみ』

『これが彼の強みです。あの間合いこそが天海選手の強さの象徴といえます。あれを破るには圧倒的な火力、もしくは天海選手の反応より速く動けるのであれば或いは分かりませんね』


「凄い反応速度。真田くんでも突破は難しい?」

「剣士であるなら尚更な。間合いが深い上にあの反応速度。おそらく今は小手調べとして反撃はせず敢えて防御に徹している。あれにカウンターが付与されればキツいな。こう言うのは強引にスピードと勢いで潰す方が楽だろう。そう言う意味では俺たちより荒川の方が相性は良いと思う」

「いや~私レベルじゃ殺されちゃうってば。でもまぁ……真田くんの言う戦法は私のスタイルを突き詰めたら相性が良いってのは本当だと思う」

「しかし月島はまだ色々使っていない。そこが通用するか否かが肝だな」



しばらく防御に徹していた天海だが、カウンターも織り混ぜつつ攻撃を繰り出す。

(ッ!結構速い)

さらに半歩間合いが遠くなる。

カウンターは防げてはいるが、それ以上の侵入がより難しくなってきた。

前後左右と様々な攻撃も次々凌がれ続ける。

「どうした月島!こんなもんじゃないだろ」

天海は絋人の才能に期待した様子で声を上げる。

だが一方の絋人は冷静にヒット&アウェーで攻撃を繰り出し続ける。

およそ1分程度打ち続けたがいきなりビタっと攻撃を止め元の位置に着いた。

「!?……どういうつもりだ」

怪訝そうな顔を見せる天海。

突然戦闘を停止されたら驚きもするし警戒もする。

それに対して絋人はやや笑顔混じりに告げる。

「解析が終わったんで、一気に行かせてもらいますよ」

そう宣言し、一つ深呼吸をすると━━━()()()

「!?」

対面する天海はその変化に気が付き警戒心を一気に高めた。

(何だ、急に気配が変わったぞ)

そしてそれは客席に座る刀士も気付いた。

(まさか、既に自在に入れるようになったのか!?)

そんな二人を他所に、絋人は徐に1歩歩き出し━━━天海の懐に入り込んでいた。

「━━━ッ!!!」

そして既に絋人の【狐月】の鋒は上段から正中線を狙うように振り下ろされていた。

何とか柄を真横に向けて一撃を受けとめることはできた。

だが、


(重た……すぎる!!)


受け止めきれず片膝を地面に着かせてしまった。

体格的には天海の方が遥かに有利であり、絋人は鍛えているとはいえ筋肉量で言えば天海に遠く及ばないと言っても差し支えはない。

そんな天海が力で負けている。

そんな状況に会場はざわつき始めた。

「………ッ!!!舐めるなよ、月島ァ!!」

気合いで刀を振り払うと攻勢に転じる。

間合いを活かした突きや払い、更には魔力の放出など全力を投じている。

元々のフィジカルと薙刀の技術で押しきる戦い方をしていた天海なのだがそれでは決勝トーナメントに進めないと悟った。

この一年間血反吐を吐くような修行を経て魔力を併用する戦い方を習得した。

つまりは今大会に向けての修行の集大成と言ってもよい代物であり、同じ生徒会メンバーである更木梢も初めて見る。

では何故隠し球と言って良いここまで出したのか。

それは天海昴の本能が感じ取った恐怖心に他ならない。

(時間をかけてはダメだ。一刻も速くコイツを倒さないと)

だがその思惑とは裏腹に天海の攻撃は全く絋人に届く気配がない。


『こ、これは物凄い猛攻です!昨年までは見せていなかった魔力と薙刀の併用!我々も完全初見ですが、月島選手は全く意に介さず回避し続けている!!会長、これはどうご覧になりますか?』

『恐らく、ですが。月島選手は天海選手の攻撃を無意識で回避しているようですね』

『む、無意識で回避……ですか?』

『はい。そういう技術があるんです。もし月島選手が使用している技術が私の想像しているそれ━━━【刹那の見切り】であるならば、天海選手は相当不利と考えます』

『【刹那の見切り】ですか。初めて聞きましたがどのようなものなのでしょう』

『ざっくり言えば考えるのではなく感覚で相手の動きなどを読み取り行動するという技術です。ですが、プロの騎士でも使える者は限られておりますし、学生ともなれば【天下五剣】クラスでないと習得は出来ないと思ったのですが……既に到達していそうですね』



その言葉通り天海の戦況は最悪だった。

(クソ、攻撃が当たらないし見えない)

こちらがいくら魔力や薙刀での猛攻を仕掛けようとも全くと言って良いほど通用しない。

その上で絋人の攻撃も見えずジワジワとダメージを蓄積させられる。

腕や脚、腱など致命傷にならない攻撃が次々と天海の身体を蝕んでいく。

殺したり後遺症が残るほどの大ダメージ禁止というルールが逆に天海を苦しめるという構図になっていた。

それもこれも【刹那の見切り】に自在に入れるようになったことで成立している。

ただ【刹那の見切り】を破るのに天海の攻撃じゃ遅すぎるし火力も足りない。

結果的に防戦一方という状況に自ずと陥っていった。

対して絋人は現状を冷静に評価する。

(良い感覚だ。【刹那の見切り】を落とし込めてる感じがする。それに限定的な【加速世界】も思いの外上手く使えている)

まだまだ及ばぬ点は多いものの、確実に課題を克服し身に付けてきた。

まだ試合開始5分程度。

ルール的に決着は早々が望ましい。

「副会長、申し訳ないですが━━━終わりです」

そう告げると絋人を覆う魔力が更に輝きを増す。

そして一気に加速すると真正面から勢いそのままに刀を振り下ろす。

その気配を感じた天海は薙刀を水平に頭上へと構えて受けとめようと画策する。

しかし運動エネルギーも相乗されたその一撃は、受け止めようとした天海の薙刀の柄を真っ二つにした。

淀みなくまるで豆腐に刃を入れるかのごとく勢いを全く殺すことなく、袈裟懸けの様に刃が天海の身体を通過した。

直後天海の胴着は破れそこから出血する。

「…………ッ!!」

呆然とする天海はそのまま膝を地面につき崩れる。

だが視線だけは絋人から外さない。

「ま、まだ……だ」

何とか立ち上がろうと震える手足を懸命に動かす。

まだ眼は死んでいないがこうなってはこれ以上の反撃は困難。

非情ではあるが絋人は一言冷たく言いはなった。

「━━━実戦なら、もっと深く刃を入れてました」

「!?」

それはつまるところ手加減をしたと言う宣言だ。

この屈辱的な宣言に怒りすら覚える。

それは絋人にではなく弱い自分に対してだ。

騎士として、騎士を目指す者としてこれ以上ない屈辱を覚えた。

だがこれ以上恥を上塗りするわけにもいかない。

「……ッ!!……降参、だ……!!」

振り絞るようにして宣言をした。


『しょ、勝負ありーーー!!何と何と一年生月島絋人選手がいきなり天海選手を撃ち破る大金星を上げましたーー!!』

ウォォォォっと会場も盛り上りを見せるなか更木梢は冷静に感想を述べる。

『いえ、私から見れば大金星なんてものではありません。天海選手には申し訳ありませんがあれは純然たる実力差に他ならない。そう言わざるを得ないほど月島選手は圧倒的でした』

『更木会長にそこまで言わしめるとは……凄まじいルーキーです月島選手』


会場の熱狂が覚め止まぬ中、絋人は救護班に囲まれる天海を横目に一足早く舞台から降りて退場する。

その際には更に大きな拍手や歓声が浴びせられた。

控え室に戻ると上着を脱ぎ上裸になり汗をふく。

その中で先程の戦いの反省を早速始める。

(まずは【刹那の見切り】と【加速世界】が最小限の負荷量で使えたのは良かった)

没入の程度に差異はあるが自分の意思で自由に【刹那の見切り】に入る。

これは絋人がこの予選、及びこの先の本戦に向けて習得しておきたいトピックスであった。

まずは最低限をクリア、と言った所だ。

そんな感じで反省会をしていると控え室の扉がノックされる。

「月島、俺だ」

「入って良いぞ」

絋人の了承を受けると試合前と同じように刀士が控え室に訪ねてきた。

ただ試合前と異なるのは、


「お疲れ様月島くん」

「凄かったよ。まさか副会長をあんな一方的に打ちのめすなんて」


労いの言葉と共に凛と小夜子が入室する。

「ありがとう。ちなみにそんな一方的だったか?」

「最初の方は副会長の防御とカウンターが凄かったけど、えーっと【刹那の見切り】だっけ?あれに入ってからは副会長の勝ち目は無いなって感じの立ち回りだったかな」

「私も小夜子と概ね同じ意見ね。【剣聖】との戦い以降初めて見たけど、完全にミスマッチだったと言わざるを得ないくらい実力差はあったと思う」

やや友人と言うバイアスはあるだろうが、客観的な意見を聞いて頷く絋人。

「なるほどね。まぁ実際【剣聖】との戦いを経験してなかったら、多分もっと苦戦してたし無傷じゃなかっただろうな。特にあの魔力を用いた猛攻の併用。あれがまだ未完成だったから助かったって部分も大きいな。正直こっちの【刹那の見切り】も未完成だし相性の部分もありこっちに天秤が傾いたって所かな」

そう言う絋人にはどこか余裕すら感じることが出来た。



一方その頃天海昴は。

担架からストレッチャーに移されて医務室へと向かっていた。

目まぐるしく変わる天井を眺めながら絋人とは対照的に奥歯を強く噛み締め苦しい表情を浮かべている。

正直どこかで慢心があった。

どんなスーパールーキーだろうと所詮は1年生。

この3年間の悔しさを晴らすべく死にものぐるいで修行をした自分が下級生に負けるはずがない。

実際試合が始まって1ー2分程度は自信を持って対応は出来ていた。

凄まじい精度と速さを兼ね備える攻撃は全て凌いでカウンターも出せた。

後は攻勢に転じるのみと思っていたが、考えが甘かった。

明らかにギアが上がった絋人の動きに全く対応が出来なくなった。

その実力は更木梢達━━━【天下五剣】のそれに匹敵する。

故に直感が伝えた。

目の前に居るのはただのスーパールーキーじゃない。

歴史を塗り替えるレベルの実力者であり、唯一勝てるとすれば今この瞬間しか訪れない。

だから一切の出し惜しみはなく全てをとしたが、全く手に届く範囲に彼は居なかった。

あまつさえ、ルールによって命を守られると言う屈辱。

この敗北は一生忘れることはできず心の底に深い傷を与える事となった。



試合が終わった選手はそのまま残って試合を見続けるか、帰宅して静養するか選ぶことが出来る。

選手によっては治療や手術が必要となることもあるための措置である。

絋人はいち早く先ほどの戦いを振り返り研究したいという思いに駈られ帰宅を選んだ。

刀士達にその旨を告げた時は苦笑いをされながら「らしい選択だ」と付け加えられた。

会場の熱気が漏れ出るなか一人寮への道を歩んでいく。

「そう言えば焔はどうなんだろうな」

何となく気になった絋人は簡潔にメッセージを送ってみる。

今日の自分の結果と焔はどうなのか。

会ってはいないもののやはり結果は気になる。

メッセージを打ち込んだ端末をしまい、やや駆け足で寮へと戻った。

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